240話 なにしに来たのよ?
千葉県柏市 テニス研修センター
「じゃじゃーん! マイアミオープンチャンピオンの私、颯爽と登場!」
「おおっ! たまきちゃんの背後にキラキラと輝くエフェクトが見えるよ!」
そう、私が横浜の自宅から二時間近くも掛けて、わざわざTTCに顔を出したのは、テニスの練習をするためでも研修を受けるためでもなくて、ITFサーキットの25k大会がTTCで開催されていたからなんですよね。
正式名称は、かしわ国際オープンテニストーナメントとかだったかな?
私たちテニス選手って、大会の開催される場所の地名プラス大会のグレードで呼ぶことが多いから、ちゃんとした正式名称ってあまり覚えないんですよね。
長年にわたって大会のスポンサーになっていて、スポンサーの冠名が付いた大会とかは、スポンサーの名前がそのまま大会名として通用したりもしますが。
「マンダトリーに勝ったからって、調子に乗ってるのが来たぞ」
「萌香ちゃんはノリが良いのに、優梨愛ちゃんは冷たいんだから!」
「あー、はいはい。さすたまさすたま」
「省略しないで、さすがは環希ちゃんだね、凄いね!とか言ってよ!」
それはそうと、優梨愛ちゃんと萌香ちゃんの二人は仲良く揃って、かしわ国際オープンのシングルス決勝まで進出していたのです!
いやー、二人とも着実にレベルアップしているようで、お母さんは嬉しく思います。
萌香ちゃんに至っては、元トップ100の選手を破っての決勝進出なんだよね。
現在は調子を落としてランキングも下がったから、25kのドサ廻りをしているとはいえ、元トップ100に入っていた強豪選手を相手にして勝つことができたのは、萌香ちゃんの自信になったことでしょう。
このまま行けば、萌香ちゃんは今年中にグランドスラムのシングルスに出場できそうな感じがしますね。
柏25kの決勝に進出したことによって萌香ちゃんのランキングポイントは、最低でも286Pが確定で優勝したら306Pまでポイントが伸びるのだから、グランドスラムの予選には、ほぼ確実に出場できる見込みでしょう。
ネットでライブランキングを閲覧してみると、286Pはランキング254位で、306Pは243位になります。
そして、グランドスラムの予選に出場できる目安のランキングである230位は、328Pぐらいでしょうか?
つまり、萌香ちゃんがグランドスラムの予選に出場するのに必要な残りのポイントというのは、今日の決勝で優梨愛ちゃんに勝って優勝できれば22Pで、準優勝でも42Pとなるのです。
全米オープンまでの間にポイントをディフェンドする大会は、来週の大阪25kしか残っていない。これがかなり大きいと思います。
それにプラスして、萌香ちゃんのランキングポイントは14大会分しか消化していないので、あと2大会でポイントを加算できる余地が残っているのですよね。
あと、10P以下でポイントが加算されている大会も4大会あるから、10P以上のポイントを稼げれば上書きされて、それらもランキングポイントに加算されるので、萌香ちゃんのグランドスラム予選出場は、ほぼ確定となるのです。
ついでに、アナスタシアもコロンビアの25kで決勝にまで勝ち残っていましたので、アナスタシアもグランドスラムの予選出場は当確でしょう。
優梨愛ちゃんは、今日優勝できたとしても、166Pまでしかポイントが伸びないので、ランキングも358位ぐらいまでしかジャンプアップできないから、グランドスラムへの出場はまだ少し厳しいかな?
