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1 1-1 40-30 じゃじゃーん!


「じゃじゃーん! どうだ、山女の制服は?」



 季節は巡り、四月になりました。


 私は五年生になって、優梨愛ちゃんは中学一年生になりました。

 優梨愛ちゃんは、スポーツ特待生という名の下のコネで、無事に山手女学院に潜り…げふんげふん。無事に山手女学院に入学する事ができました。


 それで、山女の制服が着れて嬉しいのか、優梨愛ちゃんは私に見せびらかすように、スカートの縁を摘まみながら、クルっとその場で一回転してみせたのです。

 肩に掛かるか掛からないぐらいの長さのポニーテールが、春の暖かな日差しに揺れて、とても絵になっていて可愛いですね。


 ちょっと照れくさそうに、はにかんだ笑顔から覗かせる、小さめの八重歯もキュートだと思います。

 これで、気弱そうに見えるやや垂れがちなまなこに、左目の斜め下に泣きぼくろまであるのですから、犯罪的な破壊力であります。


 優梨愛ちゃんをおかずにして、丼ぶりでご飯三杯は行けますよ!


 しかし、実際の性格はといいますと、かなり強気な性格なんだけどね。また、それぐらい強気な性格でなければ、これからの将来では、世界を相手にして戦っていけないだろうし、アスリートにとっては必要な性格なのだと思います。

 でも、その位置の泣きぼくろって、色々な面でなにかと苦労しそうな気がしないでもない。


 私? 私は猫系の顔なんだよ!



「おー、可愛いじゃん! 似合ってるよ、馬子にも衣裳ってヤツだね!」



 やや薄黄色掛かったクリームホワイトのブレザーで、縁には、黒のラインが入っているのがポイントですね。ポケットの縁も黒のラインが入ってます。

 セーラー服時代の名残りを残したかったためなのか、グレーに白三本の風除けの襟が付いてます。


 スカーフはワイン色に黒のチェックが入っていて、太めのワンタッチのリボンタイだから、自分で結ばなくても最初から綺麗な蝶々の形をしています。

 スカートは薄いネイビーブルーと薄いグレーの色をした、チェックのスカートになります。わかるかな?


 私の貧困な語彙と表現力では、これが精一杯の説明だったぜ。

 私にファッションセンスを期待されても困りますしね。


 しかし、ホワイトやクリーム色って汚れが目立ちそうだから、汚れたら大変そうですね。

 それに、一歩間違えれば、コスプレの制服にも見えないこともない気がする。


 でも、女の子には人気の制服なんだよね。目立つクリーム色なのにアクセントは地味目で、派手すぎないのが良いからなのかな?



「アンタねー、それって褒め言葉ではないから!」



 えー、馬子にも衣裳って褒め言葉じゃなかったの?

 私的には、褒め言葉の気がするんだけどなぁ。



「そうだっけ? でも、どうせ直ぐにジャージに着替えるんだから一緒だよ」


「環希は、女心の機敏が分かってないなー」



 なんでやねん。ジャージ女子かっこいいやんけ。


 前世が男だったから、それがまだ抜け切れてないし、私に女心を見抜けと言われても困りますよ。

 それに、ジゴロでも色男でもなかったんだからさ。



「そんなことよりも、県大会まで時間がないでしょ? 練習、練習!」


「それもそうだった。ちょっくら着替えてくるわ」


「りょーかい」






 ※※※※※※






「よーし、五分休憩! ちゃんと水分補給しないさい」


「「はーい」」



 優梨愛ちゃんがウチに来てから、練習時間が30分伸びて、七時半までになりました。優梨愛ちゃんも八時前には家に帰り着けるので、宿題をやる時間も寝る時間も確保できるようになったのです。

 STCで練習していた頃よりも、「一時間以上余分に寝れて幸せ」とか蕩けた顔で言ってましたので、ウチに来れて良かったみたいですね。


 子供にとっての睡眠とは、体の成長を促すためにも、とても大切な時間なのですから。



「そういえば、県大会は何処でやるの?」


「準々決勝からは、新横での試合だぜぇ!」



 あらま、ご近所さんでやるのでしたか。



「おー、ハードじゃん! 珍しいこともあるもんだ」


「予選と三回戦までは、オムニなんだけどね」



 まあ、そんなもんでしょうね。QFからとはいえ中学生の県大会が、ちゃんとしたハードコートで行われる方が稀なのだから。

 逆に言えば、よく新横のコートを確保できたとも思わなくもない。少しは風向きが変わってきたのかな?



