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1 2-1 40-40a 環希は環希


 現在、紀伊半島沖を飛行中です。

 成田までは一時間弱といったところでしょうか?



「もし、スーパージュニアに出場できなかったとしても、同じ週にバンコクでG2の大会があるから、それに出場するという手もあるわね」


「なるほど、空き巣狙いってことですね!」



 萌香ちゃん、空き巣なんて言ったらG2大会に失礼でっせ。

 まあ、超一流の選手は、スーパージュニアの方に出場して、バンコクのG2大会に不在なのは、事実なんだけどさ。


 でも、実力があってこれから伸びてくる選手が、大勢参加するはずの大会なんだから、G5で準優勝を一回しただけの萌香ちゃんでは、苦戦する場面も出てくると思うぞ。



「言葉は悪いけど、似たようなものね。でも、G2だから、今回のシンガポールと比べて、ドローの面子が強くなるのは間違いないわよ?」


「腐っても、G2はG2ってことですかぁ」


「そうなるわね」



 腐っても…… やべっ、私ってば、駄洒落思い付いちゃったよ。

 ……タイに失礼だから言わないでおこう。


 いやー、つくづく自分の才能が怖くなるね。


 しかし、タイのバンコクか。ノンタブリーにあるLTATのテニスセンターで開催されるのだから、ワールドジュニアのアジアオセアニア予選と、たしか同じ会場のはずだったよね。

 これは、優梨愛ちゃんは大阪のスーパージュニアではなくて、バンコクのG2大会に出場したほうが、なにかと都合が良さそうな気がしますね。


 G2大会の翌週には、同じ会場でG4大会も開催されるのだから、上手く行けば優梨愛ちゃんは二週連続で、ノンタブリーのコートを経験できるチャンスということだ。

 優梨愛ちゃんがワールドジュニアの予選に出場する気があれば、という但し書きが付くのだけれども。今年の二月に落選したことで、代表に対して隔意を持っていなければ良いのだけど。


 でもこれは、どちらかというと、ママが対処する問題のような気がしますね。



「ママ、私もバンコクに連れて行ってくれるの?」


「仮にバンコクに行くとなっても、今度はダメ」


「なんでさー」



 ぶうぶう、ブウ垂れるぞ。

 今回のシンガポール遠征だって、ちゃんと二人の役に立ったと自負しているのに。


 そうだ! バンコクがダメなら、マレーシアのサラワクにしよう!

 こっちも、ちょうど同じ週に、G3大会が開催されているのだから、都合の良いタイミングだったよ。


 え、そういう問題ではない?


 でも、言うだけならタダなんだし、言っておいても損はないよね。



「じゃあ、サラワクのクチンにしようよ。こっちならG3大会だし、G2のノンタブリーよりも空き巣狙いがしやすいよ。それに、バンコクじゃないから良いでしょ?」


「まったく、ああ言えばこう言うだなんて、一体全体誰に似たのよ…… 確かに、サラワクも選択肢の一つだけど、それでも環希はダメ」



 口が達者なのが似たのは、ママに似たんだよ。たぶん。


 でも、ちゃんと対戦相手との力関係とかも熟慮して考えた、いいアイデアだと思ったんだけどなぁ。ママは強情ですね。

 G2よりもG3の方が、相手の面子が楽になるのは、自明の理なのにね?



「えー、行きたいー」


「環希は学校があるでしょ? だから、もしそうなったとしても、今度はお留守番よ」



 おうふ。シンガポール旅行の帰りなので気が緩んでいるのか、すっかり学校のことを忘れていたよ。

 まだ、夏休みも一ヶ月残っているのだから、学校のことが頭から抜け落ちていたとしても仕方ないよね!



「学校なら、萌香ちゃんにも優梨愛ちゃんにもあるじゃん」


「環希は環希。坂巻は坂巻で、里田は里田」



 むぅ、あまり我儘を言って、ママを困らせるのも大人げないですし、ここは大人しく引き下がりましょう。

 前世も入れたら、私は十分立派な大人なんだしね。



「そういえば、学校があるんだった!」


「優梨愛ちゃん、素で忘れてたの?」


「いままで国内の大会は、平日やることが少なかったから」


「ITFジュニアサーキットだと、そうも言ってられないもんね」



 そう、ITFジュニアサーキットの大会は、学校の授業ある平日でも関係なく開催されるのである。

 ジュニア選手の学校教育には、まったく配慮されていないスケジュールなのだ。


 というか、選手に配慮した日程を組んでいたら、ジュニアサーキットそれ自体が成り立たないので、初めから学校や教育の二文字とは切り離されているのです。

 それに、一つの大会を一週間で集中して開催しないと、逆に選手の負担も増えてしまいますし、海外から色々な選手が集まらなくなって、ジュニアサーキットの意味がなくなりますしね。


