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179話 全豪オープン試合後の記者会見その3


『──だから、メンタルがクソ雑魚ナメクジな人のことを、豆腐メンタルと呼ぶのです』


『ちょっ、放送禁止用語が混ざってますよ!』



『え? そうなの? 英語はネイティヴじゃないからなぁ。みんなも使ってるし、汚いスラングも全然オッケーなんだと思ってました』



 みんな、ファック系のスラング使いまくっているじゃないですか、やだー。

 それも、罵る時だけじゃなくて、驚いた時や喜んだ時とか嬉しい時にもさ。


 どうにも欧米人って、もしかしたら日本人以上に建前が好きな連中のような気がしてきたぞ。

 面の皮の厚さでは、日本人は絶対に欧米人には敵わないと思いますしね。


 日本人で面の皮が厚くて、日本国内ではブイブイいわせていたとしても、欧米に行ったら精々現地の高校生レベルだと思いますね。

 欧米の大学生クラスには完敗ですよ。


 まあ、文化が違うのだから、一概には言えないのかも知れないけどさ。



『下品なスラングは、公共の場ではダメですよ』


『そうだったんですね。あとで公共の場で口に出してはいけない、単語の一覧表でもください』



 それはダメあれはダメと、否定するだけなら子供でもできるのだから、指摘した人にはされた人に対して、何がダメなのかを教える義務があると思います。

 否定をするのであれば、ちゃんと口を出した責任を果たせやということですね。



『わかりました。一覧表を作って届けましょう』



 お? この記者さんは大人ですね。



『ありがとうございます。それで、会見拒否のことでしたね』


『はい、トーフメンタル。つまり、メンタルが弱いは語弊がありますので、選手の気分が乗らない時に会見を拒否しているとは思います』


『気分が乗らないからといって会見を拒否するのは、プロとして我がままだとは思いますけど、拒否したくなる気持ちも理解できます』



 記者にも、私の同僚であるテニス選手にも配慮をするとなると、この程度の言葉が角が立たない限界でしょうね。

 たまきちゃんの八方美人作戦の成果は如何に?



『我がままだと認識しているのに、理解もできるのですか?』


『そりゃあ、人には誰にでも踏み込んでほしくない領域というモノがあるでしょ? 記者さんにもありますよね?』


『それはありますね』



 答えてくれた記者さんの場合だと、ライトを照らすとピカッと光りそうな薄っすらとした、あの頭皮が不可侵領域でしょうかね?

 油でテカっているから、ルクスが数倍に跳ね上がりそうですもんね。



『私が記者さんの、その踏み込んで欲しくない領域に遠慮なしに踏み込んで、グサグサと心を抉ったら、どう思いますか?』


『それは、嫌ですね……』


『嫌ですよね? そして、それは選手も同じなんですよ?』



 あまり口にしたくない内容の話を口にせざるを得ない時には、相手も同じ土俵に上げて当事者に巻き込んでしまうのが一番だと思いますね。

 自分の立場を相手に置き換えて思考させるように誘導することができれば、なおのこと良いでしょう。


 つまり、相手に共感させるということですね。

 ママと麻生さん直伝の詐欺師まがいの話術ですな。


 対象相手を共感させてしまえば、もうこっちのモノですよ。

 壺でも水晶でも山林原野でも和牛でも買ってくれるようになるのですから、笑いが止まらないでしょうね。


 まあ、一番売れるのは実用性は高いけど、単価は安い換気扇のフィルターだったりもするのですけどね!


 うん? 和牛…? 黒毛和牛のステーキが食べたくなってきちゃったよ。

 もちろん、A5等級の1ポンドで焼き加減はミディアムでお願いします!


 ポンポンが減りすぎて思考が脱線しちゃったよ。


 考えを纏めている記者が何か反論する前に、たたみ掛けておきましょう。

 これも、インチキ紛いな話術の一つですね。


 フォロワー300万、チャンネル登録者数250万のたまきちゃんに隙はなかった!



『だから、会見拒否をされたくないのであれば、手加減してあげてください』


『なるほど、ニワノ選手は若いのにしっかりとした自分の意見を持っていますね』



 う~ん、やや、嫌味が混じっているような返しなのかな?

 そうとなれば、そろそろ切り上げ時ですか。



『ただ単に、私の我が強いだけかも知れませんよ?』


『『『あはは』』』



 よし、これでセンシティブな話は終わりだな。

 日本人的な玉虫色の手法で、上手く煙に巻くことができたかな?


