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243話 変な人物が登場


 千葉県柏市 テニス研修センター




「あーあ、優梨愛ちゃんってば、安易に返しすぎだよ」



「ゲーム、サカマキ」



「坂巻選手にダウンザラインを決められてしまいましたね」


「ま、そうなるわな」



 ファイナルセットの第9ゲーム、萌香ちゃんのダウンザラインが決まり連続でのブレイクに成功して、現在のスコアはワンブレイクアップの5-4と逆転して、次のゲーム萌香ちゃんのサービングフォーザマッチになります。

 私は記者さんと、あーでもないこーでもないと駄弁りながら、引き続き二人の決勝戦を観戦しているところであります。


 ちなみに、記者さんから自己紹介を兼ねて貰った名刺には、【月刊ダウン・ザ・ライン編集部 山田太郎】と、書いてありましたので、本当に本名なのか思わず聞き返してしまったけど、私は悪くありません。

 記者さん改め山田さんは、「よく聞き返されます」そう笑いながら、免許証も見せてくれました。


 マジで本名だったよ……

 あえて、ザ・モブみたいな名前を付けなくてもいいのに、とか思わなくもない。


 そして、月刊ダウン・ザ・ラインは、我が家でも毎月購読しているテニス雑誌でした。

 まあ、私の場合は、パラパラと流し読みして気になった記事のページだけ、じっくりと読むような感じなんですけどね。



「ふぅ、庭野選手の予想通りに、坂巻選手がブレイクバックして追いつき、さらに逆転しちゃいましたね」


「優梨愛ちゃんがミスしたその隙を見逃さなかった萌香ちゃんは、さすがだと思うよ」


「庭野選手は坂巻選手がダウンザラインで返してくるのを解っていたと?」



 解っていなければ、世界の強豪選手を相手にして勝負にはならないんだよ。

 テニスとは、いかにして自分が都合良く対戦相手のミスを誘うように動かせるのか? それが勝負の大半を占めている競技だと思いますので。



「優梨愛ちゃんが、楽な返球を選択しちゃったからね」


「庭野選手だったら、今のはどうやって返しましたか?」


「私だったら、今のはクロスに返さずにバックのダウンザラインに持っていきますね」


「ダウンザラインですか? あのボールだとネットに引っ掛かりませんか?」



 うん、技術的に未熟な選手だったらネットに引っ掛けるだろうね。

 また、そうなりやすいような配球を萌香ちゃんが仕掛けているのですよ。



「今のクセ球だったら、私でも二割か三割の確率でネットに引っ掛ける可能性はあるかな?」


「庭野選手の実力でも三割近くは失敗するんですね」


「だけど、失敗を恐れていたら、獲るモノも得られなくなってしまいますよ」


「ハイリスクハイリターンの選択のような気もしますね」


「まあ、ある程度ハイリスクなのは認めますけど」



 失敗を恐れていたら、獲るモノも得られなくなってしまいますしね。って、声に出していないだけで、ループしてるじゃん!

 でも、突き詰めていくと結局のところ、そこに辿り着いちゃうんだよね。


 虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言いますし、勝負どころではリスクを取りに行ってポイントを奪わないと、試合には勝てないということです。



