213話 ね ん が ん のビジネスジェットを手に入れたぞ!
作者以外、誰得な飛行機のお話…
インディアンウェルズ近郊 ジャクリーン・コックラン・リージョナル空港
「あれ? この空港って行きに来た時と違う空港ですよね?」
「空港というよりも、飛行場といった感じでござるな」
「リージョナル空港ですから、こんなものですよ」
空港のターミナルらしきそれといった建物も見当たらないし、純ちゃんが言うように飛行場なんだろうなぁ。
でも、アメリカって凄いよね。こんな荒野のド田舎なのに、インディアンウェルズから20km圏内に空港が二ヶ所もあるんだよ?
日本で例えるなら、百里に茨城空港があるのに、つくばにも空港を作っちゃうようなモノなんだよ?
さすがは、航空機大国なアメリカだけのことはありますよね。
ちなみに、土浦か石岡がインディアンウェルズに当たります。
東京や横浜で例えると、人口が多すぎて例えにならんのや……
「じゃじゃーん! 今日はアレに乗って、マイアミまで行きます!」
「環希ちゃん、アレじゃなくてアッチの飛行機ですよ」
私が自信満々にドヤ顔で、これから搭乗する予定の飛行機を指差したはずなのに、麻生さんに訂正されてしまいました。解せぬ。
「だ、そうです……」
私たちの目の前で、堂々たる姿を晒して翼を休めているリアエンジンの機体は、セスナ社製の中型ビジネスジェット機である、セスナ・サイテーション・ロンジチュード!
ついに、ね ん が ん のビジネスジェットを手に入れたぞ!
まあ、チャーター機なんですけどね……
というか、ビジネスジェット機って胴体後部の横にエンジンが付いた、リアエンジンの機体ばっかりだよね?
ボンバルディアにガルフストリームやダッソーとエンブラエルしかり。
有名どころのビジネスジェット機は全部リアエンジンの機体だったよ。
でも、普通の旅客機と違って、ビジネスジェット機なりの何か利点があるから、リアエンジンなんでしょうね。
速度や燃費の向上に空気抵抗とかでしょうかね? 詳しいことは知らん。
そして、このサイテーション・ロンジチュードは、ニューヨークからロンドンまでの距離を無着陸で飛べる機体になります。
まあ、偏西風の強い冬の時期で、向かい風に逆らう方向に飛ぶロンドン~ニューヨークの場合は、アイルランドやニューファンドランドとか途中で給油しなければ、少し厳しいかも知れませんが。
だから基本的には、アメリカ大陸ならアメリカ大陸のみとか、各大陸内の中で運用する機体なのかも知れません。
「ふぇ~、プライベートジェット機だ……」
「おおーっ! プライベートジェットとは、タマキも気前が良いな!」
ふっふっふ、うさみんとサナダさんが驚いてくれたようでなによりであります。
私も奮発して、ビジネスジェット機をチャーターした甲斐があったというモノですよ。
でも、プライベートジェットだと、個人で飛行機を所有しているオーナーって感じがするから、今回の場合は飛行機をチャーターしただけだし、ビジネスジェットが正解になるのかな?
まあ、どっちでも構わないどうでもいい些細な問題でしたか。
「パームスプリングスからマイアミまでの直行便がなかったからね」
「グッドチョイス! タマキは分かっているじゃないか」
「でしょ! でしょ!」
もっと褒めてくれてもいいのよ?
私は褒められたら伸びる子なんだから。
でも、"タマキは"とは、ママと比較してということなのか?
まあ、ママはケチで有名だもんね。
「サイテーション・ラティチュード? いや、窓が7つあって尾翼がT字翼だから、ロンジチュードでござるか?」
「純ちゃん正解! さすがは詳しいね」
「サイテーション・ロンジチュードは、原型機であるラティチュードから約3.3メートル全長を伸ばし、エンジン推力はラティチュードの三割増しで、エンジンをプラット・アンド・ホイットニー・カナダ社製の──」
「純ちゃん、ストップストップ!」
褒めるとすぐ調子に乗る。
オタクはこれだからさぁ……
飛行機の詳しいカタログスペックなど聞かせられて、誰得なんだよ。
まあ、飛行機マニアや飛行機オタクは喜ぶのかも知れないけどさ。
「もう乗れるみたいですから、さっさと行きますよ」
「あ、麻生さん、SNSに上げる用に飛行機をバックにして写真撮ろうよ!」
「仕方ないですね、少しだけですよ?」
ファンというのは、選手が試合でプレーする以外の裏側も知りたいと思っているファンの人も、一定数以上はいるはずなんですよね。
だからこそ、そのファンの要望に応えるのもプロとしての務めなのだと、個人的にはそう思っています。
ファンの人たちは、選手のプライベートを知れて、満足。
私も承認欲求と自己顕示欲が満たされて、満足。
これぞ、win-winの関係だね!
