185話 庭野家の朝の日常その1
PK戦は…… うん、まあ、仕方ないのかな?
でも、ドイツとスペイン撃破という夢を見させてもらえたから、サッカー日本代表ありがとう!
早朝のワダの奇襲で、強制的に叩き起こされた庭野環希です。
たまきちゃん特製の、スペシャルプレミアム黄金水をワダにプレゼントしてあげたら、ワダさんは良い笑顔で引き返していきましたとさ。ふぁっきん!
飲めないこともないけど、飲むなよ? 絶対にだぞ?
ご近所に住む、私のストーカー1号こと、長谷川さんちの純ちゃんみたいな下僕だったら、喜んで飲みそうな気がして怖いですね……
純ちゃんは三十路手前のはずなのに、定職にも就かずにフラフラとしているのだから、おばさんじゃなくて純ちゃんのお姉さんも頭が痛そうな気がしますね。
純ちゃんはメルボルンにも応援に駆け付けていましたしね。
まあ、純ちゃんは母親代わりのお姉さんの脛を齧っているわけではなく。自分でお金を稼いではいるみたいだから、そうであれば定職に就いていなくても、それはそれで別に構わないのかな?
犯罪をしてお金を稼ぐとかではなかったら、べつに楽をしてお金を稼いだとしても、それは本人に才覚があって稼いだのだから、たとえ不労所得であったとしても、立派な稼ぎだと思いますしね。
お金に貴賤はないとか言いますよね?
職業に貴賤なしは、建前であって大嘘だとは思いますけど。
というか、どうせ私の近くでストーカーをしているならばと、練習の時に球出しやボール拾いとかで純ちゃんをコキ使ってあげることにしました。
そのご褒美に、関係者席で私の試合を観戦させてあげたのだから、きっと彼も満足していることでしょう。
でも、他のテニス関係者は首を傾げたでしょうね。
なんで、あんな運動神経ゼロでテニスの経験もなさそうな、素人臭い小太りの男がニワノの練習を手伝っているんだ? そう疑問に思っていたとしても、なんら不思議ではありません。
純ちゃんは私の幼馴染で下僕なんだよ!
まあ、純ちゃんの名誉のためにも、下僕になった理由は言わないでおいてあげるけどさ。
それはそうと、体操とランニングの時間でしたね。
「今日も一日、ご安全にじゃなくて、元気にがんばろー!」
いや、安全のほうが大事なのかも知れないけど、私の場合は工場や工事現場で働いているわけでもないので、やっぱ、がんばろーで正解だよね?
というか、ワダのせいで今日は、おっぱいを揉む時間が取れなかったやんけ!
……アホなこと言ってないで、さっさと外に出ることにしますか。
「ひぇ~、さ、寒いぃぃ!」
私にタマタマが付いていたなら、ヒュンって一瞬にして縮こまるところでしたよ。
たまちゃんでも、タマは付いてませんので、あしからず。
でも、私の名前のヘボン式表記というか、アルファベット表記だと……
tamakiniwano……
これを分解すると、tamakin玉金、iwano岩野。
つまり、岩の金玉だったんだよ!
な、なんだってー!
せめてハイフンでも入れておくべきでしたね。失敗した……
こうなったら、もうやけっぱちで玉金岩野で別垢作って遊ぶことにしますか!
ママには、もう少し考えて私の名前を付けて欲しかったと、小一時間問い詰めたい気分にさせられるよ。
まあ、環希って名前にも愛着があって、好きな名前ではあるんだけどさ。
でも、今度更新する新しいパスポートからは、逆の表記になるんだっけ?
