188話 山手女学院まで通学の途中
いいサブタイが思い浮かばなかった…
お爺ちゃんが運転するエルグランドは、生麦JCTに差し掛かったところです。
生麦JCTはそのまま本線を直進して、大黒ふ頭から横浜ベイブリッジを通って、新山下で高速を降ります。
横浜公園で降りると、右折したいのに右折できませんので、仕方なく直進して日本大通り入口か、大さん橋入口の交差点まで4~500メートル進むことになります。
その二つの交差点のどちらかを右折して、中華街の外側を迂回して前田橋か谷戸橋に出て、コの字に西の橋まで戻る格好になるから遠回りになるんですよね。
東京や横浜の道路はこんなのばかりですね。
完全に道路行政の失敗のような気がしないでもありません。
もっと伝家の宝刀である土地の強制収用、強制執行?をもっとやれとか思ったとしても、私は悪くありません。
市街地には手心を加えているのに、市街地から離れた近郊の農地や住宅地とかは、道路を造るために強制的に移転させているのだから、その基準は一体どうなっているのでしょうかね?
費用の問題なのでしょうか? 市街地だと土地代もお高いですもんね。
それと、成田! おめーはダメだ!
安全面からみても、さっさと強制収用して欲しいですね。
まあ、成田の場合は強制収用をするのは無理みたいなんですけど。
しかし、他では強制収用しているのに、おかしいですよね?
それはそうと、小机の自宅から山手女学院までは、渋滞していなければ通常20分から25分程度で着きます。
道が渋滞で混んでいたとしても35分は掛かりませんので、毎朝7時45分頃に自宅を出ても、8時30分の朝礼には十分間に合う計算になります。
首都高はインターチェンジによって降りれたり降りれなかったり、あっち方面には行けなかったりとかの制限が多すぎる気がしますね。
まあ、首都高は大部分が市街地を通っているのだから、インターチェンジやジャンクションの用地に制約のある、都市高速の宿命なのかも知れませんが。
「それにしても、環希が予想したとおり本当にクリスが優勝しちゃったわね」
「クリスはこの私に勝ったんだから、ある意味で優勝は当然の結果だよ」
「相変わらずの傲慢さで安心したわ」
「まあねー」
優梨愛ちゃんが安心したということは、私が初めて負けたことによって落ち込んでいるとでも思っていたのかな?
なんだかんだといって、優梨愛ちゃんも優しいところがあるじゃん。
名は体を表すでしょうかね?
まあ、名前とは真逆の性格や人生になったりする場合も多いのですけどね。
「お爺ちゃんは、環希の助言を聞いたおかげで儲けれたから万々歳だったよ」
「源さん、環希の助言で儲けたってなんなんです?」
「私がお爺ちゃんに、クリスの優勝に賭けろって言ったんだよ」
私を破ってクリスがR64に進出した時点での、ブックメーカーのクリスが全豪オープンに優勝するオッズは、28倍でした。
そこで、お爺ちゃんは私の助言どおりに、クリスの優勝に5万ドルを賭けたということです。
つまり、配当金は、140万ドルということになります。
これで、私が負けて紙くずになった分も帳消しにできて、楽にお釣りがくるので、お爺ちゃんもホクホク顔ということですね!
「あー、なるほどねー。それで源さんはクリスに賭けて儲けた、と」
「そういうことじゃな」
私もお爺ちゃん孝行ができて良かったよ。
まあ、本当は私が全豪オープンで優勝することが、一番のお爺ちゃん孝行になったのかも知れませんけど。
だけど、お金を儲けさせてあげるのも孝行の一つだよね?
「でも、本音を言うと、クリスに優勝してもらって助かったよ」
「助かった? 源さんが儲けれたから?」
「それもあるけど、クリスの優勝で私にも箔が付いたと思わない?」
クリスに優勝してもわないと、私の価値が相対的に下がっちゃうから、お爺ちゃんが儲けた以上に彼女の優勝は助かりました。
絶対に優勝しろよと、クリスに発破を掛けておいて良かったです。
「あー、なるほど。クリスからセットを奪えたのは環希一人だけだったし、あとはブレイクも許さずに全部ストレートで勝っちゃったもんね」
「そ-ゆーことだね!」
クリスが二回戦で対戦した現世界ランキング1位のシュタイナーですら、6-4、6-3のストレートでクリスに負けているので、たまきちゃんの価値は爆上がりということですね!
「実質的な決勝戦は環希との初戦だったとか、ネットとかでファンが言ってるくらいだからねぇ」
「クリスも一番苦しかったのは環希との初戦だったと、インタビューで答えとったな」
まあ、決勝戦はダブルベーグルで、たったの38分で終わらせちゃったのだから、さもありなん。
つまり、たまきちゃんの価値が爆上がりということですね!
