190話 出国不可
庭野環希@tamakiniwano - 18分
ハイヤーがお出迎えなう!
今日は夜の18時から成田でミニイベントがあるよん♪
楽しみにしていてね☆
出国審査を通過した人、限定でだけど……
□ 35 ↱↲ 2,773 ♡ 5,925 ⇧
庭野環希@tamakiniwano - 10分
え? なに?
出国審査を通過してなくても見たいの?
□ 78 ↱↲ 1,626 ♡ 4,038 ⇧
庭野環希@tamakiniwano - 3分
しょうがないにゃ~ ようつべでライブ配信するわ♪
みんな18時に、ちぇけら!
□ 44 ↱↲ 5,874 ♡ 8,211 ⇧
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「それじゃあ、行ってきまーす!」
「怪我だけは気を付けるんじゃぞ」
「全豪オープンの時みたいな無理はしないから、心配しないでも大丈夫だよ」
それに、今回からはトレーナーのうさみんが一緒なんだし、滅多なことにはならないでしょう。
「百合ちゃん頼んだよ」
「お任せください」
お爺ちゃんも心配性なんだから。
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エミレーツが差し向けてくれた、ベンツのミニバンのハイヤーに揺られること、1時間と30分あまり。
時刻は夕方の4時半を過ぎたあたりで、麻生さんとうさみんの三人で成田空港の第2ターミナルに来ている庭野環希です。
まあ、本音を言えば、成田よりも羽田発の便のほうが便利ではあるのですけど、今日はこれからちょっとしたプチイベントが控えているのですよね。
だから、今日は成田にやって来ているというわけであります。
それで、三人で成田に来たとは言ったけど、約一名、私たちの後ろをトコトコと付いてきているんすよ。
この約一名は一体なんなのでしょうか?
私のストーカーでしょうかね?
まあ、ストーカーの正体は、私の下僕でもある、長谷川純さんなんですけどね。
純ちゃんは、チーム・タマキの雑用係ですので、こうして私たちと一緒に行動を共にしているというわけであります。
そういえば、純ちゃんはストーカー1号のコテハンを持っている、正真正銘の私のストーカーだったよ!
チーム・タマキの雑用係とはいっても、元々は純ちゃんの自称だし、勝手に押し掛けてきたようなモノなので、純ちゃんのお給料はゼロ円です。
私がにっこりと微笑んであげるだけで、純ちゃんは喜んでくれるのだからチョロすぎだと思います。
ほら、スマイルゼロ円とかハンバーガー屋さんも言ってるでしょ?
純ちゃんが私たちに付いてくるのは認めたけど、ちゃんと稼いで家にお金を入れているのかと聞いてみたところ、ここ数年は毎年数千万は株とかで稼いでいると言ってましたので、それを聞いて安心しました。
なるほどね。だから、純ちゃんのお姉さんも、純ちゃんがフラフラしているのを放任していたということでしたか。
まあ、そうだよね。純ちゃんにある程度以上の稼ぎがないと、頻繁に海外の大会を観戦することなど不可能だもんね。
それと、数千万も稼いでるニートって、それはもう既にニートとは呼べない気がしますね。
でも、純ちゃんが投資で稼いでいるからといって、さすがにチーム・タマキでの活動が全部ゼロ円では、純ちゃんが可哀想だから飛行機代とホテル代は、私が出してあげることにしたんだけどね。
その代わり、純ちゃんはキリキリと働けや。
そして、純ちゃんの仕事は、私の練習時の球出しやボール拾いに、動画の撮影と編集がメインの仕事になると思います。
あと、私が小机の自宅にいる時に、毎朝のランニング時における警備員の役目もありましたね。
チーム・タマキに雑用係が加入したことによって、麻生さんの負担が減ったので、これはこれで結果オーライなのかも知れません。
でも、純ちゃんの給料はゼロ円だけどな!
