167話 チョーヨウノジョ?
ようやく、メルボルン行きの飛行機に搭乗するところであります。
空港ピアノの最後は、結局サナダさんのリクエストどおりに、カーペンターズのメドレーで締めさせてもらいました。
メドレーの最後は当然ながら、トップオブザワールドにしました!
テニス界の頂点を目指す私に相応しい曲なのだから、選ばない理由はありません。
飛行機の搭乗を待つ100人以上のお客さんが聴いてくれていましたので、ピアノを弾き終わったら、スタンディングオベーションの嵐でしたので、私の承認欲求も満たされました。
まあ、最初からスタンディング状態だったのは、ご愛嬌ということで。
人垣の外では椅子に座っている人もいたけど。
それで、今回搭乗する機体は、A330です。ダッシュ200か300かまでは知らん。
繫忙期、南半球のサマーシーズンだったのが、ある意味で良かったです。
これが閑散期だったら、カンタスのオークランド~メルボルンの路線は、B737で運航されていたはずだったんですよね。
搭乗する乗客が少ないのに、ワイドボディの大型機材を飛ばすのは、経営面からみても非効率ということですな。
でも、私は通路が真ん中に一本しか通ってないナローボディの小型機って、どちらかというと苦手やねん。
3列シートの真ん中の席とかの場合は、精神にダメージ受けるんよ。
まあ、ナローボディ機でも、ビジネスクラスであれば大丈夫なのですが。
それか、一足飛びにビジネスジェット機ですね。
ビジネスジェットだったら、小型機でも空間が広く感じられますもんね。
数人しか乗れない超小型機は狭すぎてダメだけど。
あと、小さすぎるプライベートジェット機は航続距離も短いので、私が望む用途にはあまり合致しないでしょう。
つまり、私が欲しいのは、大陸間を横断できるビジネスジェットなんだよぉぉ!
ビジネスジェットをチャーターするのは、今の私からしたらそこまで大した金額にはならないですしね。
まあ、それでも最低でも数百万円とかは掛かりますけど。
大陸間の横断だと、1000万は楽にオーバーするでしょうね。
でも、5~6人以上で纏まって移動するのであれば、一般旅客路線で運航している、ファーストクラスより多少お高い程度の金額に収まるような気もしますね。
そう考えると、想像しているよりも、そこまでは高くないということのかな?
いつか機会があれば、ビジネスジェットをチャーターしてみることにしましょう。
しかし、ビジネスジェット機を自己所有するとなると、最低でも数百億円は資産を保有していないと、厳しいと思います。
できれば、ビリオネア以上の億万長者が理想でしょうか?
まあ、ビジネスジェット機でもピンからキリまで種類がありますので、資産数十億円程度でも小型のビジネスジェットを保有している人もいるとは思いますけど。
だけど、私が欲しいのは、太平洋を横断できるビジネスジェットなんだよぉぉ!
つまり、お高いです。
私もグローバル7500やG650とかの、太平洋を横断できるビジネスジェット機が欲しいぞ。
ACJ319neoやTwo Twentyとかでもいいけど。
でも、ビジネスジェット機の価格は7千万ドルとかしますし、旅客機がベースの機体だったら、1億ドル以上する機体もザラにあります。
まあ、旅客機ベースの機体は、元の値段もお高いのだから仕方ないのですがね。
しかし、いつかは私もビジネスジェットのオーナーになってやりますとも!
むふー! 夢は大きく持たなくっちゃね!
