189話 人と人は分かり合えない
新キャラの登場です
「こちらが新たに、環希ちゃんの専属トレーナーになる宇佐美さんです」
「専属のトレーナーが付くとは、私も出世したものだね」
「なに言ってんのよ? 環希は元々ジュニア時代から出世街道を驀進中だったじゃないのよ」
そうともいうのかな?
「はじめまして、庭野選手のフィジカルとコンディションの管理を任されました、トレーナーの宇佐美さくらです。これからよろしくお願いします」
「庭野環希です。こちらこそよろしくお願いします」
麻生さんから紹介されて、私の専属トレーナーになる女性が挨拶してくれているのですけど、歳のころは20代半ばぐらいといった感じの、小さくて可愛らしい女性でした。
宇佐美さんは、150cmあるのかどうか微妙な身長ですね。
しかし、トレーナーにしては随分と若いような感じがしますね。
若く見えるだけで、もしかしたら結構いってるのかな?
それにしても、宇佐美さんはどこかで見たことがあるような雰囲気を醸し出している女性ですね。
前に会ったことがある…ような? ないような?
なんか既視感があるんですよねぇ。
でも、そんな記憶はないよなぁ。
だけど、宇佐美さんの容姿は、ひなちゃんと同様に小動物系の感じがして、キュートで可愛いのですよ。
うん? ひなちゃん?
「ああ、そうか。宇佐美さんは、ひなちゃんに似ているんだ」
「ひなちゃん? それって米原ひなたのことですか?」
おんや?
宇佐美さんの口から、ひなちゃんのフルネームが出てくるだなんて、なんででしょうかね?
「米原ひなたで正解だけど、宇佐美さんはひなちゃんを知ってるの?」
「米原ひなたは姉の娘で、私にとっては姪になります」
なんということでしょうか。宇佐美さんがひなちゃんの親戚だったとは!
こんな偶然ってあるんですね。
もしかしたら、神さまがサイコロを振って、クリティカルの目が出たのかも知れないけど。
なるほど、叔母と姪だったら多少容姿が似ていたとしても、なんら不思議ではなかったということでしたか。
「へー、ひなちゃんは宇佐美さんと親戚だったんですね~。私ってひなちゃんとは山手女学院の同級生で席も隣の席なんですよー」
「そうだったんですか!? そんな偶然ってあるんですね!」
「想像以上に、世間って狭いみたいでした」
チラッと麻生さんのほうを見やれば頷きましたので、どうやら麻生さんは知っていたようですね。
ママはキョトンとした顔をして惚けていますので、知らなかったのでしょう。
それに、ママはひなちゃんがウチに遊びに来た時に、挨拶を数回した程度の面識しかないはずだから、ママからしたら一体なんのこっちゃだわな。
「そうですね。姪のひなたが、山手女学院に入学したことは姉から聞いて知っていましたけど、ここ二年程は姪と直接会ってなかったものですから、庭野選手と同級生だったとは全然知りませんでした」
自分の叔母さんが私の専属トレーナーになったと、ひなちゃんが聞いたら驚くだろうなぁ。
ついでに、ひなちゃんもチーム・タマキの一員に迎え入れたいですね!
まあ、ひなちゃんはまだ中学二年生なのだから、かなり先の話にはなっちゃいますけど。
ひなちゃんの場合は、まずは学校でしっかりと勉強をして、社会人になるための基礎を身に付けてもらってからでしたね。
というか、普通に考えれば、中学二年生でプロに転向して、世界中をツアーで飛び回る私のほうが異常だったわ。
「これから宇佐美さんもチーム・タマキの一員になるのだから、庭野選手なんて他人行儀じゃなくて、私のことは環希でいいですよ」
「それでは、環希さんとお呼びしますね」
べつに私は環希ちゃん呼びでも全然構わないのだけど、まあ慣れないうちは仕方ないのかな?
「私も宇佐美さんのことは、親しみを込めて、うさみんって呼ばせてもらうから」
さくらさんの方が良かったかな?
でも、名字が宇佐美だったら、うさみん一択でしょ!
チーム・タマキはフレンドリーでアットホームな職場を目指しているのです。
だから、宇佐美さんのことはフレンドリーに、うさみん呼びで決定です。
まあ、麻生さんのことは麻生さんって呼んでいますけれども。
でも、麻生さんは麻生さんと呼ばないといけない、なにかしらのオーラが出ているんだよぉぉ!
