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1 1-1 40-15 ジュニアランキングの価値


「しかし、協会も見る目がないよね」


「これじゃあ、準優勝した意味もなかったよ」


「まー、結果的にはそうだよね」



 お世辞ではなくて、本当に優梨愛ちゃんでもワールドジュニアの予選では、十分に勝負になると思うのだけどね。

 それは、優梨愛ちゃんと何度も対戦したことがある私だから、彼女の実力を正当に評価できるからこそ言えるのかも知れないけど。



「環希は、こうなることが分かっていたから、RSKには出なかったの?」


「いや、私が出てたら優勝するから、たぶん選ばれたんじゃないかな」


「優勝するのが当然なのね…… まあ、あたしが準優勝できたのだから、アンタなら優勝するんだろうけど」


「優梨愛ちゃんも優勝すれば、文句のつけようはなかったんだろうけどね」


「準優勝で悪かったわね!」



 協会も最初から、選考基準を完全にオープンにしていた方が、当落線上にいる微妙な立場の人が落選した場合に、その選手や関係者に恨まれなくて良いと思うのだけれどなぁ。

 つまり、ポイント制が分かりやすくて便利だと思うのですよ。


 私は12才以下のジュニアランキングで一位なのですけど、実はジュニアには明確な日本ランキングというものがありません。

 関東ジュニアランキングや関西ジュニアランキングなどに分かれているのです。


 だから、私の場合は関東ジュニアランキングで一位ということになるのです。関東と銘打ってはいますけど、べつに関東地方に在住していないと関東ジュニアに参加できないという訳ではありません。

 北海道や九州の選手が関東ジュニアランキングに参加したりもしていて、ランキング参加基準は適当なんですよね。


 ちなみに、今回ワールドジュニアの予選の代表に選ばれた三人の選手のランキングは、一人は関西なので比較にならないけど、残りのうちの一人の関東ランキングポイントは、二学年下の優梨愛ちゃんよりも下なのである。

 しかし、もう既にITFジュニアサーキットで善戦して実績は残しているのだ。


 ここに矛盾が生じる理由があるのです。


 だから、ITFジュニアサーキットに出場した選手が獲得したポイントも、50倍か100倍にしてランキングに反映させて統一してしまえば良いのです。

 これぐらいしないと、ジュニアのランキングには、本当の意味と価値は生まれないような気がするのです。


 もしかしたら、協会内部ではもう既に、シニアみたいに基準があるのかも知れませんけど。


 シニアの場合、日本国内のランキングポイント1Pに対して、ITFサーキットやATPとWTAのツアーで獲得したポイントを300倍に計算し直して、日本ランキングに反映させているのです。

 つまり、日本国内で行われるドメスティックな大会というのは、国際大会に比べて1/300の価値しかありませんよと、協会自身が暗に認めているとも言えるのである。


 話がそれた。



「優梨愛ちゃん」


「なによ? あらたまって」


「テニスは、なにも国別対抗の団体戦だけじゃないんだよ?」


「それはそうだけどさぁ」



 当たり前のことだけれど、テニスとは個人対個人で戦う、シングルスがメインのスポーツなのです。



「だから、シングルスで見返してやればいいじゃない」


「見返す?」


「あの時は申し訳なかったとか、土下座して代表に頼まれるぐらい、強くて実力のあるテニス選手になればいいんだよ!」


「ほうほう、環希もたまには良いことを言うじゃないのよ」



 環希だけに、たまにはって…… やかましいわい!


 それで、今回の代表選考に関して言うのであれば、けして、大人の事情とやらとか誰かを忖度したなどという、怪しげな派閥政治的な力学が働いたとは、思いたくはありません。

 ええ、けして、優梨愛ちゃんが、STCからTeam Madokaに移籍したことが、問題になっているとかではありません。


 それでも、視点を変更して、この問題を外部から見た場合では、また話が違って見えるのかも知れません。

 全日本ジュニアで準優勝した、将来が有望な選手である優梨愛ちゃんを、Team Madokaがというかママが、STCから強奪したとも見えるわけでして。


 しかし、テニススクールの所属を変更することは、選手個人の自由なのですから、外野があれこれと難癖を付けるのは筋違いなのです。

 ただ単に、優梨愛ちゃんの家と私の家が近かったから、移籍するだけなのにね?


