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1 1-1 30-15 負け犬に用はありません


「たまきー、あたし負けちゃったよー! 慰めてー!」


「負け犬に用はありません。あっち行けしっし」


「アンタねー、そこは、頑張ったね!とか言えないわけ?」


「頑張ったね」


「心がこもってない! やり直し!」



 心を込めて言ってないから、仕方ないよね。


 先日に岡山で行われたRSK全国選抜ジュニアで、残念なことに優梨愛ちゃんは優勝できなかったみたいだ。

 たしか、二人ばかし強い子がいるとか言ってたから、今回もそのどちらかに負けてしまったのでしょう。


 どうやら優梨愛ちゃんは、準優勝やSF敗退とか、善戦ウーマンの女神に愛される運命にあるらしい。



「でも、準優勝だったんでしょ?」


「うん!」


「だったら、代表には選ばれる可能性があるのだからいいじゃん」


「まあねー。だから、来年の春休みには、タイのバンコクに行ってくるぜぃ! どうだ、羨ましいだろ?」


「いや、ぜんぜん」


「環希は捻くれてるなぁ。正直に羨ましいってお姉さんに言ってごらん。ん?」



 ウゼェー。


 優梨愛ちゃんが、来年の春にタイのバンコクに行くと言っているのは、その地で、テニスの国別対抗戦である、ワールドジュニアのアジアオセアニア予選が開催されるからなのです。


 そう、RSKはテニスの国別対抗戦である、ワールドジュニアのアジアオセアニア予選の代表選考会を兼ねていたのです。

 だから、U-13RSK全国選抜ジュニアで準優勝した、優梨愛ちゃんは普通であれば当然、日本代表に選出されてしかるべきなのです。


 もっとも、他の大会での実績等も考慮されるので、絶対に準優勝者が選出されるとは限らないのですが。

 特に、もう既にITFジュニアサーキットで実績を上げている選手がいれば、その選手が優先されたりもするのだ。


 代表を選ぶテニス協会も、国際大会であるITFジュニアサーキットで活躍した選手の方が、国内のみで実績がある選手よりも心強いと思うのは当然でしょうしね。






 ※※※※※※






 その私の予感は当たってしまい、優梨愛ちゃんは代表に選ばれなかった。



「環希、あたしテニスやめようかな……」


「やめたければ、やめればいいと思うよ」


「ひどっ! そこは普通、挫けないで頑張れ!とか言うところでしょーが!」



 私は実力がある者には、スパルタで対応する主義なんだよ。

 それに、疑問系で相談してくるということは、引き留めて欲しいとか、本当はやめる気がない証拠だよね。


 本当にテニスをやめる場合は、誰にも相談せずにスパッとやめたりする場合が大半なのだから。

 そう、答えというのは、相談する前に自分の中で粗方答えが出ていて、ただ単に背中を押して欲しいだけだったりするのだし。


 だから、私はおためごかしな上辺だけの励ましの言葉とかよりも、直球を投げ掛けてみる。

 それに、今回の優梨愛ちゃんは、ただ単に愚痴りたいだけのような気がするしね。



「優梨愛ちゃんが、テニスをやめて後悔しないのならば、やめればいいと思うよ」


「やめたら、きっと後悔する……」


「だったら、テニスを続ければいいじゃん。ね、答えは単純でしょ?」



 仮に、テニスをやめたとしても、しばらくしたら身体がウズウズし出して、再びやりたくなってしまうのが、テニス中毒者なんだから。

 ここまでどっぷりと、テニスに浸かってしまった優梨愛ちゃんが、そう簡単にテニスをやめられる訳がないのだ。



「あたしは、アンタみたいに単細胞じゃなくて繊細なんだよー」


「はいはい。それでやめようって思ったのは、ワールドジュニアに選ばれなかったから?」


「うん……」



 やっぱり、コレが原因だったか。

 十中八九は本人も出れると思っていたのだから、選ばれなかった時の落胆は、想像以上だったんだろうね。


 選出されたのは、優勝した選手は当然だけれども、残り二人は、準決勝、SFで敗退した選手である。

 そのうちの一人は、当然ながら、優梨愛ちゃんが負かした相手なのだ。


 代表選考会なのに、勝った選手が選ばれなくて、負けた方の選手が選ばれるなんて、なにかがおかしいと思いませんか?

 なんか昔に、オリンピックの水泳や柔道の代表選考でも、似たようなことがあったような気がしないでもない。


 協会の言い分はこうである。「諸般の事情を鑑み今回の選考となった」


 それでは、諸般の事情とは、なんぞや?


 その疑問の答えを、名探偵たまきちゃんが探っていきましょう。


 代表に選出された全員には、ある共通点があるのです。

 その答えが何なのか、お分かりになるでしょうか?


 じゃかじゃかじゃかじゃーん!


 その共通点とは、三人が三人とも、早生まれの中学二年生だったのである。

 早生まれとは、1月から3月生まれのことですね。


 小学生、中学生、高校生とかの学生大会、それ以外のテニスの主な大会では、学年で区別されているのではなく、年齢で区別されているのです。

 つまり、年の初めの1月1日生まれから、12月31日生まれを一つの区切りとしているのだ。


 だから、大会の開催要項の参加資格には、20xx年1月1日以降に出生した者とか、書かれていたりするのだ。


 優梨愛ちゃんが選ばれなかった今回のケースを当て嵌めてみると、優梨愛ちゃんは六年生。誕生日は7月4日に迎えているので、既に12歳。

 早生まれの子達は中学二年生ながらも、誕生日を迎えていないので、まだ13歳。


 ぱっと見、一歳しか違わないように見えるけど、学年は二年違うのだ。

 そう、協会が言う、諸般の事情とは、経験である。


 落選した優梨愛ちゃんと、選出された子との差は、二年分の経験の差が一番大きなウェイトを占めていたのだと思われます。

 早生まれの子は、一学年繰り上がりますので、一年余分に練習や試合ができるのです。


 たかだか一年とあなどるなかれ、子供時代の一年間というのは、非常に長く感じられるのである。大人とは体感で流れている時間の速度が違うのですから。


 ジュニアテニス界において早生まれというのは、それほどまでに有利なアドバンテージを持っているのである。そう、15才ぐらいまではね。

 学校の勉強とかにおける早生まれのハンデとは真逆ですよね。


 ようするに、早生まれの子が一年間余分に勉強していて、一学年下のクラスに混ざって勉強して、学年の成績でも常に上位の座を独占しているようなものなのである。

 だから、テニスのジュニアにとっては、この一年のアドバンテージは馬鹿にならない経験であるのだ。


 しかし、そんなんだったら、初めから小学生の参加は不可にしとけよと思わなくもない。


 ちなみに、私は12月8日生まれと一番遅い月の生まれなので、本当ならば圧倒的に不利なハンデを背負っているのです。

 まあ、私は半分インチキな存在ですから、そんなハンデは関係ないのですがね!


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