「だから、里田選手はネットに引っ掛けるのを恐れて、クロスに返したんですね」


「そう返すように誘導していたから、優梨愛ちゃんは萌香ちゃんの術中にまんまと嵌ってしまったということだよ」


「坂巻選手はいつから誘導していたのでしょう?」


「7球前、つまり最初からだね」


「リターンからもう既に仕掛けていたのですか……」



 ここまで戦略的に組み立てられるのであれば、萌香ちゃんは今年中にトップ100入りも不可能ではなさそうな感じがしますね。

 テニスとは、性格が悪い腹黒い人間のほうが有利に試合を運べるスポーツなんですよね。


 もっとも、勝つためには腹黒いだけではなくて、技術的にも高いレベルが要求されるのは当然ですけど。

 まあ、今日の対戦相手が手の内を知り尽くしている優梨愛ちゃんだからこそ、上手く嵌ったというのもあるのかも知れませんが。



「萌香ちゃんは、早ければ今年中にトップ100に食い込んでくるかもね」


「グランドスラムの本戦にストレートインできる順位ということですか?」


「そう、早ければ全米オープン、遅くとも来年の全豪オープンでは本戦ダイレクトインできているはずだよ」


「それは楽しみですね」



 こうして、萌香ちゃんの成長を目の当たりにすると、アナスタシアと対戦しても結構いい勝負ができて、三回に一回ぐらいは萌香ちゃんが勝てちゃいそうな気がしますね。

 ええ、ほぼ確実に。


 私もうかうかしていられなくなってきました。

 油断していたらいつ何時、萌香ちゃんに寝首を掻かれるか分からない、それぐらい萌香ちゃんのレベルは上がってきているのです。


 まあ、それでも萌香ちゃんと対戦することがあれば、全力で叩き潰してあげるんですけどね!



「今のサーブは良かったね。あれは男子でもまともに返せないはずだよ」


「あんな遅いサーブが男子プロに通用するとは、とても思えないのですが?」


「ちっちっち、それが不思議と通用したりもするんだよねぇ」


「そうなんですか?」



 そりゃあ、200km/hオーバーのフラットサーブも速いから、対応しづらいのは事実ですけど、サーブの本質は角度と回転にあると思います。



「セカンドサーブのポイント練習でサナダさん相手に、140キロの緩いサーブでもエースを取れたりもするんだよ」


「まさか!? マイケル・サナダを相手にして、庭野選手がセカンドでサービスエースを取れるとは、にわかには信じられません」


「まあ、普通の感覚なら信じられないだろうね」


「庭野選手には失礼になるかと思いますけど、実際問題として女子のトップ選手の実力は、男子のランキング700位ぐらいのレベルとか聞いた覚えがありますよ?」



 テニス選手の男女の実力差は、500位~700位ぐらい離れた差があるとか良く耳にする話ですね。

 その事実に、全盛期のウィンストンがランキング200位台の男子選手とエキシビションで対戦して、ボコボコに負けたとか昔あったような気がします。


 また、ウィンブルドンで優勝した直後のメドベージェワが、IEMの練習試合でジュニア時代の西織に手も足も出なかったとかいった話もありましたね。



「個人差や相性の問題もあるから一概には言えないけど、私個人の感覚で言えば、もう少し上かな?」


「もう少し上ですか? 具体的には?」


「男子選手に対して失礼な物言いになるけど、私だったらフューチャーズの15k25kですら優勝できずに、万年ドサ廻りをしているような選手が相手なら、まず間違いなく勝てるよ」



 練習で私と何度か対戦したことのある男子のジュニア選手が、昨年のU-18全日本ジュニアでベスト4に進出しているんですよね。

 その子は私との対戦でボコボコとまでは行かないにせよ、私がそこそこ楽に勝てている相手なんですよ。


 まあ、三回連続で叩きのめしたら、調子が狂うとか言って、もう相手をしてもらえなくなっちゃったんですけどね。てへっ。

 それで、全日本ジュニアのU-18でベスト4の実力がある選手というのは、世界ランキングでいっても700位台の実力は最低でもあるはずなんだよね。


 つまり、私 > 男子U18ベスト4 ≒ 男子世界700位。

 こんな感じの方程式が成立するというわけですな。



「ほう? 飛ぶ鳥を落とす勢いの環希ちゃんであったとしても、男子プロとしてそれは聞き捨てならないセリフだな」



 なんか、小物臭が漂う変な人物が登場しちゃったよ!

 こういうのを、三下とかやられ役っていうのでしたっけ?



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― 新着の感想 ―
[一言] 三下を倒す➡ 「なんと 三下が おきあがり なかまに なりたそうに こちらをみている!」➡ 新たなヒッティングパートナーをゲット
[一言] テニスじゃなく野球の記者になれば選手にウケる名前かも おっさん限定だから今の若い選手にはわからんかもだけど がんばれがんばれド◯ベン!
[気になる点] かませ犬さんが将来の環希ちゃんの生涯の伴侶になったりは…ほら、わかばちゃんの父親になる線も微レ存?
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