201話 ポルシェ
相変わらずサブタイが適当…
お元気ですか? 自動車教習所にきている庭野環希です。
今月に誕生日が来て、私もようやく18歳になりましたので、テニスのシーズンオフの期間を利用して車の免許を取得することにしたのです。
え? そんな時間があるのなら、高校に通学しろだって?
こ、こまけぇことはいいんだよ!
4月の下旬にドイツのシュツットガルトで開催されるWTA500大会で優勝したんだけど、この大会って優勝した時に、賞金を貰うかポルシェを貰うかのどちらかを選べるのですよね。
その時に私は、賞金じゃなくてポルシェを選択することにしました。
どうでもいいけど、シュツットガルトって相変わらず舌を噛みそうな名前だな。
それで、ポルシェをゲットしたまでは良かったんだけど、私が運転免許を持ってなかったから私の代わりに、ママとお爺ちゃんが私のポルシェを乗り回しているんだよぉぉ!
ぐすん、私のポルシェなのに……
ちなみに、ドバイの路肩に故障して放置されていたポルシェを直して日本に輸入したわけではないよ?
ちゃんと新車のポルシェを貰えましたから!
だから、私も早く免許を取得してポルシェをブイブイと乗り回したかったので、こうして教習所に足を運んだというわけですな。
そして今現在、仮免の路上教習をしているところなのであります。
「環希ちゃん運転上手ですね。でも片手ハンドルはダメですよ」
「あ、すいません」
つい昔の癖で思わず片手運転をしてしまったよ。
「本当に運転するの初めてなの?」
「今世では運転するのは初めてですね」
「今世…では?」
「前世では普通に運転していましたから」
「な、なるほど、前世の記憶持ちでしたか……」
「あ、いまのナシ」
私の秘密が思わず口に出てしまったよ。
ハンドルを握った懐かしさから、油断してしまったのでしょうか?
サラッと口を滑らしてしまったみたいでした。
「……思考に問題ありで、減点1っと」
ぬおぉぉぉー!
「な、なんで減点なんですかー!」
「最近、環希ちゃんみたいにおかしなことを言う人が、たまにいるんですよね~」
「そ、そうなんですか?」
マジかよ?
私以外にも転生者がいるというのですかね?
でも、私というイレギュラーがいるのだから、他の転生者が絶対に存在しないという保証もないのかも知れません。
私以外の転生者が本当にいたらいたで、それは面倒なことになりそうだから困るんだけどね。
ほら、物語の主人公は私一人で十分でしょ?
「誰かが自分を貶めようとしているとか、他人の声が聞こえるとか心理テストにもあったでしょ?」
「あー、そんな問題もありましたね」
「あれの延長みたいなモノで、運転を始めてからもチェックしているのよ」
「そうだったんですか」
「もっとも、教習生はお客さんでもあるから、よほど酷い生徒以外は頑張って卒業させているけどね」
なるほど、自動車教習所も客商売にはなんら変わりはないということなんだろうね。
※※※※※※
「と、いう夢を見たんだよ」
「環希ちゃん、病院に行こっか?」
なんでやねん。私の精神はいたって正常に稼働してまっせ。
たぶんだけど……
「環希は女優の素質もありそうじゃのぉ」
「お爺ちゃん私は試合会場では、いつも女優を演じているんだよ」
ニコニコとした笑顔の仮面を貼り付けて、オンコートインタビューや記者会見に臨んでいますしね。
もっとも、この笑顔の仮面にはスイッチをよそ行き切り替えて、失言を防ぐ意味もあるんですよ。
まあ、それでも偶には失言しちゃってるみたいなんですけどね。
なんでだろ? おかしいな?
「アンタの演じているのはコメディアンでしょーが」
そうとも言うのかな?
ま、まあ、どちらにしても、アスリートはエンターテイナーということですな。
でも、今日家を出る前に弾いたのは、メイプルリーフ・ラグだったけどね!