「プライベートジェット機と一緒に撮るなんて、インチュタ映えしそうですね」
「うさみんもやっぱそう思う?」
「セレブになった気分を味わえますよぉ。まあ、気分だけですけど」
なるほど、送り手と受け手の双方の欲求を満たせるツールだからこそ、SNSが市民権を得て爆発的に普及したということなのか。
つまり、経済用語で言うところの、欲望の二重の一致というヤツですな。
もっとも、私の場合はテニスやピアノとかと関係のない、完全にプライベートな部分そこまではオープンにして見せてはいないのですがね。
それは、プライベートの切り売りになってしまいますので。
「とりあえず、みんな記念に一人一人だけの写真を撮って、それからみんなで揃ったのとかを撮ろっか?」
「了解でござるよ」
ちなみに、インディアンウェルズからマイアミまで、チャーター機を利用するお値段は、3万5千ドルでございます!
私と麻生さんとサナダさんとうさみんに純ちゃんを合わせたチームタマキの五人だと、パームスプリングスからマイアミまでファーストクラスに搭乗して行く場合、1万ドル以上掛かるんですよね。
しかし、1万ドル以上払う割には、パームスプリングスからマイアミまでの直行便もなく、出発や到着の時間帯が早朝発や、マイアミに深夜や翌朝に到着する微妙な便しか選べないという、不便さだったのです。
朝早く出発する6時や6時半の便なんて、誰得やねん。
最低でも4時や4時半に起きなければ、飛行機に間に合わないんだぞ!
ロサンゼルスからだと、マイアミまでの直行便も数多く飛んではいるものの、ロスに行くにしてもインディアンウェルズからだと、最低でも車で3時間は掛かるという田舎なんですよ。
ロス市内で渋滞にでも巻き込まれたなら、4時間とかそれ以上の時間が掛かってしまいます。
それならばと、2万5千ドルを上乗せして、ビジネスジェット機をチャーターしてもいいんじゃね? そう判断したというわけですな。
つまり、時間をお金で買ったということになります。
タイム・イズ・マネー、時は金なり、ですね。
そりゃ、100ドル紙幣の肖像画にもなるわな。
まあ、タイムイズマネーの言葉で、お札になったわけではないのだろうけど。
そして、ビジネスジェットを選んだ利点として、朝も7時すぎまでぐっすりと寝られて、ホテルのレストランで優雅に朝食を食べてから、ゆっくりとホテルを出発することができたのです。
出発時間が決まっている定期旅客便だと、時間に追われてバタバタとしてしまい、こうは参りませんよね?
うむ、ビジネスジェット機でマイアミまで一っ飛びということは、私も片足程度はセレブの仲間入りを果たしたのかも知れません。
もっとも、本当のセレブというのは、ビジネスジェットをチャーターするのではなくて、プライベートジェット機として個人で所有しているのが、本当のお金持ちになります。
私程度の稼ぎでは、しょせん小金持ち程度でしたかそうですか。ぐすん……
こうなったら、テニスと投資で一杯稼いで、ビリオネアを目指さなければ!
でもまあ、今のところプライベートジェット機を買えるまでのお金もないですし、そこまでの使用頻度になるとも思えないので、その都度チャーターすればいいかな? とか考えてます。
しかし、私もインディアンウェルズの大会では、スポンサーからのボーナスを含めて200万ドル以上は稼ぎましたので、ビジネスジェット機をチャーターする3万5千ドル程度では、私の懐は痛まないのである。
まあ、半分近くは税金で持ってかれちゃったんですけどね!
テニスの試合描写を書くよりも、蛇足の方が筆が進むという…
この小説は、作者の自己満足な小説になりますw