ハクトウワシの紋章のパスポートのほうは、そのままだけどさ。
そう、私の場合アメリカに入国する際は、白頭鷲のパスポートで入らないと怒られるんですよね。
日本を出国する時に日本のパスポートを使用したとしても、アメリカに入国する時にはアメリカのパスポートを使用しないとダメとか、ちょっと不思議な感じがしました。小並感。
だけど、保安上とかで大丈夫なんでしょうかね? ちょっと気になります。
まあ、色々とメリットもあるし便利だから別に構わないのですけど。
デメリットは、うーん…… ちょっと手続きが増えて面倒な程度でしょうか?
それに、私が成人になった時に日本国籍を選択したからといって、それでアメリカ国籍から離脱したとみなされるわけじゃないんですよね。
国籍放棄の手続きも色々と面倒臭そうだから、私が政治家にでもならない限りは、たぶん二重国籍のままで一生を過ごすのでしょうね。
それに、あの手この手で引き留められるとかも聞きましたしね。
私とか有名人の場合は特に引き留められる気がしますし。
なんだ、アメリカってもっとドライなのかと思っていたけど、意外と優しいところもあるんですね。
まあ、意外と言ったら、アメリカに失礼なのかも知れないけど。
もっとも、私がカリフォルニア生まれだったと知った時が一番驚きましたけど。
私に前世の記憶があるとはいっても、3歳ぐらいよりも前の記憶は朧気にしかないからね。
前世が日本人でしたし、たまたまアメリカで生まれたというだけで、私にはアメリカ人という自覚は皆無なんですよね……
一応、英語は喋れるけどさ。
それにしても、寒い!
いったい地球温暖化はドコに行った? 全然温暖化してないじゃないですかー。
むしろ寒冷化しているんじゃね? そう思えるような寒さですよ、これは。
まあ、愚痴を言っても始まらないので、ラジオ体操をすることにしますか。
「あーたーらしいーあっさがきた!」
ラジオ体操を終えたら、今度はランニングの時間になります。
「はっはっはっ」
「環希ちゃん、おはよう」
自宅の周囲をランニングしていると、ご近所のお年寄りが声を掛けてきました。
「おはようございます!」
「全豪オープンは惜しかったね~」
「次、また頑張ります!」
「純はしっかりと環希ちゃんの警護するんだよ!」
「サー! 了解であります!」
そう、ご近所のお年寄りが発破をかけたように、純ちゃんことストーカー1号が本当にストーカーとして、私の後ろを走って付いてきているのですよ。
自 転 車 で!
それも、電 動 自 転 車 で!
でも、ストーカー1号に私と同じスピードで走るのは、土台無理な注文なのだから、しょうがないよね?
まあ、ストーカー1号といえども、純ちゃんは私の知り合いなのだから、万が一本当のストーカーが現れた場合、それに対処する警備員みたいなモノですな。
ちょっと私が有名になりすぎたから、念の為に予防措置を講じたということです。
純ちゃんが勝手に、だけど……
一歩間違えれば迷惑行為とも取れる、この行動を私も仕方なしに黙認というか、追認してあげたということです。
本人がやる気になっているのに、その行為に水を差すほど私は心の狭い人間ではありませんので。
楽して電動ママチャリを漕いでるストーカー1号では、かなり頼りない警備員だとは思いますけど、それでも男手がいないよりはマシでしょう。
でもこれで、純ちゃんは自宅警備員を卒業したということになります。
やったね!
まあ、給料はゼロだけどね。
でも、下僕だから仕方ないよね!
それに、純ちゃんが好きで勝手にやり始めたことなんだし。
さすがに、親切の押し売りにまでは、私もお給金を払えませんってば。
それを一度認めてしまえば、切りがなくなるしね。
それにしても、私の青春というのはキャッキャッウフフの甘酸っぱい青春じゃなくて、どうやら小太りのオッサンに付き纏われる、加齢臭で酸っぱい、そんな青春であったらしい……
どうしてこうなった?
ご近所付き合いの延長線上ですかそうですか。解せぬ。
そういえば、作者のプロフィールが自宅警備員だったよ…
ストーカー1号の下僕理由は… 考えてませんw