 重箱の隅を突くのが得意な海千山千の記者相手には、ちょっと微妙かも知れないけど。



『話は変わりますけど、次はどの大会に出場する予定にしているのでしょうか?』



 ほらね。まともな神経をしている人であれば、さっきの話はあれで終わりだと空気を読んで、自分から話を変えるのが普通なのです。

 まあ、空気の読めない人や、根性が捻じ曲がっている人は別ですけど。


 え? ブーメラン?


 そう思ったヤツは、ちょっと前に出ろ。

 たまきちゃんがいかに、品行方正で素晴らしい人格の持ち主なのかを、小一時間懇々と親切丁寧に教えて差し上げますので。


 もちろん、正座でですよ?



『予定としては、一旦日本に帰国して3週間ほど学校に通ってから、2月のドバイ500でツアーに復帰する感じになると思います』


『ドバイですか? しかし、ニワノ選手の現在のランキングでは出場するのが厳しいのでは?』


『私の144位?145位?ぐらいのランキングでは、本来であれば予選すら出場できないでしょうね』



 今日の試合は負けてしまったけど、10ポイントは貰えましたので、ここまでの私の合計ポイントは、150+280+10で、440ポイントになりました。

 145位ぐらいになると、10ポイント程度を加算しただけでは、ほとんどランキングは上がらない順位ということです。



『そうなりますと、ワイルドカードですか?』


『はい、ドバイ500の大会は、もう既にワイルドカードで出場する予定になっています』


『ドバイのワイルドカードがもらえた理由はわかりますか?』


『ほら、ドバイは私のスポンサーの本拠地だし、ゴルフでいうところのホストプレイヤーみたいな感じだからじゃないでしょうか?』



 私は自分が羽織っている薄手のジャージの、右胸に付いているワッペンを指で差しながら、そう説明しました。



『だから、ワイルドカードで出場ということでしたか、わかりました』


『まあこれで、今年のワイルドカード枠は全部使い切ってしまいますので、ドバイで頑張ってポイントを稼がないと、インディアンウェルズには出場できるかどうか微妙になっちゃうんですけどね』


『大会への出場といいますと、ニワノ選手の14歳という年齢では、ツアーへの出場回数が年間で8大会までと制限されていますよね? そこのところはどう思われますか?』



 記者の質問に対して、私は指を折りながら、これから出場する予定の大会を計算してみることにした。



『そうですね、出場できるかどうかは別にしても、これからの予定として立てているのは、ドバイ、インディアンウェルズ、マイアミ、マドリード、ローマ、ローランギャロス。これで、8大会の出場制限に引っ掛かってしまいますね』


『それだと、ウィンブルドンや全米オープンには出られませんね』


『どうしましょう? 困りましたね……』



 わざとらしく指でポリポリと頬を搔く仕草をして、記者からの反応を待ってみることにしました。



『WTAとITFに出場回数を増やしてくれと掛け合ってみたらどうです?』



 惜しい! そこは特例の話を持ち出して欲しかったところだよ。

 というか、いい加減にポンポン減った。


 納豆巻き、鉄火巻き、かっぱ巻きに、お稲荷さんが食べたい。



『そうですね、それがベストかな? ランキングで100位以内に入って、グランドスラムの本戦にダイレクトインできるようになれば、特例で出場回数を増やしてくれるかも知れないので、それに期待することにします』


『なるほど、そういう特例は過去にもありましたね』


『まあ、WTAがどう判断するのか? そこまでは分かりませんけど』



 あかん、マジでそろそろ限界だわ。



『すみません、おなか減ったから、そろそろ終わりにしてもいいですか?』


『『『はははは~』』』


『聞きたいことも聞けたし、いいかな』


『それではこれで、ニワノ選手の試合後の記者会見を終わらせていただきます』


『みなさん、またドバイでお会いしましょう』



 さあ、腹一杯食うぞー!


 というか、ママと萌香ちゃんは一体ドコに消えたんだ?



記者会見だけで合計で1万文字超えてしまった…

環希の記者会見は終わったけど、次話は?

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― 新着の感想 ―
[一言] ほとんどのWTA500大会では、エントリー締切時ランキングが200あれば、WCやAltでなくても足切り無しに予選に参加できます。 ちなみに今年のドバイは280位、東レに至っては400位くらい…
[良い点]  この大会に負けて、たまきちゃんが何か得たこと。  今回の記者会見もでかい問題発言して嬉しかったです。また、子供ぽいところもいい点。 [気になる点]  主人公の暗示でクリスさんの大会にもし…
[一言] さーて何を食うのか・・・?食レポかな?
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