 だから、スクールの移籍と代表選考は無関係であります。

 おそらく、きっと、だったらいいなぁ……


 でも、ママが般若のような形相で、怒髪天を衝く勢いでしたから、もしかしたら嫌味の一つや二つぐらいは言われたのかも知れません。


「金輪際、あんなくだらない代表の試合なんて、頼まれたって出る必要はない!」


 こうまで仰っておりました。本気で怒ったママは、マジで怖かったです。

 チビるかと思ったよ……


 いったい、誰に何を言われたのか怖くて聞けません。


 でもこれって、ママもハム子様と同じ立ち位置になってしまったみたいですね。

 まあ、私も含むところがないと言ったら嘘になりますので、これはこれで良かったのでしょう。


 それに、私は元々、テニスという競技に於いて、団体戦の必要性には疑問を感じていましたので、出なくても良いのならば、それに越したことはないということです。

 シングルスとダブルスという、個人かペアで行う競技を団体という枠にはめ込むこと、それ自体に違和感を覚えるのだ。


 国別対抗戦は、もう時代にそぐわないと思いますね。

 その証拠に日本では、グランドスラムは大人気なのに、デビスカップとフェドカップとかはあまり話題にも上りませんし、盛り上がっているのは一部の関係者のみという、お寒い事情があったりもするのです。


 その件のデビスカップとフェドカップは、ワールドカップと名称が変更されて、多少は人気が出てきたけど、やっている事といえば、内容は焼き直しで同じなのだ。


 テニス界のお騒がせ問題児であった、キレオス君もこう言ってました。


「テニスなんて、くだらないスポーツだ。つまらないし、オワコンのスポーツだ」


 言っていることは過激ですけど、まあ、半分は当たっている気がしますね。

 彼はテニスを取り巻く環境、周囲に居る大人たちに憤っているのだと思います。


 キレオスなだけに、きれっきれな危ない発言ばかりして、物議をかもしてばかりいましたけど、私は好きでしたね。

 ようするに、愛される馬鹿とでもいうのでしょうか?


 ダメな子ほど可愛い、といった心境と似ているのかも知れませんね。



「しかし、アンタは友達甲斐のない子だわー」


「なんで? さっきも、優梨愛ちゃんを励ましてあげたじゃん」



 優梨愛ちゃんは、さっきまでショックで泣いていた気がしましたけど?


「あたしもうテニスやめる!」


 こんな感じで本気で落ち込んでいた、優梨愛ちゃんを慰めたり励ましたりするのは、骨が折れる仕事だったんだよ。

 いや、本当に割とマジで。



「まあ、そうなんだけどさー。というか、環希ってあたし以外に友達いるの?」


「い、一応は、少ないけどちゃんといるよ!」



 こんな私にも、ちゃんと友達はいるのですよ。ええ、ちゃんと。

 たまに練習にくる、中学生や高校生のお姉さん達がちゃんといるのだから。


 これでも練習が終われば、可愛がってもらえているのです。

 だから、その人たちは友達といっても差し障りないよね?


 え? 同級生にクラスメイト? ……その子達ともちゃんと友達だよ?

 たまには、遊んだりもしたことありますし。



「見たことないのだけど?」


「それは、優梨愛ちゃんがテニスの練習をしている時の、私しか知らないからだよ!」



 そう、ジュニアの選手にとっては、日々の暮らしの中でもテニスを中心にして時間が回っているのです。

 だから、当然ながら、普通の子とかよりも遊ぶ時間というのは限られてくるのである。


 つまり、私に友達が少ないというのは、仕方ないことなのである。

 けして、私がクラスの中で浮いていて、ぼっちとかではないのだからね!



「ふーん…… まあ、そういう事にしておこうか」


「しといて下さい」


「でも、ありがとうね。きっと、いつかは見返してやるよ」


「あはは、なにくそって気持ちにはなれたでしょ?」


「まあね!」


サブタイ


a 1/300の価値

b 般若

c 怒髪天

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