ちなみにママは、萌香ちゃんと優梨愛ちゃんが来週に京都で60kの大会が控えているため、日本でお留守番になります。
ドバイのお土産に、またデーツを買ってこいと頼まれたのだけど、12月に買ってきた分がまだ残っているだろーが。
べつに買ってきてもいいけど、デーツを食べ飽きたとしても、ちゃんと最後まで責任もって全部食えよな。
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成田空港 出国審査ゲート
「行き先はドバイ、と…… うん? ううんっ!? テニスの庭野環希さん…… 本物でしたか」
「はい、本物ですよ。というか、たぶん庭野環希って日本で私一人だけだと思いますよ?」
昔、私が有名になる以前に、ググってエゴサしたことがあるんだよね。
そしたら、庭野環希という名前は誰もいない感じでした。
ママの名前である、庭野まどかばかりが検索にヒットするんですよ。
まあ、今はもう私とママで半々ぐらいなんだけどさ。
庭野姓の人自体、日本で4千人か5千人ぐらいしかいない少人数の名字だから、そこからさらに、環希なんて名前を付ける女性はいなかったんだろうなぁ。
つまり、紛れもなく私はオンリーワンということですな。
オンリーワン。中二心をくすぐる良い響きだと思いませんか?
「ドバイの大会頑張って下さい! 応援しています!」
「ありがとう。ズムズムでも試合を放送するから、よかったら見てください」
「録画してでも必ず見ますよ!」
出国審査官にも、私の顔が知られているとは、私もメジャーになったものです。
「長谷川純…… 長谷川、純!? ストーカー1号!?」
「でゅふふ」
「……出国不可、と」
「な、なんで、拙者が出国不可でござるか!?」
「貴様! 環希ちゃんのストーカーをしにドバイまで行くとか、日本の恥を晒しに行くようなモノだろ!」
ん? 純ちゃんが出国審査でトラブっている感じですね。
なにかあったのでしょうか?
「そんな横暴な~。拙者はたまきタンの雑用係なんですよ」
「近所で顔見知りだから、縁故採用だろーが!」
「はは~ん、さては、お主。拙者が羨ましいのでござるな?」
「う、羨ましいなど…… ぐぬぬ……」
どうやら、出国審査官はテニスファンというか、私のファンだったみたいですね。
ついでに、テニス板の住民でもあったみたいですけど。
仕方ない、純ちゃんを助けてあげることにしますか。
というか、純ちゃんも煽るなよな。
「あの~、彼は一応チーム・タマキの一員ですので、彼の出国不可は私が困るのですけど? それに、この後のイベントでは、彼に撮影係をしてもらわなければいけませんし」
「環希ちゃんがそう言うのであれば、わかりました。どうぞ、お通り下さい」
「ありがとう。これ、みんなには内緒ですよ?」
そう言って、私は出国審査官にサインボールを渡してあげることにした。
べつに賄賂じゃないよ? ありがとうの気持ちですから。
私ってサインボールを必ず一個は、バッグに入れて持ち歩いているんですよね。
まあ、誰かに渡したのは、これが初めての経験だったけど。
「こ、公務員として、仕事中にコレは受け取れません」
おや? 真面目ですね。
でも、ゴクリと唾を飲み込んで、指先がテニスボールの手前で空を彷徨っていたりするあたり、受け取ろうか受け取らまいか葛藤している証拠なのでしょう。
だから、もう一押しといったところでしょうか?
女優たまきちゃんを発動しましょう。
「私のサインボール欲しくないの?」
いらないとか言われたら、泣いてやるんだから。
「本音では欲しいですけど……」
「私の一ファンとして、私が貴方にサインボールをあげるだけなのだから、なにも問題はありませんよ」
「そう言ってもらえるのであれば、受け取らせていただきます」
ふっ、四角四面の堅物で真面目な公務員であったとしても、たまきちゃんの上目遣いの前では、童貞の男子中高校生も同然ですわ。
つまり、チョロい。
「ふぅ、酷い目にあったでござる……」
「純ちゃんの日頃の行いもあるんだよ」
そう、3chのテニス板への書き込みとかね?
それはともかく、出国審査も終わったので、時間までエミレーツのラウンジにお邪魔することにしますか。
こんな出国審査官はいないと思うけど、フィクションですので。