大事なことなので、二回目です。
「決勝でダブルベーグルとか、クリスもえげつなかったですよね……」
「まあ、相手が28シードとランクが低かったのも影響したんだろうね」
「それでもトップ30ではあるんだけどねぇ」
「トップ30程度の選手であったら、完全復活したクリスが相手だと荷が重かったということだよ」
つまり、一流選手と頭おかしいレベルの超一流選手の間には、高い壁が聳え立っているということですな。
「結果だけ見ると、そうなんだろうね。アンタよくあそこまでクリスを追い詰められたわね。感心するわ」
「まあ、なんたって、たまきちゃんですから!」
つまり、たまきちゃんも超一流の仲間入りということであります。自画自賛。
「はいはい、さすたまさすたま」
「もっと褒めてもいいのよ?」
私は褒められたら伸びる子なのですから。
「萌香さんもシンガポール25kで優勝したことだし、あたしも負けていられないなぁ」
スルーかよ!
「二週連続で優勝だもんねー。萌香ちゃんってば突然覚醒しているけど、なにかあったのかな?」
そう、シンガポール25kを連続優勝しちゃって、萌香ちゃんが確変モードに突入しているのですよ。
「香港よりも相手が弱かったのもあるけど、一番の要因は環希、アンタだと思うよ」
「ほえ? 私?」
なんでまた、私なのさ?
「萌香さんはメルボルンで、環希の試合を生で見て刺激を受けたのよ」
「あー、なるほどねー」
「そう、あたしを置いてきぼりにして、メルボルンで! 生で! 観戦して!」
私とクリスとの大激戦を見て、なにか思うところがあったということなんでしょうか?
それで、萌香ちゃんの闘志に火が付いた、と。
なるほど、あり得る話なのかも知れません。
つまり、萌香はワシが育てた!
それにしても、優梨愛ちゃん言葉にはトゲが何本も飛び出していましたね。
こりゃ、一人だけ仲間外れにされたことを相当怒っている感じでしょうか?
※※※※※※
「ほい、着いたぞい」
「ありがとー! お爺ちゃんも大伯母さんによろしく言っといてね!」
「あいよー」
元町五丁目東の交差点で車から降りて、山女坂に向かうことにします。
学校の正面入口に車を回してもらっても別に構わなかったのですけど、なんとなく私が山女坂の階段を上りたかったので、下の方で降ろしてもらうことにしたのですよ。
山女坂を上ると少しは通学している気分を味わえるとかいう、私以外にはどーでもいいことなんですけどね。
ちなみに、新車のエルグランドの乗り心地は、当然ながら良かったですね。
講評する必要がないほど好評でした。
「たまちゃん、おはよー!」
「ごきげんよう、ひなたお嬢さま」
そう、私が元町五丁目東の交差点で車を降りる理由は、ひなちゃんと山女坂を上るためでした。
ライン嫌いな私だけど、ひなちゃんとの待ち合わせには必要だから、通学している時は毎朝ひなちゃんと3~4回はラインで遣り取りしています。
【おっはー! いまどこ?】
【おっはー♪ 桜木町出たとこ】
【こっちはベイブリッジ通過中~】
【ひなたの方が少し早いかな?】
【たぶんそうだね】
【わかった待ってるよ】
【待っててねん♪】
こんな感じですね。
ちなみに、私がラインをする相手は両手の指でこと足りてしまいます。
少なっとか思ったヤツは、たまきちゃんが鬼ストロークの特訓を施して差し上げますので、そこんトコよろしく。
君が勘弁してくれと泣いて許しを請うても、扱くのを止めない!
「里田先輩も、おはようございます!」
「はい、おはようさん」
「優梨愛ちゃんには、私とひなちゃんの我がままに付き合ってもらって悪いね」
だけど、私が有名になってしまったので、昨秋で朝の電車通学を止めちゃったから、こうでもしないと、ひなちゃんと一緒に通学できないから仕方ないよね?
まあ、帰りは電車で帰宅しているから、私はなんちゃってお嬢様ということです。
「ひなたも巻き込まれるの確定なの!?」
「うん、ひなちゃんは完全に環希の巻き添えだな」
「世の中には連帯責任という言葉がありましてね?」
「それ、たまちゃんが嫌っている体育会系の言葉じゃん」
うふふ、そうでしたっけ?
「体育会系でも良い部分はちゃんと見習って取り入れる柔軟性を、私は持ち合わせているんだよ」
「都合が良い部分の間違いでは?」
「そうだね、環希にとって都合が良い部分だけだね」
「あはは、そうとも言うのかな?」
でもね? 人間は自分の都合の良いように行動するのがデフォルトなんだよ?
つまり、ご都合主義って素晴らしい!
「まあ、あたしも山女坂を上っていると通学しているって感じるから、別に構わないのだけどね」
「あ、それ、ひなたもですよー」
「私も同じく!」
学校の正面入口にまで車で乗り付けると、なんとなく味気なく感じますしね。
「知ってた」
「うん、知ってたね」
なんでやねん。
グランドスラム決勝での最短試合時間記録は、たぶん32分…
全盛期のグラフはちょっとおかしいレベルw
今話で"つまり"が多いのはわざとです。