たまきちゃんなら、きっと可能でしょう。
それで、ビジネスはビジネスでもビジネスクラスの話に戻すことにしましょう。
ファーストクラスやビジネスクラスとかで行っているサービスの優先搭乗って、私はあまり好きじゃないんですよね。
なにも平等主義や博愛主義の精神の発露から言っているのではありません。
優先搭乗で先に席に座ったは良いけど、後から100人以上、下手したら200人以上の乗客が私の目の前を通りすぎて行くとか、ちょっとしたホラーだと思います。
つまり、狭い通路を人がわんさか行き来していると、私が落ち着かないんですよね。
まあ、ボーディングブリッジが二本繋がっていて、動線が物理的に分かれている場合や、ビジネスクラスが搭乗口よりも前でエコノミークラスが後ろとかの場合は、優先搭乗にも意味があるのかも知れないけど。
今回の場合は、ボーディングブリッジは一本だったけど、搭乗口がビジネスクラスの後ろで助かりました。
つまり、上級国民の場合は……
「ご搭乗ありがとうございます。足元に気を付けて、左へお進みください」
これが、一般ピーポーになると……
「ニコっ…(ちっ、とろとろ歩くな! 一般庶民は黙ってさっさと右に進む!)」
こんな感じになります。
いや、割とマジで。
どことは言いませんけど、アメリカの某航空会社なんか特に酷いみたいですよ?
ええ、どことは言いませんけど、日系の航空会社とは大違いだと思いました。
でも、アメリカの国内線や近距離国際線の場合は、そうなっても仕方ない面もあるのかなぁ?
鉄道の代わりが飛行機というお国柄ですしね。
日本の新幹線の自由席で、グランクラスの上げ膳据え膳のおもてなしなんて期待できないでしょ?
つまり、そういうことである。
話がそれましたね。
さっさと搭乗することにいたしましょう。
※※※※※※
「これって、ビジネスクラスにしては豪華じゃない?」
超豪華とまでは行かないけど、ワイドボディ機なのに横一列が1-2-1の4席しか席がないアブレストだから、かなり空間が広く感じられます。
だから、これはもう既に、ファーストクラス並みの席のような気がしますね。
「ビジネススイートと謳ってますからね」
「ビジネススイート? なるほど、そういうことでしたか」
そういえば、昨年のウィンブルドンに出場するために、ロンドンまで行くのに搭乗した飛行機の席も、ビジネススイートでしたね。
つまり、ファーストクラスと同等の席ということで、正解みたいですね。
まあ、私はクアラルンプールまでしか、ビジネススイートには座れなかったのですけどね!
「俺、ウィンドウシートがいい」
サナダさんは子供かよ!
「私も窓側~!」
サナダさんに座られる前に、私は物理的に席を確保することにしました。
「あっ! タマキずるいぞ。そこは大人に譲るべきではないのか?」
「普通は大人が子供に譲るべきでしょ?」
「そこは、チョーヨウノジョとかいうのがあるだろ」
チョーヨウノジョ?
ああ、長幼の序ね。孔子だか孟子だったかな?
サナダさんはアメリカ人なのに、難しい日本語を知っていますね。
まあ、古代中国の諺か格言みたいなモノだから、厳密には日本語ではないのかも知れないけど。
それと、長幼の序って年上を敬え。この部分だけが独り歩きしているけど、長幼の序の本当の意味は、年上を敬えだけが言葉の意味ではないのだよ。
だから、年下である私を慈しみなさいな。
ただ年上だからということで敬えという、儒教的な教えで捻じ曲がった長幼の序なんて、ゴミ箱にポイですよ。
サナダさんも敬ってもらいたいのであれば、敬うに値する価値のある人間になるべきだと、わたくしは思いますのよ?
そう、私のお爺ちゃんやお婆ちゃんのようにね!
「でも、1Aのチケットは私が持っているんですぅ」
サナダさんにも理解できるようにと、私はドヤ顔でこれ見よがしに、ひらひらとチケットを見せびらかしてみました。
「なん…だと!?」
私は勝ち誇るように足を組みなおして、ふんむとふんぞり返る真似をしてみることにした。
「マイケルは1Fの席だから、そっちです」
麻生さんナイスアシストだよ!
「だ、そうですよ? サナダさん?」
「ぐぬぬ……」
何がぐぬぬだ、なにがry
「あと、周りの人の目もありますし迷惑にもなるので、静かにしてください」
「はい……」
ふっ、勝った。
まあ、最終的には、2Kの座席が空席だったので、サナダさんも反対側の窓側の席に移動することができたのだけどね。
よかったね!
