229話 隣の芝生は青く見える
『──25kで弱い者イジメをして優勝して悦に浸るのと、WTA250のR16で負けて悔しい思いをするのとでは、どっちのほうがアナスタシアの実力を伸ばしてくれるでしょうか?』
手っ取り早くポイントを稼ぐには、25kとかのITFサーキットで弱い者イジメをすれば、ポイントは稼げるだろうけど、それでは強い相手と対戦したという経験値が稼げないんだよね。
まあ、今回のアナスタシアの場合みたいに、あと少しポイントを上積みできれば、グランドスラムの予選や本戦に入れるとかの場合であったら、大会のレベルを下げてポイントを稼ぎに行くのも、スケジュールの組み方としては有りなんだけどさ。
しかし、その行為はあくまでも緊急的な措置として、あまり多用しないほうが良いと思いますね。
そうでないと、上のレベルの大会に出場するようになってから勝てなくなって、直ぐにでも下部サーキットのドサ廻りに逆戻りすることになりかねません。
『つまり、ITFサーキットで楽してポイントを稼ぐよりも、積極的に250に出場してそこで揉まれろと、タマキはそう言いたいわけね?』
『そういうことだね。それに、250だったらまだ余分に三試合できる可能性があるんだよ?』
そう、R16の先には、まだQF、SF、決勝と勝ち進める余地が残されているのだから。
『ふーん、そういうふうに考えたことは、いままでなかったわ』
『ポイントも稼げる可能性があるし、お得に感じるでしょ?』
『お得…なの…かな? 相手関係が厳しくなるから微妙かも?』
歯切れが悪いですね。テニス選手にとってポイントを貯めれるチャンスというのは、スーパーのポイント2倍や3倍デーに嬉々として足を運ぶ、おばちゃん並みに重要なんだぞ!
『それにさ、たとえば700ポイントを持っている選手が二人いたとして、一人は250や500とかのR16やR32とかで負け続けて稼いだのが大半の700ポイントで、もう一人は25kや60kとかで優勝して荒稼ぎした700ポイント。
この二人が試合をしたとして、どっちの選手が勝つ確率が高いでしょうか?』
『それは、WTAツアーで揉まれたほうが有利でしょうね。同じ700ポイントでも、その質がポイントの中身が違うということか』
『そういうことだね』
発想とかモノの見方を少しずらすだけで、見えてくる世界というのは、ガラリと変わる気がしますね。
け、けして、私が捻くれているから、モノの見方が他人と違うとかではありませんのであしからず。
断じて、ないったらない!
『なるほど。これは是非とも、ボゴタとイスタンブールの250には出場したいわ』
『もっとも、マドリッドとローマが二週開催になったことで、その間の250が減らされちゃったのが痛いんだけどねー』
『250への出場を勧めておいて、オチはそれかい!』
『でもさぁ、ニュルンベルクやプラハとか時期がずれて、サーフェイスもハードに変わっちゃったりしてたよね』
ニュルンベルクはハンブルクに取って代わられたが正解なのかな?
『そうだったわね。そう考えると、96ドローの1000大会も出場できない選手にとっては、正直微妙なのよね。だから、私はアメリカの100kに出場するのが無難なのかなぁ』
『イスタンブールの250にインできなかったら、やむを得ないけどそれが良いのかもね』
WTA125大会もあることにはあるけど、アナスタシアが確実に出場できるとは限らないもんね。
『100kはポイント的にも、まあまあ美味しいしから、イスタンブールに入れなかったらそうするわ』
『ローランギャロスまでは、アメリカのITFサーキットも全部クレーでの試合?』
『そうね、アメリカも4月と5月は全部クレーコートでの開催よ』
ふむふむ、わざわざハードコートで試合をするとクレーの経験値が積めないから、全仏オープンで勝利を目指すのには不利になるもんね。
まあ、ポイントだけを考えるのであれば、ハードコートが得意な選手は、ハードコートの大会を選択するのも、ありっちゃ有りなのかも知れないけどさ。
4月5月は全仏オープンの前なのに、日本ではハードコートと砂入り人工芝での大会が開催されているしね。
というか、日本ではクレーコートでのITFサーキットの開催が皆無なんや……
まあ、クレーコートが日本には少ないという、やむを得ない事情もあるにはあるんだけど、それでいいのかと思わなくもない。
日本のテニスコートって体感で、砂入り人工芝が75、ハードが24、クレーが0.9、芝が0.1とかの割合でしょうか?
