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1 1-0 40-40a 優梨愛ちゃんは友達が少ない


「ということで、よろしくお願いしますね。せ ん ぱ い♪」


「なにを?」


「チームマドカでは、お世話になりますってことだよ。環希は読解力低すぎ」



 な、なるほど。でも、優梨愛ちゃんも端折りすぎだと思うのですけど?

 私は言葉を理解する能力が低いのかなぁ?


 でも、英語は喋れるし聞き取れるんだから、大丈夫だと信じたい!

 まあ、英語は前世の記憶のおかげでもあるのだけどね。これでも一応は、世界を飛び回ってプレーしていたのだから。


 主にドサ廻りだったけど。



「なるほど。でもね、一言いいかな?」


「はい、先輩! なんでしょうか!」



 ノリがいいね。そういうノリは嫌いじゃないよ。



「先輩から優梨愛ちゃんに、一言忠告があるんだ」


「お? 早速、先輩風を吹かしてますねー」


「体育会系のクラブでは、実力があって生意気な後輩は〆られるんだよ?」


「その生意気な後輩ってのは、アンタのことでしょーが!」



 しかし、優梨愛ちゃんの猫被りの仮面は、三秒で剥がれてしまった!



「私の方が先輩だもん!」


「でも、二歳も年下じゃん!」


「チームマドカでは、先輩ですぅ」


「ぐぬぬ、今に吠え面かかしてやるんだから!」


「わんわん! 吠えてみた」


「アンタ、絶対に友達少ないでしょ!」



 そ、そんなこと…あるのかも知れない。

 ま、まあ、テニスの練習ばっかしているから、友達とも遊ぶ時間が少ないのだと、言い訳をしておきましょう。


 それに、遊ぶ時間がないのは、優梨愛ちゃんも同じでしょ!

 テニス少女には、自由に遊ぶ時間は限られているのだから。


 つまり、優梨愛ちゃんも友達が少ない。これにて、証明終了。



「じゃれ合っているところ悪いけど、二人とも表彰式があるの忘れてるわよ」


「「すいませんでした!」」






 ※※※※※※






「優梨愛ちゃんは中学どうするの? 地元の公立に行くの?」



 大阪から横浜に帰る新幹線の中です。帰宅方向がまったく同じ路線だから、優梨愛ちゃん親子も一緒であります。


 STCの帯同コーチ? 知らん。この新幹線の中では少なくとも見かけないですね。車で大阪まで来ていたんじゃないのかな?

 あそこは、新幹線の駅がある新横浜や小田原に出るよりも、新湘南バイパスから圏央道を通って新東名のほうが便利そうだし。


 ちなみに、ブルジョアだからグリーン車だよ!


 まあ、ブルジョアは冗談として、お盆の季節と重なっているから、グリーン車しか指定席を取れなかったというのが正解かな?

 行きは普通車指定席だったしね。ママは案外ケチなんですよ。


 子どものうちからあまり贅沢を覚えさせると、大人になってから苦労するとか考えて、教育の一環なのでしょう。

 うん、そう好意的に解釈をしておこう。


 新大阪始発の新幹線に乗れば自由席でも座れるのだけど、自由席の座席を確保するためには、二本か三本は列車を見送ってその後の列車になりますしね。

 さすがに、ホームで自由席の長蛇の列に並ぶのはママも嫌だったのか、今回はグリーン車となりました。


 前世の私の子供時代には、二階建て新幹線が走ってた記憶が辛うじてあるのだけど、いつの間にやら姿が見えなくなってましたね。

 個室や食堂車にビュッフェとかも連結されていたんだよね? 一度でいいから、新幹線の食堂車というのを体験してみたかったよ。


 つまり、新幹線には旅の情緒というモノがない気がするのですよ。

 まさにビジネスに特化した、移動するだけの乗り物ですね。


 まあ、キセル対策や、個室や食堂車を廃止して座席数を増やして、同じタイプの車両を使用して統一された仕様での運用とかの必要があったのでしょうけれども。


 列車じゃなくて、話が脱線してしまった。


 それで、優梨愛ちゃんが来年から中学生になるから、進学先を聞いてみたという訳です。

 普通であれば、そのまま公立の中学に行くのが普通なんですけど、都会は私立の学校も多くて、選択肢も多いのです。



「うーん、お母さんに聞いてみないとなんとも言えないけど、中学受験の勉強なんてしてこなかったから、私立はないんじゃない?」



 まあ、いままでの優梨愛ちゃんだったら、夜の十時半に帰宅とかなんだから、受験勉強の時間なんて取れなかったわな。

 こうなったら、優梨愛ちゃんのお母さんに聞いてみましょう。



「おばさん、その辺りはどうなんですか?」


「そうねぇ、庭野さんは優梨愛の進路は、どうしたら良いと思います?」



 しかし、私の質問を優梨愛ちゃんのお母さんは、更にうちのママにパスしてしまった!



