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1 2-1 40-0 ママはコーチ


「よーし、今日はここまで。身体はちゃんとほぐしておけよー」


「「ありがとうございました!」」


「二人ともお疲れさまー。はい、タオルとスポーツドリンク」



 部活のマネージャーの真似事をしている庭野環希です。

 シンガポールには深夜に到着したので、午前中一杯はホテルでゆっくりと休んで、午後からの練習となりました。



「たまきちゃん、ありがと~」


「アンタにしては気が利くわね」



 優梨愛ちゃん、「アンタにしては」これは、余計だと思いますよ?

 ITFジュニアサーキットの大会を明日に控えて、軽めの練習を終えたところです。


 今回、ITFジュニアサーキットに初めて参加する、優梨愛ちゃんと萌香ちゃんは、当然ながら、ポイントはゼロからのスタートである。

 だから、予選からの出場となります。


 まあ、予選とはいっても、登録選手の人数が少なかったからなのか、一試合だけ勝てば本戦に出場できるのだけどね。

 これが、参加人数が48人以下だったら、本戦にダイレクトインできたりもするのですけどね。ドローを見ていたら、登録人数が少ない大会がたまにあるのですよ。


 そう、今回のシンガポールのG5大会のドローは、48だったりするのです。

 これが、64ドローだったら、確実に本戦ダイレクトインだったのになぁと思わなくもない。けど、これは詮無きことでしたか。



「ストレッチをしながらでいいから、聞いてちょうだい。明日は、ITFジュニアで初めての試合だからといって、べつに緊張する必要はないぞ」


「緊張するなと言っても、緊張しますよぉ」


「萌香さんと同じで、あたしも緊張しています」


「とは言ってもな、坂巻も里田も同世代では、かなり強いということを自覚しているか?」



 うんうん、ママの言うとおり、二人とも日本では同世代の選手と比べても、トップレベルの実力を誇っていると思うぞ。



「それは、まあ、そこそこ強いとは思いますけど……」


「日本国内の同学年との比較では、強いとは思いますけど」


「うん、ママの言うとおりだよ。優梨愛ちゃんも萌香ちゃんも、心配しなくても強いんだよ」



 もっと、自信を持ってもいいんやで?

 世界のトップレベルで戦う選手は、傲慢なぐらいがちょうど良い気がしますしね。


 戦う前から対戦相手を見下して、相手を飲む。飲まれた相手は委縮してしまい、実力を発揮できないまま敗れてしまうとかありますもんね。

 己に絶対の自信を持っているとか、格好良いじゃん。



「アンタに言われてもね」


「うんうん。わたし達は、小学生のたまきちゃんにすら勝ててないんだよ」


「環希に負け続けているから、二人とも自信が持てないと?」


「はい」


「そういうことです」



 私のせいとか、なんでやねん。

 今回だって、全小をキャンセルしてまで、二人の練習に協力してたのにぃぃ!



「この娘は、ちょっとアレだから脇に置いておくとして、日本のジュニア選手は、けして弱くないぞ」



 また、アレ言われたし。

 さすがに温厚なたまきちゃんでも、そのうちグレるぞ。



「けして、弱くはない。ですか?」


「そうよ。その事実に、U-14とU-16の国別対抗戦では、毎年好成績を残しているだろ?」


「あ! そういえば」


「……そうでしたね」


「それで、その日本代表に選出された子とは、対戦したこともあるだろ?」



 なるほど、ママが言いたことが読めてきたぞ。ママも回りくどい言い方をするわ。

 でも、この方法だったら、自信を持たせるのには効果はありそうですね。



「小学生から数えて何回もあります」


「あたしは学年が下だから、数えるほどしかないけど、対戦したことはあります」


「で、その子との対戦成績はどうだったかな?」


「何度か勝ったことあります」


「そういえば、あたしも勝ったことあるんだった」



 でもこれって、子供の口喧嘩の論法と変わらない気がしないでもないような?

 ○○は△△に勝ったんだから、○○に勝ったことある自分も、△△よりも強い。


 でも、この論法は、すべて仮定の話なのだから、不毛な論争が続く場合もあるんだよね。



「それで、今大会のグレードは何だったかな?」


「G5ですね」


「なるほど、コーチが言いたいことが分かりました!」


「日本のジュニア選手は、ITFジュニアでも、G2やG1までは普通に通用するわよ」



 そう、それはママの言うとおりであって、日本国内でそこそこランキング上位のジュニアは、本当にそのまま世界でも通用するのだ。

 超一流以外の相手とならばという、但し書きは付くのだけれども。


 しかし、高校生ぐらいからは、外国の選手の追い上げが始まって、シニアになると力関係が逆転されたりもするのだ。

 これは、外国のジュニア選手と比べて、子供時代の練習環境が整っているのと、日本人のジュニアの成長が早いのが起因しているのだと思います。



「グレードAは、どうなんですか?」


「さすがに、GAは血の滲むような努力をしないと厳しいわね」


「やっぱりそうですよね」


「ですよねー」


「なんせ、未来のツアーランキングで、上位に顔を覗かせる連中がゴロゴロといるはずだからな」



 まあ、GAクラスの大会になると、将来においてグランドスラムを勝つような、有望なジュニアも中には混じっているのだから、厳しい戦いにはなるだろうね。



「しかし、今回の大会はG5なのだから、自分に自信を持て」


「「はい!」」


「それに、相手と対戦すれば分かるが、全日本ジュニアの方が厳しい戦いだったと理解できるはずだ」


「「はい!」」


「だから、普段の実力を発揮できれば、最低でもQFとかまでは結構楽に行けるはずだ」



 そこは、決勝を二人で戦うつもりで頑張れとか言うところなのでは?

 まあ、現実的に考えて、いくらG5とはいえ、QFまで勝ち上がってきた相手がそんなに弱いわけはないか。



「なんだか、やれそうな気がしてきました!」


「あたしもです!」



 言葉のマジックって、意外と馬鹿にならないような気がしますね。


 やればできるは、魔法の合言葉。


 なるほど。コーチというのは、ただ単に技術的な指導だけではなくて、選手のメンタルも指導管理して、モチベーションを向上させたりもするのか。一つ勉強になったよ。

 ママがちゃんとコーチをやっているのを見て、少し感動してしまったよ。普段、家で接するママばかり見ていると、どうしてもね?


 でも、発想がブラック企業と似たり寄ったりの、精神論の気がしないでもない。


『俺はできる、俺はできる、俺はできる! 俺はやればできるぞぉぉ!』


 うん、怪しいセミナーとも同じ匂いがするかも……


サブタイ


a 自己啓発セミナー

b 精神汚染

c 洗脳

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