表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/246

1 2-1 40-15 萌香ちゃんが一緒の理由


 それで、Team Madokaに所属していない萌香ちゃんまで、なんで一緒に行動しているのかといいますと、これが聞くも涙、語るも涙の世知辛い事情があったのです。

 そう、主に人間の懐を痛めさせる、あの忌まわしき腹痛…じゃなくて、金銭的に懐を痛めさせる経済的な事情ってヤツが。


 つまり、コーチを遠征に帯同させると、その分、お金が余分に掛かるのですよ。

 民間のテニスクラブやスクールの経営者やコーチというのは、なにも慈善事業で、ジュニア選手のテニスコーチをしているのではありません。


 経営者はスクール生を募集し集金して、従業員であるコーチやスタッフに給料を払わねばなりませんし、コーチにも奥さんや子供達とか家族がいて、生活が掛かっているのです。

 だから、コーチが自腹を切ってまでして、ジュニア選手の海外遠征に付き合うことは、ほぼあり得ないのです。自分が担当するジュニア選手が余程の逸材とかであれば、将来の先行投資として、自腹を切ることも稀にはあるみたいだけど。


 だから、コーチを帯同させる場合は、基本的に選手がコーチの遠征費も負担するのが普通なのです。

 しかし、ごく一般的な家庭が、そんな頻繁にコーチを帯同させてまで海外遠征をしていれば、そのうち経済的に困窮してしまい、破産してしまいますよね?


 だから、スクールでは、数名のジュニア選手を一纏めにして、海外遠征をさせてたりしているのです。

 そうすれば、選手一人一人に掛かる費用は頭割りとなり、負担は分散されますので。


 また、それぞれのテニスクラブで違いはあると思いますけど、スクールのコーチング料というのは、上級コースになればなるほど、月謝も高くなるのです。その分、練習時間も長くなるので当然ではあるのですがね。

 上級コースにスペシャルコースとか、ジュニア特別コースやプロフェッショナルコースなど、スクールによってコースの名前はまちまちだったりもしますが。


 その月謝の幾分かを、選手の遠征時におけるコーチの帯同費として、始めから計算しているのかも知れません。そうすれば、遠征時には新たにコーチの分は負担しないでも済むのですから、お得感は出る気がしますね。

 また、あらかじめ遠征等を想定していて、幾分かを月謝に上乗せをしている場合もあるかも知れません。この場合は、月謝が少しお高くなるのかな?


 そして、その上級コースの下には、中級や初級コースとかが当然ありまして、言葉は悪いですけど、上級コースの養分になっているとかいないとか?

 あと、一般の素人ママさん初心者とかが、養分でしょうか?