もっとも、私やアナスタシアが規格外なだけであって、普通に考えたら優梨愛ちゃんの高校二年生という年齢で、ランキング358位というのは十分以上に凄いことなんだよね。
そう、優梨愛ちゃんと同年代の選手の大半は、まだジュニアサーキットに出場している段階なのだから。
「それで、環希は何しにわざわざTTCまで来たのよ?」
「スルーされたし! 一ヶ月ぶりの再会だというのに優梨愛ちゃんってばヒドい!」
「優梨愛ちゃん流の愛情表現なんだよ」
「萌香さん、それ違いますから。それで、環希は何をしに来たのよ?」
「春休みで暇だったから、二人の決勝を観戦しにきたんだよ」
この二人の対決を見逃すだなんて、あり得ないということで、TTCまで駆け付けた次第であります。
まあ、ちょうど都合良く麻生さんがTTCに行く用事があったので、それに便乗して私がTTCまで赴いたとも言えるわけなんですが。
麻生さんという足がなければ、電車を二度も三度も乗り継いで二時間掛けて、わざわざTTCまで行くのかといえば、正直微妙でしたね。
立ったまま二時間近くも電車に揺られるだなんて、苦痛やねん。
満員電車に乗ってストレスを感じないでいられる、人間の平均的な我慢の限界は20分とかっていう、データもあるみたいですしね。
それと、柏25k大会はネットでもライブで試合を配信をしているのだし、それを自宅で見ていた可能性のほうが高かったかな?
新横浜で新幹線に乗り換えて、品川か東京で特急ときわに乗れば、常磐線の柏まで一時間で行けるんだけど、それも特急ときわの時間とタイミングが合えばという話ですしね。
それに、新幹線と常磐特急には特急料金が掛かるので、普通電車に乗って小机から柏に行くのと比べたら、2800円と三倍近くお金も掛かりますし、柏駅からTTCまでのタクシー代も余分に掛かるのだから、お財布には優しくない行程の組み方でしたね。
TTCの最寄り駅は、つくばエクスプレスの柏の葉キャンパスか柏たなか、または常磐千代田線の北柏なんだけど、特急ときわも停車しないし乗り換えが余分に増えるんですよね。
だから、私が一人でTTCに行く必要がある場合には、新幹線と全席指定で座れる特急ときわに乗って柏まで行くと思います。
今の私にとっては、2800円も280円ぐらいの感覚で使えちゃいますので。
うむ、私も出世したものだよ。
「暇だからって、アンタねー。そこは嘘でもいいから、応援しに来たって言いなさいよ」
「応援だと、二人のどちらかを選ばなければいけなくなるでしょ?」
だから、中立的な立場で二人の試合を観戦するということで、観戦って言葉を選んで使ったんだよ。
観戦武官とかいう言葉もあるぐらいだからね!
でも、よくよく考えたら、観戦武官って凄いよね?
戦争を人殺しの現場を観戦しているんだよ?
もっとも、戦争もパワーゲームの一種だし、ゲームには変わりはないということなのかも知れませんね。
戦争をしている当事者からすれば、「ふざけるな!」といった感じだとは思いますけれども。
「そうでもないよ? ファイナルを戦う二人を応援するって感じでも、応援は応援なんだよ」
「な、なるほど…… そういえばそうだったかも」
「たまに環希の日本語は少し変な時があるからなぁ」
「たまきちゃんは、ボッチを拗らせちゃってるから……」
環希だけに、たまにって、やかましいわい!
どうやら、私の日本語力はネイティブではなかったみたいでした。
日本人のはずなのに、解せぬ。
それに、私はボッチでもないよ! ……ないよね?
ないと思いたい…… 少し自信なくなってきたけど……
「ということで、二人とも頑張ってねー!」
「ベストは尽くすけど、最近の萌香さんは一段上のレベルに上がっちゃった感じがするからなぁ」
「カンクンでは優梨愛ちゃんに負けちゃったけど、今度は絶対にわたしが勝つ!」
「あたしも最初から、負けると思って試合に臨むわけではありませんから」
そっか、ITFでの二人の対戦は、昨年のカンクン15kでの決勝以来になるのか。
これは楽しみな一戦になりそうな気がしますね!
この三人の絡みってめっちゃ久しぶりの気がするw




