235話 ホールインワン!
シュレジンガーリゾート マイアミ・コーラル・ゲーブルズ・ゴルフコース
「お? おおっ!?」
「これは…… もしかして、入っちゃう?」
「入りそうですね」
「行けっ!」
「カモン、カモン、カモン……」
そして、みんなが見守る中、ボールはそのままラインに乗って、カップへと吸い込まれていきました。
「ホールインワン!」
『おおっ! エースだ!』
「ワーオ! アンビリバボー!」
「すげぇ……」
どやぁ! 私がちょっと本気を出せば、こんなもんお茶の子さいさいよ。
まあ、まぐれなんだけどさ。
でも、ワンピン以内に落とせたら、カップに入る可能性はグっと高くなるので、プロゴルファーがホールインワンを達成する確率って結構高いみたいなんですよね。
それと、ホールインワンよりもアルバトロスのほうが、達成する確率は天文学的に低い数字なんや。
そう、アルバトロスを達成するのと交通事故に遭う確率でいったら、圧倒的に交通事故に遭う確率のほうが高いぐらいには、アルバトロスを達成するのは至難の業なんですよ。
プロのゴルフツアーでも、年に一度や二度とかの割合じゃなかったかな?
数年アルバトロスが出ない時もあるみたいだし、男子に比べて飛距離が短い女子の場合だと、さらにアルバトロスを達成する難易度が高いんですよね。
パー5の第2打、残り250ヤードとかの距離からカップに直接入れることを想像すれば、その難易度が理解できることでしょう。
というか、私のホールインワンの話が優先だったわ。
「麻生さん! いまのちゃんと撮れてる?」
「ちゃんと撮れているとは思いますけど、ズームの倍率的に少し遠目からの描写になっているとかと」
「おーけーおーけー、撮れているなら遠めでも全然構わないよ」
なんといっても、私の初めてだから、記録に残しておきたかったんですよね。
SNSにうpして、ドヤ顔で自慢しちゃいましょう!
今日の麻生さんは、私たちと一緒にゴルフをプレーしているのではなくて、撮影係をしています。
ゴルフをプレーしているのは、私とサナダさんにカールお爺ちゃんとエミリー伯母さんになります。
ほら、ゴルフって一応は最大で4サムまでじゃん?
あと、シュレジンガー家の親睦ゴルフという意味合いもあるので、麻生さんはプレーに参加しないで撮影係に回ったということですね。
最近は純ちゃんが撮影係をすることが多かったんだけど、シュレジンガー家に泊まったのは、完全に私のプライベートな用事なので、うさみんと純ちゃんは一足お先に日本へと帰国の途に就いてます。
私のプライベートの用事にまで、チームスタッフの手を煩わせて時間を取らせるのも悪いですしね。
ただし、私の保護者役&秘書役の麻生さんは除く。
だから、麻生さんが臨時で撮影係に復帰したというわけですな。
それで、うさみんと純ちゃんの二人には、私がマイアミオープンで優勝した御祝儀として、ちゃんとビジネスクラスのチケットを手配してあげたよ!
3400ドルぐらいと、一番安かったトロント経由の便だけど。
純ちゃんはプレエコでも十分なんだけど、二人をバラバラの席にするのも気が引けたので、ビジネスクラスになりました。
まあ、私が優勝できなかったら、二人ともプレエコでの帰国だったんだけどさ。
ということで、うさみんと純ちゃんの二人は、優勝した私に感謝したまえ。
「環希ちゃんは、ゴルフ選手に転向しても活躍できそうな気がしますね」
「俺もアソーさんと同じこと思ったわ」
「遊びでリラックスして楽しんでいるから、良いスコアが出ているんだと思うよ」
「タマキに限ってそれは無い」
なんでやねん。
プロのゴルフ選手だったら、電動カートに乗ってコースを回れないじゃないですかー。
毎日毎日、ゴルフで一日10km歩くとか結構な苦行だと思うぞ。
それも、一打一打のスコアの差で、賞金が上下したり予選落ちしたりするのだから、プロゴルファーも大変なんだろうなぁ。
だから、私の場合ゴルフは遊びでプレーするだけで、十分かな?