メイプルリーフ・ラグは、私のお気に入りの曲の一つで、この曲を弾いていると「今日も一日頑張るぞ!」そんな感じの活力が漲ってくる曲なんだよね。
あと、今日は学校から帰宅したら、プレイバックパートⅡかDESTINYでも弾こうかしらん。
ポルシェ繋がりということで。
「ちなみに、教官は何故か麻生さんだったよ」
「それって環希が普段から麻生さんにチェックされているから、それで夢と現実がごちゃ混ぜになっているんだと思うよ」
「まあ、夢ってそういう変なモノだしねー」
ドバイから無事に日本へと帰国して、いつもの日常が戻ってきました。
そして現在、お爺ちゃんが運転するエルグランドに乗って、優梨愛ちゃんと山手女学院に通学している途中になります。
ちなみに、今日の朝食は我が家の平日としては珍しくパン食でした。
普通の食パンをピザトーストにしたのを二枚と、ハムエッグの目玉は二つ。サラダは毎度おなじみの定番といった感じのヤツで、汁物は昨夜の残りのパンプキンスープになります。
洋食だったから、デザートはヨーグルトにメイプルシロップを垂らして頂きました。
まあ、和食の場合でも、結構な頻度でヨーグルトは食べているんだけどね。
私は牛乳よりもヨーグルト派です。
ヤクルトやマミーとかも好きだけどね。
「それにしても、やけにリアルな夢だったわー」
「それはアンタが早く車の免許を取りたいという、そんな願望が見せた夢だったんじゃないの?」
「そうなのかな?」
うん、おそらくはそうなんだろうなぁ。
でも18歳になるまで、あと四年近く待たなければならないのか。
「あたしはあと一年半で免許を取れるようになるけど……」
「なるけど? 続きは?」
「いやね? 免許を取りに行く暇があるのかなぁとか思ってさ」
ツアーで忙しく世界中を飛び回っているテニス選手は年中暇なしだからね。
優梨愛ちゃんの場合は貧ぼ…… いや、なんでもありません。
「シーズンオフの11月か12月に合宿に行けば早く取れるんじゃない?」
「まだ学校があるじゃん」
「じゃあ卒業する二年後のシーズンオフに合宿で」
「やっぱそうなるのかな?」
私の場合だけど…… 四年は長いな。
ここは一つ、裏技を使うことにしちゃいましょうかね?
「まあ、アメリカだったら私も二年後には免許取れるんだけどね」
「アメリカは16で車の免許が取れるの?」
「そうみたいだよ」
ついでに飛行機の操縦免許も16から取れるみたいです。
ようつべとかにアメリカ人の少女がセスナを操縦する動画とかありますもんね。
そう考えるとアメリカって凄いよね。
「アメリカは進んでいるわ。さすがは自動車大国」
「アメリカは田舎だと車が運転できないと何処にも行けないんだよ」
「あー、そういえばアメリカの田舎って、周りになんにもない荒野のイメージがあるわ」
モンタナとかノース・ダコタとかって何もないイメージがあるもんね。
まあ、行ったことないんだけどさ。
日本でも地方だと、車がないとまともに生活が出来ないとか聞いたことがありますので、田舎は万国共通で不便なんだろうね。
まあ、公共交通機関が発達している大都市に住んでいれば、車を運転できなくても大して不便することなく生活できるのだろうけど。
「だから優梨愛ちゃんも私と一緒に、アメリカで車の免許を取ろうよ!」
「あたしの英語力が足りているのか、それがかなり微妙なんだけど……」
「その心配があったか」
でも、ネイティブの小学生高学年レベルの英語が理解できれば、アメリカの免許は大丈夫そうな気がするんだよね。
優梨愛ちゃんは…… うん、もう少し頑張れ!
「でもさ、環希が16でアメリカで車の免許を取ったとしても、日本では18になるまで運転できないでしょ?」
「うん、現地の法律が優先するはずだから、日本では運転できないと思う」
でも、日本以外の外国で16歳から運転できる国だったら、私でも運転できるのだから、もーまんたい。
フロリダやカリフォルニアで、ポルシェをブイブイと乗り回してやんよ!
まあ、今のスポンサーである横浜の自動車メーカーとの契約が三年だから、その後になるけどさ。
まあ、まだポルシェそれ自体もゲットしてないんだけどさ。
「あと、18になっても卒業するまで車の運転はしちゃダメとか、確か校則にも書いてあったはずだよ」
「なん…ですと!?」
「ふふっ、残念でしたー」
ぐぬぬ、山手女学院の高等部に進まないで中退してやろうかしら?
どうせツアーにフルで参戦したらシーズン中は、ろくすっぽ学校には通えないんだからさ。
「それとじゃな、お爺ちゃんからも一言ばかり言わせてもらうとだな」
「お爺ちゃん、なにかあるの?」
「仮に環希と優梨愛ちゃんがアメリカで車の免許を取ったとしても、優梨愛ちゃんは日本での免許の書き換えは出来なかったはずじゃぞ」
ほわい? なぜ?
なんで、なんでなの? 教えてお爺ちゃん!
一瞬、アルプスの山々がまぶたに浮かんだのは、ナゼ?