庭野リサーチ調べだから、かなりの誤差はあると思いますが。
そういえば、、クレーもどきで、学校のグランドみたいな普通の土のテニスコートもありましたね。
しかし、クレーでの経験値が足らないと、クレーコートの上のレベルの大会では対戦相手との実力差がないと、苦労する破目になるんだよね。
クレーが得意な選手、クレーコーターというのは、それだけ厄介な存在なんですよ。
『ところでさ、なんでアメリカのクレーコートは、あんな汚らしい色をしているんだろうね?』
『そんなこと、私に聞かれても知らないわよ』
そう、アメリカのクレーコートの大半は、ダークグリーンというのかモスグリーンというのか、灰色掛かった緑色をしたクレーコートなんですよね。
灰色掛かった緑色というのは、視覚的に綺麗な色に思えないのですよ。
どうしても生理的に受け付けない、色彩ってありますよね?
アメリカのクレーコートは、そんな感じの色だと思います。
『レッドクレー、アンツーカーのほうが、絶対に見た目も良いのに』
『それには同意するわ。おおかたヨーロッパ人への対抗意識とかで、アメリカ独自の色を出したかったとかなんじゃないの?』
『あー、それはあり得そうな話だよね』
アメリカ人の欧州へのコンプレックスの裏返しなのかも知れませんね。
もっとも、そんなことはないと、アメリカ人は絶対に否定するとは思いますけど。
『まあ、私も詳しいことまでは知らないけどさ』
『あと、アメリカのテニスコートってゴルフ場に隣接していることが多いじゃん?』
『多いわね。そういうテニスコートは、きっと経営者が同じなんだろうね』
『ゴルフ場は芝なんだから、隣のテニスコートにも芝のコートがあってもいいはずなのに、アメリカのグラスコートってニューポートのテニスの殿堂ぐらいしか思い浮かばなくて、ほぼ見掛けないんだよねー』
そう、せっかくテニスコートの隣に芝がたくさん生えているのに、使わないのはもったいない気がするんですよね。
隣の青く見える芝生を、ただ黙って指を咥えて眺めているだけだなんて、精神衛生上でもなんとなく、もにょもにょとしますし。
隣の芝生は青く見えるって、やかましいわい!
だけど、アメリカでもグラスコートの普及を希望します。
もっとも、ゴルフ場のグリーンとテニスコートのベースライン付近とでは、芝の痛む速度が段違いだから、グラスコートを維持するのは労力が掛かるとかもあるんですよね。
小机の自宅の庭に作ったグラスコートも、そこまで使用頻度が高くもないのに、ベースライン付近がハゲるのは早かったですしね。
ちなみに、ニューポートでは、テニスの殿堂オープンというATP250の大会が、ウィンブルドンの翌週に開催されています。
残念ウィンブルドンなのかな?
でも、女子の大会で、アメリカのグラスコートでの開催はないんだよね。
『そう言われてみると確かに、アメリカではグラスコートを見掛けないわね』
『なんでなんだろうね?』
『私に聞かれても知らないわよ。宗主国であった、イギリスへの反発心とかじゃないの?』
『あー、それはあり得そうな話だよね』
なんか、似たような話でループしてね? 天丼かな?
『アメリカ人はきっと、イギリス人の真似をするのが嫌なのよ』
『そうなのかも知れない。なんたって、フットボールもアメリカではアメリカンフットボールになっちゃう、そんなお国柄だからねー』
まあ、アメフトの原型はラグビーなんでしょうけど。
でも、そう考えたら、ますます訳が分からなくなるぞ。
『アレって意味が解らないわよ』
『手で持って走るのに、フットボールというところが?』
『そう、ご名答。フットボールといえば、普通は足で蹴るフットボールが世界的な常識のはずでしょ?』
そしてこの手の話題は、イギリス人がアメリカ人を小馬鹿にする時の鉄板ネタのジョークだったりもします。
ブリカスェ……
そして、アメリカ人がイギリス人に言い返す時に使われるのが、デパートやホテル等の一階二階のフロアの呼び方だったりします。
そう、イギリスでは、二階がファーストフロアになるんですよね。
世界的にみれば、二階は二階でセカンドフロアが主流です。
これは、アメリカ人に軍配が上がる気がしますね。
『きっと、アメフトを発明した人が色々と拗らせていた人だったんだよ』
『英語が不自由の間違いではなくて?』
『それ、イギリス人以外がアメリカ人に言ったら怒られると思うよ』
『それもそうだったわね、気を付けるわ』
イギリス人は良いのかって?
英語の本家本元はイギリスなんだから、アメリカ人がイギリス人に怒るのは筋違いなんじゃないのかな?
ちなみに、フットボールのことをサッカーと呼ぶのも、アメリカではアメフトの方がただ単に、フットボールと呼ばれているからです。
クリケットもアメリカに渡ったら、ベースボールに変わっちゃうしね。
うん、やっぱ昔のアメリカ人は色々と拗らせている人が多かったみたいでした。
まあ、ベースボールは認めてあげるけどね!
これ、前にも言ったな。
ようやくアナスタシアとのおしゃべりが終わったw
冗長になってすまんかった…
でも、こういったダラダラとした作風なのでご容赦ください><