「それで、何日にやるの?」


「QFから決勝は、ゴールデンウイークの5月5日、子供の日だったかな」


「一日で三試合もやるの?」


「一セットマッチだからね。それも、8ゲーム先取じゃなくて、6ゲーム」



 ああ、なるほど。一セットマッチでしたか、それも6ゲームとは……

 つまり、実質的には2セット先取の3セットマッチをフルセットで行うのと同じということだ。


 ようするに、勝ち進めばセットごとに相手は変わるけど、一試合分と変わらないようなものなのかも知れない。

 試合時間は短くて済むけど、中学生になってまで、6ゲームはなんだかなぁって気がしないでもない。


 それはそうと、ゴールデンウイークの私の予定には、テニスの試合は入ってなかったから、ちょうどタイミングが良かったみたいだね。



「すぐそばだから、応援に行くよ!」



 新横浜公園テニスコートは、私の家から徒歩で10分も掛からない近所にあるのですから、非常に便利な場所にあるのです。

 便利な場所ではあるのだけれども、豪雨や台風の時に水没するんだよね。まあ、元々が鶴見川の氾濫防止のために造られた遊水地なのだから、仕方がないのだけど。


 私の家も、堤防がなかったら浸水していたのかも? 半世紀以上前には、二万戸とかの家が水浸しになる洪水とかも起こっているみたいですしね。

 でも、元々そういう土地だと分かっているから、私の家は用心の為に自宅前面の道路よりも、1.5mは地面をかさ上げしてあるのだ。


 私の家の話は別にどうでも良かったか。


 ようするに、公営のテニスコートとかは、河川敷や遊水地とかに造られることが多いという事である。

 空き地の有効活用ってことなのかな?



「もう既に、あたしのQF進出が前提なのね」


「三年生が多いとはいえ県大会なんだから、優梨愛ちゃんの腕ならQFまでは楽勝で行けるでしょ!」


「簡単に言ってくれちゃって」


「この前の、U-14選抜の関東予選でも準優勝したじゃん」



 そう、春休みであった先週に千葉の九十九里で開催された、全国選抜ジュニアの14才以下の部で、優梨愛ちゃんは惜しくも準優勝に終わったのだ。

 どうやら優梨愛ちゃんは、順調に善戦マンの道を歩んでいるみたいですね。


 色々な大会で私との決勝で負け続けてしまったから、決勝での変な負け癖でも付いてしまったのかと少し心配になるぞ。

 ちなみに、この大会の12才以下の優勝は、当然ながらも私だったりするのですよ。


 私の学年が一つ上がったのもあるのだろうけど、終始接待プレイをする破目になってしまったのが、残念でしたが。



「あれは、4月から12月生まれの中三がいなかったのも大きかったんだよ」


「あー、それはあるのかもね」


「アンタねー、神奈川って全国屈指の激戦区の一つなんだよ? それ解ってる?」



 私や優梨愛ちゃんのランキングが高いから忘れそうになるけど、そういえばそうだったよ。


 ノーシードの場合では、全国でも通用するような強豪選手を、何人も倒さないと上位には入れなかったんだ。

 下手をしなくても、全国大会の一回戦や関東予選の二回戦とかよりも、強い相手と神奈川県大会のQFやSFで戦う破目になるのが、神奈川県という場所だったよ。


 つまり、神奈川県大会でベスト8止まりの選手は、全国大会では通用しないのか? そう問われれば、答えはノーだ。これが、通用したりするのだ。

 ベスト4×47都道府県=188人。ベスト8×47都道府県=376人。神奈川県でベスト8の選手が、この189位から376位の間の強さの選手という事にはならないのだ。


 神奈川県は人口が多いのもあるのだろうが、テニスで強い選手が出やすい土地柄なのである。他の都道府県でも、やはり人口が多い、東京や大阪、千葉、埼玉、愛知などから実力のある選手は生まれやすい。

 これは、人口が多い=テニス人口も多い=底辺が広いという構造なのだろう。テニスの強豪選手は、概ね人口の多い都府県から生まれるのである。


 その証拠に、現在、私が一位である12才以下の関東ジュニアランキングで見てみると、ランキング上位20人のうち、神奈川県所属の選手が私を含めて5人いたりするのだ。

 これを上位30人まで広げると11人にもなる。20位から30位までの選手のうち6人が神奈川県だなんて、想像以上に実力がある選手が大渋滞していたわ。


 つまり、関東ジュニアランキングで30位以内には入れたとしても、神奈川県ではベスト8ですら3人は確実にこぼれ落ちるのである。

 そりゃあ、全小や全中で、関東では神奈川や東京の、全国では関東の枠が優先されるわけだわ。


 うん、納得した。


 前年度の実績とかにもよるけど、栃木や群馬の関東大会での枠なんて、64の枠の中で2枠とか3枠とかしかないもんね……

 それでも、突然一人だけ強い選手が他の地方から現れて、全国大会の優勝を掻っ攫っていったりする年もあるのだけれどね!


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