サナダさんは遺伝子上では、私の父親になるけど、サナダさんをパパと呼ぶことには抵抗がありますし、マイケル呼びもなんだかなぁといった感じなので、サナダさん呼びで落ち着きました。
「う、うさみん…… 学生時代を思い出しますね……」
「あー、やっぱ、うさみんって呼ばれていましたか」
うさみんとはいっても、ウサギみたいに出っ歯というわけではないからね?
「はい、誰しも考えることは似たり寄ったりになるんだなぁと」
「うさみんが嫌なら、さくらさんでもいいけど?」
「いえ、うさみんで大丈夫ですよ」
そう言って、はにかんだうさみんの笑顔は、女子高生ぐらいには若く見えましたね。
いや? さすがに女子高生は無理があるか。女子大生ぐらいということで。
「というか、うさみんっておいくつ?」
「私の歳ですか? 私は今年で35になります」
「合法ロリがいた」
「よく言われます……」
ま、まあ、ひなちゃんの叔母と聞いた時点で、結構歳がいっているのだと思い直していたけど、それでももう少し年の近い叔母と姪だと思ってたよ。
まさか、私の予想よりも年齢を10近くも逆サバで読んでいたとは!
でも、35歳と言われて納得した部分もあります。
トレーナーとして、ある程度以上の経験を積んだ人でなければ、麻生さんが此処に宇佐美さんを連れてくる道理はないのだしね。
「ちなみに、宇佐美さんは栄養士の資格も持っているので、環希ちゃんが偏った食事をしていれば指摘されますからね?」
「私は好き嫌いも殆んどないし、大抵はなんでも食べるから大丈夫だよ」
「セロリは食べられないけどね」
「うるさい。ママだってセロリ嫌いなクセして」
思わずママのお尻をペンペンと叩きたくなる衝動に駆られてしまったよ。
そう、私が苦手な食べものは、セロリとゴーヤぐらいでしょうか?
それと、海外遠征をしている時は、麻生さんも一緒にご飯を食べているのだから、私が偏食をしていないことは麻生さんも分かっているはずなのに……
これはあれかな? 栄養士が目を光らせているから、暴飲暴食はするなよとのメッセージと受け取っておきましょう。
「セロリ美味しいのに……」
ぱーどぅん?
「「じぃー……」」
「な、なんでしょうか?」
セロリが美味しいとか、マジですか?
そうか、これが人と人は分かり合えないという、戦争の原因だったのですね。
まさか、セロリで戦争が勃発することになるとは……
これは、後世の歴史家も頭を抱える問題でしょう。
「うさみん、一度だけしか言わないから、よく覚えておいてね?」
「は、はい」
「うさみんがセロリを食べるのは、個人の自由だから構わないし尊重もするけど、うさみんが栄養士だからといって私にセロリを出したりでもすれば、その時点で即クビにするから、そのつもりでいてください」
「わ、わかりました。というか、私は料理人ではありませんので、料理は出しませんよ」
「そう、それなら、私たちの契約は長続きしそうで安心しました」
ちなみに、宇佐美さんのお給料は、麻生さんと同じで月に50万になります。
それにプラスして、うさみんにはインセンティブとして、私の稼いだ賞金の1%がボーナスとして支払われる契約になっています。
1%が安いと思ったヤツ、ちょっと前に出ろ。
たとえ1%のインセンティブだったとしても、税引き後じゃなくて額面の賞金金額の1%だから、私が賞金を10億稼げば、1千万になるんだぞ!
まあ、私が10億稼げれば、ですけど。
でも、グランドスラムで2度優勝すれば、それだけで10億ぐらいにはなりますし、他の大会でも稼げれるので、案外いけそうな気がしないでもありません。
捕らぬ狸の皮算用という言葉は、私の辞書には載ってないのだよ。
チーム・タマキのメンバーの固定費だけで、月に100万と2500~7500ドルとかの人件費や結構な額の移動費用等が掛かりますけど、スポンサーとの契約料で十分に賄える範囲ですので、私の懐は痛まないんだよね。
まあ、手取りは減るけど、それは必要経費なのだと割り切りましょう。
そして、いつかは、うさみんにウサ耳のカチューシャを付けてもらうことを目標にして、これから頑張りましょう。
バニーガールのコスプレは……
うん、うさみんが小っちゃすぎて似合わなそうですね。
「環希、あなた無駄に偉そうな喋り方ね」
こ、雇用主だから、多少は偉そうでもいいんだよ…… たぶん。
近未来だから下部ツアーを除いて賞金は結構上がっている設定