 それらの養分を集めてプールしておき、上級ジュニア選手が自費で海外遠征する時に、帯同するコーチの遠征費として捻出したりもするのです。

 なにやら、ワンコイン制度に通じるものがありそうな、システムの気がしないでもない。


 これらのやり方は、そのジュニア選手が所属する各スクールで、それぞれやり方は違うと思いますけど、概ねこんな感じで行われていると思っても差し支えないでしょう。


 それで、肝心の萌香ちゃんも一緒に遠征している訳ですけど、その理由は、ママが誘いました。

 ある時、ウチに練習に来ていた萌香ちゃんが、愚痴をこぼしたんだよね。


「ITFのジュニアサーキットに出たいけど、海外遠征になるから、お金が掛かるのがネックなんだよねぇ」


 そう、萌香ちゃんがぼやいたことに端を発して、それを聞きとがめたママが、


「萌香ちゃんの出世払いでということで、私が立て替えてあげましょうか?」


「いいのですか?」


「将来、萌香ちゃんが出世した時にコーチ代で回収するから」


「わたしが出世しなかったら、どうなるのです?」


「そうなったら、チャラ。私に見る目がなかったのだと、立て替えたお金は潔く諦めるわよ」


「返さなくても良いのですか?」


「他の人は知らないけど、私の場合はね」


「それで、お願いします!」


「それじゃあ、今度、お母さんを一緒に連れて来なさい」


 こう、悪魔の囁きをしたのであります。


 この悪魔の囁きにまんまと乗ってしまった、哀れな子羊…じゃなくて、萌香ちゃんは、プロになった暁には、ママをコーチにする契約を結ばされてしまったのであります。

 ケチなママのことだから、お金をドブに捨てるような真似はしないはずなのである。将来はきっと、萌香ちゃんが出世すると算盤を弾いたのでしょう。


 私も萌香ちゃんは、将来、インターナショナルは勝てそうな気がすると思っていますし。

 プレミアは、本人のこれからの努力次第ということで。


 それで、萌香ちゃんがこういう形で海外遠征をすることになったので、じゃあついでとばかりに、優梨愛ちゃんも一緒に連れて行こうとなったのです。

 優梨愛ちゃんは、7月4日生まれですので、夏休み前には13才の誕生日を迎えたから、ちょうど良いタイミングで、ITFジュニアサーキットの出場資格を得られたのである。


 しかし、優梨愛ちゃんのお母さんは、「まだ娘には海外遠征は早いのでは?」とか、色々な面で少し心配をしていたのです。

 予選敗退とかだったら、あまり海外での経験も積めなくて、半分以上はお金をドブに捨てるようなモノだしね。


 でもママが、海外遠征に掛かる費用の事なら心配いらないとか、口八丁手八丁を繰り出して、優梨愛ちゃんのお母さんを言い包めてしまいました。


「若いうちから海外遠征を経験することは、きっと将来において役に立つ」


「お子さんの実力ならば、海外のジュニア選手が相手でも通用する」


 優梨愛ちゃんのお母さんを陥落させた、とどめの一撃は、このセリフでした。


「お子さんが、グランドスラムに出場している姿を見たくはありませんか?」


 こうして、ママに言い包めてしまった優梨愛ちゃんも、なし崩し的に、萌香ちゃんと同じような条件を結ばされてしまったみたいですね。

 うん。ママは、怪しげな訪問販売のセールスマンでも、食べて行けそうな気がするよ。


 いくらウチが裕福とはいっても、萌香ちゃんと優梨愛ちゃん二人の費用を抱え込んでしまったので、さすがに、これ以上のジュニア選手の面倒は看きれないので、ママの篤志家稼業は、二人で打ち止めみたいですね。

 海外遠征をする度に、50万とか、もしくはそれ以上のお金に羽が生えて飛んで行くのだから、こればかりは仕方ないよね。


 あと、人数を増やしすぎると、ママの目が届かなくなるというのも大きいのかな?


 それで、話を萌香ちゃんに戻しますが、現状での萌香ちゃんは、海外遠征をする時に限って臨時で、Team Madokaに加わっているのです。

 今現在、萌香ちゃんが所属しているテニススクールが、お金を出しているわけじゃないしね。というか、萌香ちゃんは恐らくこのまま、今のスクールを辞めてウチに来るんだろうなぁ。


 海外遠征の費用を出してくれる、パトロンみたいなママがいるのに、お金を出してくれないスクールに、そのまま在籍しているのも気まずいだろうしね。

 しかし、いままでも萌香ちゃんは、ウチにちょこちょこと練習に来ていましたので、二つのテニスクラブを掛け持ちしていたようなモノでしたから、今更の気がしないでもない。


 もっとも、いままでの萌香ちゃんからは、ウチは授業料を取ってないのですがね。

 反対に私の練習相手、ヒッティングパートナーをしてもらっていたので、そのお礼にお小遣いとして毎回千円をあげていたのです。あくまでも、名目上は交通費としてだけどさ。


 それに対して、優梨愛ちゃんからは、月に二万とか三万とかのコーチ料は、ちゃんともらっているよ。

 正確な金額は知らないけどさ。


 週のうち四日か五日はママが教えているのに、さすがにそれをタダという訳にはいかないしね。

 でも、ママのコーチ料を時給に換算したら、最低賃金以下なのかも知れない……


 けど、それは言わぬが花ということで。

 有料で指導しているスクール生は、今は優梨愛ちゃん一人だけなんだし、仕方ないよね。


a 養分

b 悪魔の囁き

c セールスレディ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