163話 スポンサーとの契約のあれこれとオリンピック
そういえば、ダウンザライン第三部開始までの三年近くの空白の間に、フェドカップの名称が往年の名選手であったお婆ちゃんの名前に変わってましたね…
ワールドカップという名称に変更する予定がなかったことになってるしw
オリンピック?
え? オリンピックに出るの? この私が?
でも、私はフェドカップにも出場してないし、今年は出られないんじゃないの?
あー、でも、ITF推薦という裏技があったのか……
だけど、たとえオリンピックで好成績を収めたとしても、オリンピックってITF/WTAツアーのランキングポイントが付与されないんだよなぁ。
プロのテニス選手にとってのランキングのポイントって、一般の人が想像している以上に重いんですよね。
ほら、100位前後をウロウロとしている中堅選手の場合だと、グランドスラムの本戦にダイレクトインできるかできないかで、収入が大幅に変わりますので、生活の掛かっている選手はランキングを上げるのに必死で大変なんですよね。
それなのに、オリンピックは、ポイントがゼロだからなぁ。
昔はオリンピックにもランキングポイントを付与していたのに、なんでポイントを付与しなくしちゃったのでしょうかね?
少し不思議な感じがします。
それと、私みたいにスポンサーから別途での報酬でもなければ、オリンピックは賞金すらないですしね。
メダルでも取れば、選手それぞれの母国から報奨金とかあるのだろうけど、その金額も国によってまちまちだろうしね。
日本の場合だと、金メダルを取ったとしても、200万円とか300万円とかでしたっけ? ショボいな……
競技団体によって違うんだっけ? それでも、500万や1000万とかだろうね。
つまり、思い出はプライスレスだったんだよ! な、なんだってー! ωΩΩ Ω
ふーん、そっかぁ、これと同じだったんだぁ。
でもさ、思い出はプライスレス。これを他人が押し付けるのってどーなのよ?
現実問題として、名誉や栄誉という称賛だけでは、腹は膨れないのだよ。
金メダルだったら、3億円ぐらい出したとしても、罰は当たらないんじゃないの?
だから、名誉や栄誉といったモノ以外での、実利を伴う現世利益がオリンピックにはないんだよね。
まあ、メダリストにでもなれば、講演の依頼やイベントへの出演とかは、多少はあるのだろうけど。
あと、引退後にコーチや監督、解説者とかに転向しやすいとかでしょうか?
だけど、それよりも前に、メダリストとして金銭面でも、ちゃんと報いてあげようよ。
特にマイナーな競技のメダリストなんか、可哀想だと思います。
オリンピックが終わってから一月でも経ったら、下手したらメダルを獲った選手の名前すら、地元以外では忘れ去られているような気がしますね。
前回のオリンピックで、メダルを獲った日本人選手の名前を半分でも覚えていたら、上出来の部類じゃないでしょうか?
ちなみに、私は数えるほどしか覚えてません。えへん。
そう考えると、まだテニスは恵まれている方なんだろうね。
それと、選手がメダルを獲ることを身勝手に期待して、国の威信を背負わせておいて、負けたら勝手に失望するとか、身勝手すぎると思います。
昔ありましたもんね。メダルを取ったのに、金じゃなかったからといって自殺にまで追い込んだり、金メダル確実とか思われていたのに、最後で失敗した選手をマスコミと国民総出で袋叩きにしたということが。
「オリンピックはオワコン……」
「いきなり、どうしました?」
つまり、アスリートへのリスペクトってヤツが足らない気がするのですよ。
選手だけにオリンピック精神を押し付けてどうすんのよ?
オリンピック精神とは観客にも求められるものだと思います。
「うーん、麻生さん、私って今年のオリンピックに出るの?」
「ITFと日本の協会とスポンサー次第じゃないですか?」
でも、オリンピック精神って参加することに意義があるだから、選手に押し付けているのとはちょっと違うのかな?
選手が押し付けられているのは、勝利とメダルでしたね。
まあ、これがオリンピックじゃなくて、私の場合だったらグランドスラムとかで勝利を求めるのは、私自身も同じ気持ちだから、勝つことを期待してくれても別に構わないのだけどね。
オリンピックだからこそ、言いたいのであって。
「スポンサーから要請があったら断り難いよなぁ」
「ふふっ、気が進まない顔してますね」
「どちらかというと、ね」
だから、私には日の丸を背負って日本国民を代表して、オリンピックで頑張ってメダルを獲るとか、そういった気概にはならないのですよ。
それに、テニスにはオリンピック以上に権威がある、グランドスラムという大会があるので、私の中ではどうしてもオリンピックの優先順位は低くなりがちになるんだよね。
他のテニス選手の事情までは知らん。
積極的にオリンピックに出場したいと思っている人もいるだろうしね。
「どのみち環希ちゃんの場合は、ITFの推薦がなければ出場することはできないのだから、あまり考えても仕方ないと思いますよ?」
「そうだったね。全豪オープンに集中するべきだったね」
グランドスラムでもファンの期待を背負ってプレーするのは、オリンピックと一緒だとしても、グランドスラムは国を代表してプレーしているわけではないので、その分は気楽なんですよね。
テニスのシングルスは、私個人と相手との戦いなのだから。
だから、私の場合は、頼むからオリンピックに出場して下さいとか、頭を下げてお願いしてくるのであれば、出場するのもやぶさかではない。そういった感じでしょうか?