「タマキちゃん、本当にゴルフするの今日が初めてなの?」
「家の庭で、遊び程度にボールを打ったことは何度もありますけど、コースに出るのは今日が初めてですね」
そう、小机の自宅の庭には、30メートルぐらいの打ちっ放しがあるんですよね。
私や優梨愛ちゃんと萌香ちゃんが練習しているテニスコートの隣で、ほぼ毎日、お爺ちゃんが何百球とゴルフボールを打っているのです。
だから、私もテニスの練習やピアノを弾いていない時などに、たまに打ちっ放しで遊んでいるんですよね。
ネットまでの距離が30メートルと短いので、ドライバーやロングアイアンだとスライスしたとかまで、そこまでの判断は付きませんけど、遊びでやる分には十分な設備だと思います。
お爺ちゃんは、75歳でエイジシューターを目指すとかいって、張り切って練習しているのですよ。
アプローチの練習用にと、わざわざ砲台グリーンとバンカーまで造ってあるとか、どこの金持ちやねん。
あ、ウチは一応、小金持ち以上には裕福だったわ。
ちなみに、お爺ちゃんのベストスコアは、若い時に出した68だそうです。
お爺ちゃんは結構凄かった!
もう少し真面目に頑張っていれば、プロに成れたとかなんとかお爺ちゃんは言ってましたけど、そのあともう少しが厳しくて長い道のりなんだろうなぁ。
それに、プロテストに合格して晴れてプロゴルファーになったはいいけど、万年予選を通過できずにレッスンプロで食べている人のほうが、ツアープロよりも多いはずですしね。
テニスにせよゴルフにせよ、ツアーの賞金だけで食べていける選手というのは、ほんの一握りの選ばれた人間だけというのは、なんら変わりのない普遍的なモノだったようです。
しかし、日本国内の大会の賞金だけでも食べていける分、テニスよりもゴルフのほうが恵まれているような気はしますね。
まあ、プロゴルフのツアーの詳しい仕組みまでは知らんけど。
テニスだと、昨年に萌香ちゃんが優勝した日本で最高峰の全日本選手権でも、優勝賞金は500万とかなんですよね。
他の日本国内の大会だと、賞金総額が100万や50万の大会がざらとか、みんなどうやって食べているのか不思議なレベルの賞金だと思います。
賞金が出ない、草トーナメントに毛が生えた程度の大会も多いみたいですしね。
というか、プロも参加できる草トーが正解なのかな?
だから、普段はテニススクールのコーチやサラリーマンをしていて、テニスの大会の賞金は副業なのかも知れませんね。
つまり、テニスはグランドスラムやATP/WTAのツアーじゃないと、賞金が安すぎて食べていくには厳しすぎるんや……
「アンビリバボー、信じられないわ……」
「横浜のお爺ちゃんがゴルフ好きだから、よくテレビでゴルフ中継を見ているんですよ」
「タマキちゃんもそれを一緒に見ていて、ゴルフを覚えたと?」
「そうなりますね」
エミリー伯母さんは信じられないという顔をしているけど、一流のプロ選手のプレーというのは、見ているだけでも勉強になりますしね。
相撲や柔道とか日本古来の武術では、見取り稽古とかいう言葉もあるんだっけ?
もっとも、勘の悪いセンスの無い人には、見て覚えろというのは結構難しい気もするんだけどね。
ちゃんと勘所を抑えた正しいコーチングを受けたほうが、絶対に伸びるのは早いと思いますし。
まあ、だからこそ、コーチという職業が成り立っているのでしょう。
『一流のアスリートというのは、他のスポーツをプレーしても、そつなくこなすことが可能なのだな』
『オヤジ、タマキは例外だと思うぞ?』
「なんでやねん」
まあ、確かにイレギュラーな存在ではあるとは思うけどさぁ。
それでも、私にマラソンとか走らせたら、途中でリタイアする自信があるぞ。
頑張って走ったとしても、精々15kmぐらいまでが限界のような気がしますしね。




