170話 香港国際空港にて
いいサブタイが思いつかなかった…
後半、萌香視点です。
香港国際空港
「それじゃあ、優梨愛ちゃんも気を付けて帰ってね」
「はい、また来月の京都から一緒にお願いします」
「You're going to high school so study hard!」
「べ、勉強は、ぼちぼちと頑張ります……」
「お? ちゃんとヒアリングできてるじゃん」
「まあ、その程度の英語であれば、なんとか」
「でも、とっさの場合でも英語で返せるようにならないとねー。世界中のプロサーキットを廻るのに、英語は必須なんだからさ」
「それは坂巻の言うとおりね」
「が、頑張ります。萌香さんもシンガポールの25k頑張ってください」
「一週目はシングルス一本に絞るつもりだし、香港に比べてドローの面子も落ちてる感じだから、優勝を狙っていくよ」
「その意気です!」
「日本は真冬で寒いのだから、里田は風邪をひかないようにな」
「コーチお母さんみたいですよって、コーチは環希のお母さんでしたね」
「里田は私のことをなんだと思っていたんだ?」
「テニスのコーチ…ですね」
「確かにコーチだから反論もできん。それはそうと、もう里田もプロになったのだから、うるさく言わなくてもいいのだろうけど、練習のやりすぎオーバーワークは禁物だぞ」
「学校がありますし、平日の練習は夕方からなので大丈夫ですよ」
「かといって、手を抜いてサボるのも禁止だからな」
「さ、さじ加減が難しそうですね」
「今回みたいに別行動になることは、これからもちょくちょくあるのだから、一人で考えて練習メニューを組むのも、また練習よ」
「コーチから言われたとおりの練習をするだけでは、成長しないということですか?」
「私が教えているのだから、ちゃんと成長はするぞ? 実際に成長を実感できているだろう?」
「そ、そうですね」
「一人で考えさせるのは、プロ選手としての自立を促すといったところよ」
「つまり、コーチに甘えすぎるなということでしょうか?」
「テニス選手がコートに立てば、頼れるのは自分一人だけだわ」
「それは、確かにコーチの言うとおりでしたね」
「自分で考えて、相手の裏を掻く戦術を組み立てられなければ、100位から上には行けないわよ」
「実際に経験しているコーチの言葉ですから、説得力が違いますね」
「それに、オンコートコーチングは一度だけしか使えないのだし、試合中に対戦相手も色々と戦術を変更してきて、アドバイスした対策も役に立たなくなる場合も多いわ」
「だからこそ、自分で考える力を養うということに繋がるのですね?」
「そういうことになるわね。まあ、そうは言ってもいきなり一人だと里田も心細いだろうから、由美のところからヒッティングパートナーを寄越してもらえるように手配しといたから」
「チーム・ユミから来てもらえるとなると、誰が来るのかな?」
「誰が来てくれるのかまでは分からないな。ヒッティングパートナーを指名したいのであれば、里田も練習相手を指名できるような、偉い身分のランキングに早くなりなさい」
「偉そうに、おまえ練習の相手しに来いとか、ちょっと憧れますね」
「バカなこと言ってないで、詳しいことはウチの母に聞いてちょうだい」
「希美さんにですか?」
「私が不在の時は、母がウチのコートを管理しているから」
「わかりました」
※※※※※※
日本に帰国する優梨愛ちゃんを見送ってから、まどかコーチと二人で香港からシンガポールに向かう飛行機に搭乗して、南シナ海を南下している途中です。
今回は前回の香港行きと違って、ちゃんとビジネスクラスに搭乗しています。
まあ、LCCの4万7千円のビジネスクラスなんだけどさ。
でも、エコノミーとの差額分は、まどかコーチがちゃんと負担してくれました。
有言実行で、まどかコーチは太っ腹ですよね。
まあ、まどかコーチの本音は、自分がエコノミークラスに乗りたくないだけなんだろうけど、そのおこぼれにあずかれるのだから、わたしには文句などありませんとも。
それで、日本に帰国するために、わたしたちよりも先に出発した優梨愛ちゃんも、ちゃんとLCCのビジネスクラスに搭乗して帰国しています。
まどかコーチと一緒じゃないのに、優梨愛ちゃんもビジネスクラス?
先週のダブルスで優勝した御褒美で、まどかコーチからのプレゼントでした♪
エコノミーとの差額分の3万円程度とはいえ、まどかコーチは太っ腹ですよね。
といいますか、まどかコーチはアメとムチの使い方が上手い気がします。
それと、今週のダブルスは残念ながら二週連続優勝とはならず、SFで中国人ペアに負けてしまいました。
深圳250に出場していたペアが25kに出てくるなよ!とか思った、わたしは悪くありません。
ちなみに、今週のシングルスの成績はといいますと、わたしはR16で敗退しちゃいました。
優梨愛ちゃんは二週連続で、QFに進出といった結果になりました。
まあ、優梨愛ちゃんも、QFで負けちゃったんだけどね。
そして、香港での二週連続25k大会のトータルの結果はといいますと……
シングルス 一週目 QF 672$ 9P
二週目 R16 408$ 5P
ダブルス 一週目 Win 719$
二週目 SF 180$
合計 1979$
といった結果になりました。
まどかコーチの分を含めて、香港までの飛行機代とホテル代はギリギリ稼げましたので、ドサ廻りの出だしとしては、まずまずの結果と言ってもいいのではないでしょうか?
まあ、本音を言うのであれば、いま搭乗している、シンガポール行きの飛行機のチケット代の分までは、できたら香港の二週で稼ぎたかったのですけど、それは贅沢な注文でしたね。
それで、わたしのシングルスのポイントとランキングは、117ポイントで420位と先週の435位から少しだけ上がりました。
優梨愛ちゃんは、74ポイントで550位を切ってきましたね。
うーん、このままのペースだと、ウィンブルドンの予選に入るのは、かなり厳しそうな感じがしますね。
230位で、275Pぐらいが予選インできるカットラインでしょうか?
最低でも、あと160ポイントの上積みが必要ということですね。
25kを三回優勝しても届かないじゃないですかー。
うん、今のわたしの実力では、たぶん無理だな。
それと、3月以降はウィンブルドンまでの間に、6Pをディフェンドする大会が三つありますので、その三つの大会はQF以上に進出しないとポイントも伸びないですしね。
まあ、他の大会で稼げれば、それらを帳消しにはできますけど。
それに、わたしはまだプロサーキットでの優勝すら経験したことがないのだから、まずは初優勝を目指すのが先でしたね。
そうすれば、おのずと結果とポイントは後から付いてくるのだし。
気持ちを切り替えて、9月の全米オープンの予選出場を目指して頑張ることにしますか!
そのためにも、シンガポールの25k大会で好成績を残さなければ。
「それにしても、たまきちゃんの全豪オープンのドローは、コーチが予想していたとおりのドローになりましたね」