169話 ストーカーかナニかかな?
『それにしても、ガビーは私の居る場所がよく分かったね』
ガブリエラちゃんは、私のストーカーかナニかなのかな?
『タマがSNSに、この場所を投稿していたでしょ?』
『ああ、なるほどねー』
どうやら、ストーカーではなかったようでしたね。
ガビーなら別におkだっただけに、ちょっとだけ残念かも?
でも、見知らぬキモい人からストーカーされるのは、さすがにゴメンですけど。
見る人が見れば、どこのテニスコートなのか? 一目瞭然ということでしたか。
そら、メルボルンで規模が大きめなテニスコートの数なんて、たかが知れてるだろうし、周囲の景色と合わせたら、テニス関係者だったら分かるわな。
『というか、なんでガビーはメルボルンにいるの? トララルゴンに出るから?』
『トララルゴンには明日向かうんだよ』
トララルゴンとは、メルボルンから東に150kmぐらい行ったところにある小さな街のことです。
その小さな町で、全豪ジュニアの前哨戦の大会があるということですね。
『そっか、トララルゴンから全豪オープンジュニアとお決まりのコースなのね』
『そういうことになるね』
ジュニアサーキットのランキング上位の選手にとっては、1月の王道コースとも言えるでしょう。
昨年の萌香ちゃんと優梨愛ちゃんの二人も同じローテーションだったしね。
『全豪オープンジュニアの後は、ブラジルのGA大会が目標なの?』
『GAじゃなくて、JAに変わったんだよ』
『そういえば、そうだったかも』
でも、日本人の私からしたら、JAって農協のイメージなんだよぉぉ。
『それで、ブラジルのJA大会には出ないよ』
『おりょ? 出ないんだ』
ガブリエラちゃんの実力なら、クレーコートで開催されるブラジルのJA大会は勝てるチャンスが十分にあると思うから、出場しないのは少しもったいない気もしますね。
JA大会…… やっぱ農協主催のナニかの大会なのかな?
まあ、冗談はさておき、ブラジルのJA大会とは、毎年2月後半頃に開催される、南米で一番大きなジュニアの大会のことです。
ジュニアサーキットを廻っている、ランキング上位のジュニア選手にとっては、全豪オープンジュニアの次に目標とする大会になります。
日本からだとブラジルは遠いけど、日本のジュニア選手でも強い子は、この大会に出場したりもしているんですよね。
協会に指定されたジュニアの強化選手だったら、この南米遠征の費用は協会が負担してくれるみたいです。
ワンコイン制度も、このように有効に活用されるのであれば、私にも異存はありません。
ジュニア選手の全員が、私と同じように裕福な家庭の子とは限らないもんね。
まあ、中には当然ながら、私以上にお金持ちのお坊ちゃんお嬢様もいるのでしょうけど、それは極少数だと思いますしね。
『オーストラリアオープンの後は、私も15kを廻る予定にしているんだよ』
『ガビーもジュニアサーキットを卒業するってこと?』
『今年一杯はジュニアに出られるから、まだ卒業はしないけど、この先を見据えてということだね』
つまり、ガブリエラちゃんは、萌香ちゃんの一つ下で優梨愛ちゃんの一つ上の年齢ということになります。
ちなみに、アナスタシアは私の一つ上で優梨愛ちゃんの一つ下になります。
萌香→ガビー→優梨愛→アナスタシア→私の順番ですね。
『それだったら、トルコかエジプトかチュニジアの15kになるのかな?』
『そうだね。たぶん、マヨルカとトルコのアンタルヤになると思うよ』
『あー、なるほどねぇ。ガビーはクレーの方が得意だもんね』
エジプトのシャルム・エル・シェイクと、チュニジアのモナスティルで開催される15k大会の、サーフェイスはハードコートなのです。
翻ってマヨルカ島とアンタルヤの大会は、クレーコートということですね。
『そういうこと! まず最初は、自分の得意なサーフェイスでポイントを稼がないとね!』
『それは、悪くない選択だね』
ポイントを稼いで少しでもランキングを上げておかないと、25Kでは予選にすら入れなかったりすることもあるからね。
『ローランギャロスジュニアで優勝するためにも、15kといえどもプロと対戦するのは良い経験になると思うしね』
『ローランギャロス優勝とは、ガビーも大きく出たね!』
『ジュニアが抜けているわよ、ジュニアが。今年はタマとダラディエはいないし、もしかしたらトカチェフスカヤもプロサーキットに回っていないと思うから、私にもチャンスがあるかなとか思ってさ』
そういえば、アナスタシアって今年の全豪オープンジュニアにエントリーしてませんでしたね。
今年のアナスタシアは、ジュニアサーキットじゃなくて北米と南米の15kと25kを中心にして、プロの下部大会をメインに廻る予定にしているのかな?
