1 2-2 0-15 勝ったどー!
「勝ったどー!」
優梨愛ちゃんが全日本ジュニアの14才以下の部で、見事に優勝しました。
……優梨愛ちゃんって、勝てたんだ。否、優勝できたんだ。
私と出会ってから二年近くの間で、優梨愛ちゃんが優勝したところを見たことがなかったので、優勝できるとは思いもよらなかったよ。
シンガポールから帰国した直後に行われた、関東中学生テニス大会でも、SFで負けちゃってたしね。まあ、中学一年生でSFまで勝ち上がれるだけでも、大したものではあるのだけれど。
ちなみに、関中を制したのは萌香ちゃんでした。彼女は一皮剥けたような感じがしますね。
きっとシンガポール遠征で、何かを掴んだのかも知れません。
それにしても、明日あたり、雪でも…さすがに、真夏の炎天下で雪はないか。明日あたり、雹か霰でも落ちて来るのか?
思わず西と南の空を見上げて、雲行きを確認してしまったではありませんか。
もしかしたら、今日は善戦の女神さまが、お盆休みで何処かに出掛けていたのかも知れませんね。
まあ、冗談はさておき、ここは素直に優梨愛ちゃんの優勝を祝福しましょう!
こんな慶事は、優梨愛ちゃんには、もう二度と訪れないかも知れない珍事なのですから。
随分と酷い物言いの気もしますけど、優梨愛ちゃんがジャンジャンバリバリと勝ち進んで何度も優勝をするイメージが、どうしても浮かばないのだから仕方ないよね?
それにこの優勝は、優梨愛ちゃんのライバルがワールドジュニア本戦に出場するのためにチェコに行ってしまい、実力者が三人も不在だったのも大きかったと思うのです。
だから、この大会は家主不在の、空き家のようなモノだったのかも知れません。
つまり、空き巣狙い。
U-14世代のライバルが出場していれば、優梨愛ちゃんはSF止まりか準優勝だった可能性もあったと思いますしね。
まあこれは、タラレバですので仮定の話をしても、結果は変わらないのでした。
ここは本当に素直な心で、優梨愛ちゃんの優勝を祝福しましょう!
「優梨愛ちゃん、優勝おめでとー!」
「たまきー! やっと勝てたよー! 嬉しいよー!」
「うんうん、良かったね」
「あたしって、いつも善戦止まりだったから、もう優勝できないんじゃないかと、半分ぐらいは思ってたんだよ」
すまん、優梨愛ちゃんが優勝できなかったのは、半分ぐらいは私のせいでしたね。
涙を流しながら、私に抱き付いてきた優梨愛ちゃんを受け止めたのだけど、私も感動して思わずもらい泣きをしそうになってしまったよ。
というか、優梨愛ちゃん本人も、善戦マンの自覚はちゃんとあったのね。
抱き付かれて改めて思ったのだけど、昨年に比べて、優梨愛ちゃんとの身長差が少し開いたように思うぞ?
現在の私の身長が、148cm位なのに対して、優梨愛ちゃんは、156cm近くあるような気がしますね。
まあ、中学生は成長期なのだから、一時的に身長の差が開くこともあるのでしょう。
でも、クラムジーにならないのかな? 優梨愛ちゃんを見ているとあまりそんな気配は感じられませんね。
これは、急激に身長が伸びたからといって、クラムジーになるかどうかは、個人差が大きいのかも知れません。
器用と不器用や、繊細と鈍感が関係しているのかな?
つまり、優梨愛ちゃんの自称繊細というのは、真っ赤なウソと判明しました。
たぶん、優梨愛ちゃんは器用で鈍感なんだよ。
それよりも、優梨愛ちゃんは胸も結構、育ってきている感じがしますね。
ええ、抱き付かれた時に弾力を感じましたので。
ええ、故意ではありません。これは、不可抗力というヤツですね。
ついでに、くんかくんか。
汗く…あまり汗くさくない…だと?
汗臭くなくて、逆にほのかに、柑橘系の匂いまでしているぞ。
そうか、これは制汗剤の匂いが混ざっているのか。
優梨愛ちゃんも気を遣うお年頃になったということでしたか。
私も汗臭いとか言われないように気を付けねば。
それで肝心の、決勝のゲームスコアはといいますと、セットカウントは2-1で、その中身は、2-6、7-6(6)、7-5という結果でした。
勝ったとはいえ、決勝でのトータルのゲーム数では、16対17で負けているんだよね。でもそこが、なんだか優梨愛ちゃんらしいなぁという気がして、思わずクスってしちゃいそうになりました。
それにしても、このクソ暑い中で二時間以上も試合を戦って、優梨愛ちゃんも対戦相手も、よくもまあぶっ倒れなかったよなぁ。
ある意味、そのスタミナと強靭な肉体に感心してしまいますね。
私だったら、途中で嫌気が差してリタイアしている自信があるわー。
だから、私はさっさと試合を終わらせたんだしね。
しかし、この優勝を経験した、勝利の美酒の味を知ったことによって、優梨愛ちゃんも決勝や準決勝での負け癖から、脱却できるかも知れませんね。
ちなみに、萌香ちゃんは16才以下の部に出場して、QFで敗退してしまいました。でも、高校生相手に善戦したとも言えるのかな?
萌香ちゃんが負けた相手が優勝した選手だったというのも、ドローの巡り合わせが悪かった気がしますしね。
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全日本ジュニアで優勝したことによって、優梨愛ちゃんもようやく善戦マンから脱却できて、よかったよかった。
そう思っていたのですけど、現実はそう甘くはなかったようでした。
「まーけーたー」
「善戦マンに逆戻りだね」
「やかましい!」
全国中学生テニス大会、いわゆる全中で、優梨愛ちゃんはQFで負けてしまったのである。
全日本ジュニアチャンピオンになれたことによる、気の緩みだったのか?
それも多少はあるのだろうけど、答えは概ねにおいて、ノーと言えるだろう。
中三は早生まれしか出場できないU-14と比べて、全中は普通生まれの中学三年生も大挙して出場しているのだから、優梨愛ちゃんがQFで負けることも普通にあり得るのだ。
全日本ジュニアでは、中三の選手は早生まれの子しか出れなかったし、しかも、その中でもトップスリーはチェコに遠征中で不在だったしね。
逆に、全中で中一の優梨愛ちゃんがQFまで残れたことが、彼女の非凡な才能を表してるとも言えるわけでして。
ちなみに、萌香ちゃんの全中での成績は、惜しくも準優勝でした。優勝したのは千葉県の選手で、関東ジュニアランキングも萌香ちゃんよりも上の選手です。
でも、その選手に関中では、萌香ちゃん勝っているんだよね。
つまり、関中の仇は全中で!みたいに、リベンジされたということでしたか。