228話 アナスタシアに問題です
『それで、今年中に出場できる残りの大会の数は?』
『たぶん、8大会……』
『コロンビアの25kとボゴタの250の後は、どうする予定なの?』
『ボゴタまでの二週で、ローランギャロスの予選に入れそうなポイントを稼げたら、ボゴタから一週空けて、イスタンブールの250に入れそうならイスタンブールに飛ぶわ。それから、ヨーロッパシーズンに突入ね』
まあ、全仏オープンの予選インに必要な、残りのポイントは数十ポイント程度のはずなので、アナスタシアの実力だったら、一週目の25kで稼げちゃうポイントだろうね。
『イスタンブールの250に入れなかったら、アメリカのITFサーキットを回るの?』
『そうなるわね。チャールストンの100kかそれに入れなかったら、フロリダの25kを予定しているわ』
イスタンブールを除外されても、恨まないのがルールでっせ。
それはそうと、イスタンブールと聞いたら、ひさしぶりに飛んでイスタンブールを弾きたくなってきちゃったぞ。
『残りは、5大会しかありませーん。その次は?』
なんだか、詰問調になっているような感じもするけど、気にしたら負けです。
『バージニアのシャーロッツビルで開催される60kだと思うわ』
『残り、4つ!』
『フロリダのボニータ・スプリングスでの100k大会の予定。この100kには、たぶん入れるはず』
ボニータ・スプリングスの100kは、マドリード1000大会のセカンドウィークと同じ週での開催だから、スペインとフランスで敗者復活戦もどきの、WTA125大会がある週でしたね。
それ以外にも、ドイツで100kがあって岐阜で80kにチェコでも60kがあって、選手が分散されるから、アナスタシアのランキングだったら余裕で入れるだろうね。
というか、マドリードとローマの1000大会は、いつの間にやらインディアンウェルズやマイアミオープンと同じく、96ドローで二週間にわたっての開催に拡大していたんだね。
この私としたことが、まったく知らなかったよ。
『残り、3大会しかないよ!』
『アトランタの100kかフロリダのネープルズの60kの予定にしてたけど、あと3大会しか残ってないの?』
『絶対にウィンブルドンまでには、全部消化しちゃうよ?』
『少なすぎるわね……』
どうやら、アナスタシアはあまり逆算して考えてなかったみたいでしたね。
ちーん、なむなむ。
『出場を予定しているITFサーキットのどれかを削らないと、アナスタシアのランキングが230位以上になっていて、全米オープンの予選にインできたとしても、出場できない可能性も出てきちゃうよ?』
『それは非常に困る事態だわ』
『まあ、アナスタシアも私みたいに活躍して、グランドスラムの本戦にダイレクトインできるぐらいまでランキングを上げられたら、特例措置で救済してくれるかもね』
『特例措置?』
『過去にも結構な人数の若手選手が、特例で出場回数を増やしてもらってるよ』
『特例のバーゲンセールね』
そう指摘されてしまうと、特例とはいったい……
『まあ、残りの8大会でポイントを稼いで、最低でも100位に入ることができれば、特例が認められる可能性は高いと思うから、トップ100入りを目指して頑張ろう!』
『100位って何ポイントぐらい?』
『680から700ポイントぐらいの感じだね』
『あと、400ポイントとか今持っているポイントの倍以上だし、遠いなぁ』
ライブランキングで確認したところ、現在のアナスタシアのポイントは285Pで、ランキングが257位でしたね。
それにしても、もう既にアナスタシアのマイアミオープンで獲得した35Pが反映されているだなんて、ライブランキングの更新って早いな。
まあ、ライブランキングを名乗っているだけのことはあるということなんだろうね。
更新している人がテニス好きの暇人なのかも知れないけど。
というか、萌香ちゃんアナスタシアにランキング抜かれてますやん。
ポイントも2P減ってるし……
あー、なるほどね。今週の萌香ちゃんは、オーストラリアから帰国した直後でお休みしているから、昨年の甲府25kのポイントが失効した分で減ったのか。
『一大会で50ポイントと考えれば、25kを優勝するのと同じだよ』
『タマキは気楽に言ってくれちゃって』
まあ、親身になってアナスタシアの相談に乗ってはいるつもりだけど、結局のところ最終的には他人事だから、気楽にモノを言えるのですよ。
『とりあえず、ローランギャロスの予選インが確定したら、入れそうなWTA250の大会に積極的に出場して行くのも一つの方法だよね』
『一発で大きなポイントを狙っていくのは、結構リスキーじゃない?』
まあ、そのアナスタシアの心配は理解できなくもないよ。
『ハイリスクハイリターンだと思うでしょ?』
『ITFサーキットに比べたら、250はレベルも高くなるし、勝てればポイントも大きく稼げるでしょうけど、早い段階で負ける可能性も高くなるのよ?』
これが、あながちそうとも言い切れないんだよねー。
『でもさ、250の予選通過ポイントと、25kのセミファイナル進出のポイントが、同じ18ポイントなんだよ?』
『え? そうだったっけ? ちょっとタブレット貸してちょうだい』
貸してと言いつつ、アナスタシアにタブレットを引ったくられたでござる。
というか、アナスタシアはあまりポイントの計算とか詳しくなさそうな感じがしますね。
『ライブランキングじゃなくて、ポイント表が載っているサイト出してちょうだい』
『アナスタシアがタブレットを引ったくるからだよ』
そうは言いつつも優しいたまきちゃんは、タブレットを操作してページ開いてあげることにしました。
『……これって日本語のウィキ?』
『WTAとITFで別れている公式を見るよりも、ウィキのほうが便利なんだよね』
『日本語じゃなくて英語のページを見せなさいよ』
スクロールさせた先には、アルファベットと数字の羅列だけで、ほとんど日本語は書いてませんやん。
『英語のウィキとグラフは同じだよ。ほら、ここが予選通過ポイント』
『あ、本当に250の予選通過ポイントと、25kのセミファイナルが同じポイントね』
『それに、250で予選を通過すれば、1ポイントは確実にプラスされるのだから、最低でも19ポイントになってお得感もあるじゃん』
『あー、そういえば、250は本戦のR32で負けたとしても、1ポイント貰えたわね』
タブレットの画面に表示された、WTA250のR32の1Pの表のところを、ツンツンと突くんじゃありません。
突いてもドコかのページに飛ぶとかしないから。
ツンツンと突いていいのは、ほっぺとおっぱいの先っちょだけなんだぞ。
『本戦で一つ勝ったら、予選通過ポイントと合わせて48ポイント貰えるから、25kで優勝したのと、ほぼ同じポイントになるんだよね』
『ふむふむ、48と50ポイントだから、そうなるわね』
『さて、ここでアナスタシアに問題です!』
『クイズ?』
『クイズと言えばクイズなのかな? 25kで弱い者イジメをして優勝して悦に浸るのと、WTA250のR16で負けて悔しい思いをするのとでは、どっちのほうがアナスタシアの実力を伸ばしてくれるでしょうか?』
アナスタシアよりも私のほうが一つ年下のはずなのに、なんとなくアナスタシアのコーチをしている気分になってきたぞ。
けして、クイズの司会者ではないはずであります。
現実世界のイスタンブール250大会はなんで消えたんだろ?