でも、アナスタシアちゃんの実力であれば、早ければ今年の全米オープンの予選には入ってきそうな感じがしますね。
来年の全豪オープンまでだったら、怪我でもしない限りは、ほぼ絶対でしょう。
『でも、ジュニアフレンチオープン優勝が目標なら、ちょっと無理してでも25kに出場したほうが、もっと良い経験値を得られると思うよ?』
さっきとは真逆のことを言っているけど、本気で全仏ジュニアを獲りに行くのであれば、また話は変わってくるのですよ。
15kと25kって結構レベル差がある気がしますしね。
まあ、私は15kも25kにも出場したことがないから、私が外から見た感覚でしかないのですけど。
『ヨーロッパ近隣では、春先のクレーコートでの25kの大会が少ないんだよ』
『だから、マヨルカとアンタルヤの15kしか選択肢がなくなるのね』
『そういうことになるわね』
南米やオーストラリアだったら、2月や3月にクレーの25k大会もあるのだけど、ガビーはスペインを拠点に活動しているわけだから、どうしてもヨーロッパ周辺諸国をメインにして、サーキットを廻ることになるのは仕方ないのだろうね。
遠い場所に長期遠征するとなると、主に金銭面の負担が大きくなるのが問題なんだろうなぁ。
『それはそうと、全豪オープンジュニアで優勝するとは言わないんだね』
『黙れ。余計なことを言う悪い口は、この口だな?』
『ひっはっひゃらめ~』
ガブリエラちゃんに頬っぺたうにゅ~んの刑をやられてしまった!
『タマって口だけは、絶対にイギリス人かフランス人だよね』
『皮肉と嫌味が多いってことかな?』
まあ、それは確かに私も自覚していますとも。
でも、無自覚にナチュラルに口から出ちゃうんだよぉぉ!
『おー、ちゃんと自己分析できてるじゃん』
『事故分析官、タマキ・ニワノと呼んでくれたまえ』
『それにしても、タマはあっという間にツアー優勝しちゃったね』
ガブリエラちゃんにスルーされちゃったよ!
ちょっとだけ、ショックな気分です……
『ドロー運も良かったんだよ』
『トップ10のベルナルディに勝ったのをドロー運とは言いません』
『じゃあ、私がベルナルディよりも強かったということで!』
『うん、強かったと思うよ。だけど、タマは私と比べて遥か高みの存在、雲の上の存在になっちゃったなぁ』
ガブリエラちゃんが憂鬱そうに黄昏ちゃいましたよ。
でも、250に勝っただけなのだから、さすがに雲の上は大袈裟だと思うよ?
『そうかな? 仮にそうだったとしても、あくまでも私は私だよ?』
『それじゃあ、タマがツアーで大活躍しても、私と友達でいてくれる?』
『おふこーす! そんなの当たり前だよ! クラッカーだよ!』
もちのろんでっせ! 私は気の合う友達が少ないのだから、ガブリエラちゃんが逃げようとしても逃さないよ!
なんだったら、ガビーが今年サーキットを廻る遠征費用も援助しちゃうよ!
そうか、これがセックスもさせてもらえないのに、可愛い子にお小遣いをあげちゃう、ダメなパパ活オヤジの心境なのか……
うん…… アレと同じとか考えると、萎えるな。
うん、ガブリエラちゃんは自分の遠征費用は自前で工面したまえ。
それにしても、自信なさげに上目遣いでお伺いを立てるガビーは可愛いですね。
やっぱ、ガブリエラちゃんが金銭面で苦労してたら、思わず援助してあげたくなっちゃうよぉぉ!
『おおっ! タバリッシュ、タマキ! 心の友よ! クラッカーの意味は分かんなかったけど』
『おおっ! タバリッシュ、ガブリエンコ・カブーチカ!』
私は同志ガブリエンコとガシッと固く抱き合うことで、お互いの変わらぬ友情を再確認したのであります。
手を携えて共にノーメンクラトゥーラを目指そうではないか!
『誰がガブリエンコ・カブーチカやねん、誰が』
えへっ、ガブリエラちゃんに合わせたアドリブでんがな。
といいますか、ガビーも萌香ちゃんと同じで共産趣味者だったのね。
もしかしたら、ガブリエラちゃんのご先祖様って、スペイン内戦の時に共和派かサンディカリストだったのでしょうか?
まあ、同志ごっこを教えたのは私なんですけどね!
『そうだ! せっかくガビーがわざわざ顔を出してくれたんだし、時間があるなら少しストロークの練習でもしていく?』
『話そらしたけど、いいの? タマは来週ワイルドカードでシニアの本戦でしょ?』
『ガビーは私と同じでサウスポーなんだし、私も左対左の貴重な練習相手になるのだから、気にしないでも大丈夫だよ』
同志ごっこができる、貴重な友人を逃がすわけにはいきませんとも!
『それじゃあ、タマのお言葉に甘えて、WTAツアー優勝者の胸を借りようかな』
『優勝といっても、まだ250を一度勝っただけだよ』
『トップ10に勝ったんだから、500に優勝したのと同等の価値はあるでしょ』
そうともいう…のかな?
それよりも、ガブリエラちゃんとハードコートで練習したのは、昨年のニューヨークで一度だけ練習しただけだから、楽しみですね!
同志ごっこ > テニス……
ガビーの利き腕は左と判明しました。前に右利きとかの描写はなかったよね?