 その分、年齢によって大会への出場数を制限して、バランスを取ってはいるのですがね。


 13才は年間で10大会まで、14才は14大会、15才は16大会までしか、年間でITFジュニアサーキットの大会には出場ができないのだ。

 この他に、ランキング上位に入ると出場できる数が加算されたりもするのです。


 13才でランキング50位以内に入ると+4大会の出場が可能になる。

 14、15才は20位以内に入ると+4大会という具合ですね。


 16才になると、一気に出場制限は緩和されて、25大会まで出場が可能となる。

 この、年間で25大会という数字は、実質的には、ほぼ制限がないのと同じである。


 それで、17才からは無制限になります。



「二人のタイかマレーシア行きも、保護者である親御さんが良いと言ってくれたら、という前提での話よ」


「お父さんとお母さんの説得から始めないといけないのかー。気が重くなるよ」


「あたしも、今から気が重いです」



 そうかな? 今回のシンガポールの大会で、ちゃんと実績も残せたことだし、意外にすんなりと親の許可は下りそうな気がするのだけどな。

 それに、海外遠征の費用は、ママが立て替えているのだから、とりあえず二人の家庭には、経済的な負担も最低限しか圧し掛かってはないはずだよね?


 問題は、学校がある時期に海外遠征をしたら、学校を休みがちになるから、そのことによる勉強への影響を心配してということか。



「それは、コーチである私からも、ちゃんと海外遠征のメリットを説明するから、二人はあまり心配しないでも大丈夫よ」


「お願いします」


「コーチ、頼みました!」


「でもそうなったら、9月から11月の合計で、最大6週間も平日に学校を休むなんて、優梨愛ちゃんも萌香ちゃんも、まるで不良娘みたいだね」



 学校をサボってバイトばかりしている、苦学生とも似ているのかも知れません。

 あっちは、生活費を稼ぐために、こっちはポイントを稼ぐために。


 うん、似てるようで、似てなかったよ。



「誰が不良娘よ、誰が」


「でも、6大会も平日に出場すれば、そう思われても仕方ないのかもね」


「環希、その6大会という数字はどこから出てきたの?」


「秋に日本で開催されるジュニアサーキットの数だけど?」



 うん? 違ったかな?

 でも、日本で出場する代わりとして、同じ週にタイやマレーシアに行ったとしても、数は変わらないのだし。



「これから秋にかけて、近場では、中国に韓国、それに台湾でも、ジュニアサーキットは開催されているのだから、出ようと思えば、もっと出れるわよ」


「あー、そういえばそうだったね」



 そう考えると、ほぼ毎週のように、東アジアや東南アジアの何処かで、大会は開催されているのでしたね。

 べつに、日本で開催される数に拘らなくても良かったのか。


 ジュニアのうちから、アジアでのドサ廻りを経験しておくと、シニアに上がってから苦労するのが多少は緩和されそうですし、ジュニア時代に経験することも悪くはなさそうですよね。



「そんなに沢山の大会に出場したら、学校の勉強が遅れそうで怖いよー」


「ですよねー」


「あら、ちゃんと学業と両立させている子も中にはいるのよ?」


「うへー、マジですか?」


「テニス少女は辛いよ……」



 まあ、うへーってなる、その気持ちはわかるよ。でもね?



「二人とも、テニスも勉強も本人の気の持ちようなんだよ」



 勉強とテニスを両立させているとは言っても、ちゃんと学校に通っているとは言ってないのが味噌ですけど。

 出席日数? 気にしたら負けだよ。


 出席日数はギリギリでも、テストで点を取ればいいんやで。

 とか、無責任に言ってみる。


 それに、山手女学院の場合は、海外遠征は海外での授業と見做して、出席扱いにしてくれるはずだしね。

 萌香ちゃんの中学校の場合は知らん。



「小学生のたまきちゃんに諭されてしまった」


「萌香さん、あたしたち中学生の立場ないですよね」


「環希が生意気言ってるけど、言っていること自体は間違ってないわね」


「確かに、気の持ちようは大事ですね」



 うんうん、何事も為せば成るの精神だよ。

 つまり、時間外で勉強を頑張ってね!


相変わらず試合描写がないテニス小説…

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