「そうですね、里田さんのお子さんの将来を考えたら、私は山手女学院をお薦めします」


「山手女学院? あのお嬢様学校のですか?」



 ママの口から、山女の名前が出てくるとは驚きましたね。

 山手女学院だから、略して山女と呼んでいる女子中高一貫校で、横浜では一二を争う、お嬢様学校と名高い私立の名門校が、山手女学院なのであります。


 名門のお嬢様学校だから、それはもう女の子には人気があって、山女の制服は女の子の憧れになっているとか? 受験倍率も高くて、合格は狭き門なのだと聞き及んでいます。

 私の同級生の中でも、おませな子なんかはもう既に、山女に行く気満々になっていたりするぐらいには、山女というのは人気がある学校といえます。


 しかし、山女は中高一貫教育だから、高校は内部エスカレーター式ですので、高校からの外部入学は認められていないのである。

 だから、中学受験にも余計に熱を入れて頑張らないと試験に合格できないのが、山手女学院ということです。


 でも、小学生のうちから受験勉強だなんて、世知辛いとか思わなくもない。

 前世でも受験勉強とは無縁の人生だったから、余計にそう思うのかな?


 といいますか、アスリートって受験に就活に就職とかって、普通の社会経験がまったくない生活を送っているのだと、改めて実感させられるよ。

 現役時代に実績を残せずに引退したアスリートは、社会経験値が低いからその後の社会生活に苦労するんだろうなぁ。


 それでも、適応能力がある人は、直ぐにでも社会に溶け込めるだろうし、苦労するとかも人によりけりなのかも知れない。


 私も頑張らないと!



「山手女学院なら、ウチは通学途中にありますので、学校の帰りにウチに寄って練習してから帰宅することが出来ますので、お子さんも今までよりは早く帰れるでしょう」


「私が娘をSTCに入れたばかりに、娘には夜遅くまで苦労させていたようでして」



 おばさん、ドンマイ!


 STCは悪くはないんや。ただ単に、家とSTCとの距離だけが問題だったんや。

 そっか、山女ならば根岸線の石川町だから、私の家は優梨愛ちゃんの帰り道の途中になるのか。


 ちなみに、私の自宅兼テニスコートは、駅から徒歩2分という好立地条件であります。駅に近いと何かと便利だよね。

 まあ、その分、電車のガタンゴトンという音も多少は聞こえてくるのですけど、その音が不快とまでは思いませんので、夜もちゃんと眠れています。


 でも、サッカーの試合がある日は、人の波が少し怖いよ。



「あそこならば、ある程度は融通が利きますし、お子さんのテニスの実績ならば、特待生で入学できると思います」


「山手女学院に優梨愛が入れるのですか?」


「といいますか、私がゴリ押ししてでも入れます」



 ゴリ押しするのかよ!

 というか、珍しくママが強気に押しているよね。



「しこりの残る方法はちょっと……」


「お子さんの実績ならば大丈夫ですよ。それに、あそこの理事長の娘は、私の顔馴染みですから」


「そうでしたか」



 なるほど。山手女学院は、ママの知り合いが運営していたのか。

 やはり、世間を上手く渡るのには、コネって大事なんですね。



「ママ、それってコネで入学するってこと?」


「コネと言えばコネだけど、それでも優梨愛ちゃんの実績があればこそよ」


「つまり、優梨愛ちゃんのテニスの成績が良いから、ママも推薦ができて活かせるコネってことか」


「まあ、そういうこと。優梨愛ちゃんにテニスの実力がなかったら、いくら私の知り合いでも口利きなど出来ないわよ」


「でも、私は全国大会では優勝したことないですけど、大丈夫なんですか?」



 自信なさげに、ママを上目遣いで見てくる優梨愛ちゃんも可愛くていいね。

 おっといかん、涎が零れそうになってしまった。



「準優勝やセミファイナルでも十分立派な成績だよ。同世代では日本で二番目三番目の実力なんだから、優梨愛ちゃんはもっと自慢してもいいのよ」


「環希の成績を見ていると、私が自慢するのが恥ずかしくなります……」



 優梨愛ちゃんは、驕り高ぶって落ちるよりは、謙虚に生き長らえたいということですか。でもこれって、誰の言葉だったかな?

 今の私は、有頂天が空を突き抜けて宇宙まで届いちゃっているからなぁ。地球に落ちる前に燃え尽きちゃうよ。



「この子はちょっとアレだから、環希を別枠と考えれば、今年の全日本ジュニアで一番は優梨愛ちゃんよ」


「はぁ、アレですか? 確かにコレはアレかも知れないですね」


「ママも優梨愛ちゃんもひどい!」



 アレとかコレって、私はショーケースに陳列されている、ケーキやなんかと同じ扱いなのか?

 まったくもって、失礼千万であります! 私はこんなにも可愛いのにね?


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