私は数年前の出来事をちゃんと覚えているんだぞ。
こうみえても、たまきちゃんは結構執念深いんだからね!
もっとも、あの件に関して、私のスポンサーは関係なかったか。
それに、オリンピックと国別対抗の団体戦とは、また別でしたね。
オリンピックの出場条件に、国別対抗戦であるフェドカップへの出場回数というのが、条件にあるのが紛らわしいというだけで、オリンピック自体に罪はなかったよ。
ま、まあ、どのみちオリンピックへ出場するためには、ランキングを上げないことには出場すらできないのだから、現時点では絵に描いた餅でしたね。
まだ直接スポンサーや協会から、オリンピック出場の要請を受けたわけでもないのだから、その時になったら考えましょうか?
それでも、オリンピックが団体戦じゃないのが救いでしたね。
私、団体戦って苦手やねん。
一応になるけど、オリンピックでの報酬は、金メダルで500万$、銀メダルは250万$で、銅メダルは150万$をボーナスとして貰える契約になっています。
そして、メダルを取れなければ、タダ働きになります。
つまり、ツアーとは違ってスポンサー的には、メダル以外には価値がないということなのかな?
でも、その割り切った考えって嫌いじゃないよ。
だけど、私は日本人なのに、私がメダルを取った場合にボーナスとか、スポンサーの航空会社にとってのメリットってあるのかな?
まあ、ご祝儀みたいなモノだと思っておきましょうかね?
それと、ファイナルズは優勝したら300万$、準優勝したら150万$で、SF敗退で80万$を貰えて、ラウンドロビンは出場したら40万$を受け取れます。
エリートトロフィーは、100万$、50万$、25万$、ラウンドロビンは15万$になります。
あと、ドバイで開催される1000と500の大会は、マンダトリーと同じ金額が貰える契約になっています。
これは、スポンサーの本拠地だから、きっと金額を上積みしたのでしょうね。
ちなみに、年間グランドスラム完全制覇をした場合には、プラス2000万ドルのボーナスが貰えます。
オリンピックの金メダルを含めた、年間ゴールデンスラムを成し遂げた時には、プラス5000万ドルのボーナスになります。
年間ゴールデンスラムなんて大記録は、過去に一人しか達成していない偉業だからなのか、金額が跳ね上がっちゃってますね……
これは、ほぼ達成するのは不可能だと思っている証拠なんだろうなぁ。
しかし、こうやってみると、ツアー大会に出場して勝てば勝つだけ、インセンティブが増えるという、美味しい契約だと思います!
まあ、その分なのか、ベースとなる基本の契約料は、200万ドルと低く抑えられているのですけどね。
いや? ジュニアを卒業したばかりで、ポッと出の新人プロテニス選手が契約するスポンサー料として、200万ドルという金額はかなり破格なのかな?
もっとも、私にはジュニア時代の実績がありましたので、将来プロでも活躍する可能性が高いという、期待料込みでの金額だったのでしょう。
でも、年間グランドスラム制覇にWTA1000マンダトリーを全部優勝とかすれば、5000万ドル以上のインセンティブを手に入れることができるのです。
まあ、スポンサーも、そんなに簡単に年間グランドスラム制覇などの偉業は達成できないと楽観視しているからこそ、この破格なインセンティブの金額なのだとは思いますけれども。
さすがに、私も今年は厳しいと思いますしね。目の前にニンジンをぶら下げて、私にやる気を起こさせる寸法なのかな?
しかし、この契約内容は、5年契約なんですよねー。
つまり、5年の内には絶対に、年間グランドスラム制覇を成し遂げてみせてやりますとも!
うはー! みなぎってきた!
スポンサーのケツの毛一本程度は毟り取ってみせましょう。
石油王にとっての5000万ドルなんて、その程度の金額だろうしね。
でも、この契約の仕方って、あまり実績のないメジャーリーガーのインセンティブ多めの契約と、なんとなく似ている気がしますね。
この作品では、フェドカップのままにしておきます。