※※※※※※
オークランドを飛び立ってから二時間あまり、メルボルンまであと二時間ぐらいでしょうか?
窓から眺める光景も、どこにも陸地は見えずに見渡すばかり、タスマン海の、海、また海の連続で、さすがに飽きてきました。
「暇だ……」
さて、暇だから私と一緒にWTAツアーを巡る、チーム・タマキの一員である、麻生さんとサナダさんのお給料についてのお話でも脳内ですることにしますか。
まずは、麻生さんからですけど……
麻生さんは最初、「私は投資で稼いでいるから、基本給はいらない」とか言っていたのですよ。
しかし、私もプロになったのだから、ケジメを付ける意味においても、月に50万は貰うように麻生さんを説得しました。
最初は月100万にする予定だったんだけど、麻生さんに、ドンブリ勘定すぎると叱られてしまいました。解せぬ。
麻生さんには、私の代わりに諸々の手続きや、撮影に動画の編集なんかもやってもらっていますし、月に50万では安いぐらいだと思います。
まあ、その代わり私がツアーで稼いだ賞金の3%は、ちゃんと受け取るのを納得してもらいましたけど。
麻生さんは、私のコーチandマネージャーandデータ分析and雑用係and勉強の先生もやってもらっているのですから、3%の取り分では安いぐらいだと思いますけど、これ以上は麻生さんに拒否されちゃいました。ぐすん。
いくら私がプロ選手になったとはいえ、子供である私からガメツク分捕るのは、大人の矜持として気が引けたのかも知れませんね。
それに麻生さんは、ママ以上のお金持ちのお嬢様みたいですし、お金には困ってないのも影響しているとは思いますけど。
まあ、テニスのプロ選手のツアーコーチとしては、3%の取り分は安いとは思いますけど、麻生さんは名目上のコーチなので、このパーセンテージに落ち着きました。
私の場合、試合の戦術や練習のアドバイスや指導をするような、ちゃんとしたコーチって不在なんですよね。
これから先どこかで私が停滞したら、ちゃんとした有名なコーチを雇うのもやぶさかではないのだけど、コーチ不在でも現状では困っていないですし、しばらくはこのままで行こうかと思ってます。
ママは優梨愛ちゃんと萌香ちゃんのコーチなのだから、常にママと一緒に行動するわけにもいかないしね。
まあ、だからこそ、ママの代わりに麻生さんなのですが。
ちなみに、私のヒッティングパートナーを務める、私の遺伝子上のパパンでもあるサナダさんはといいますと、ちょっと変則的な契約になっています。
サナダさんは、一大会毎に支払われる基本給が2500ドルになります。それにプラスして、私が獲得した賞金の2%がインセンティブとしてサナダさんに支払われるのです。
ヒッティングパートナーとの練習のおかげで強くなれて、大会で好成績を上げることができたよ! とかいうヤツに対しての、サナダさんへのご褒美ですな。
しかし、私の年齢が14歳と若すぎるから、WTAツアーの出場数に制限があるので、今年のツアー出場数は最低が8大会で、活躍して特例で出場数を増やしてもらえたとしても、最高でも12~14大会程度と、かなり少なくなる予定です。
だから、私が出場した大会で上位の成績を収めなければ、サナダさんの今年の年収は2万5千ドル程度になってしまいます。
まあ、もう既にオークランドで優勝したから、1600ドルのボーナスは発生したのですが。
それに、私が活躍すればするだけ、サナダさんの給料も増えるのだから、年収で20万ドル超えも見えてくるんじゃないのかな?
20万ドルといえば、現役の選手でもランキング150位ぐらいの選手に相当するはずだから、現役を引退しているサナダさんにとっては、まずまずの給料ということになるのかな?
まあ、私が活躍して稼げればですけどね!
ようやく、ニュージーランドから脱出!