153話 我慢できない……
なんとなく、ダウンザラインの続きが書けたのじゃー!
今回は萌香ちゃん視点です。
萌香ちゃんの一人称って、たぶん初めてじゃないかな?
庭野環希@tamakiniwano - 18時間
プレエコから2万円でアップグレードなう!
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「萌香さん、環希はビジネスクラスに搭乗していたみたいですよ」
「2万円でアップグレードはお得だよねー」
たまきちゃんと麻生さんが羨ましいですね。
こちとら、LCCで4万8千円のエコノミーだっちゅーの。
でも、年末年始だから、LCCでも航空運賃が安くなかったのが地味に痛かったよ。
「年末の繁忙期なのによくアップグレードできましたね」
「それは、わたしも思った」
東シナ海上空を飛行中の機内から、こんにちは。
そう、わたしたちは年末から始まるITFプロサーキットである香港25k大会に出場するために、まどかコーチと優梨愛ちゃんとわたしの三人で香港に向かっている途中なのです。
今年はといいますと、わたしのテニス人生において飛躍の一年となりました。
優梨愛ちゃんと組んだダブルスでは、全仏と全米のジュニアで優勝できました。
まあ、全豪とウィンブルドンでは惜しくも準優勝といった結果でしたけど。
そして、全日本選手権では単複同時優勝まで成し遂げてしまいました!
たまきちゃんみたいに、わたしも自分の才能に自惚れてもいいのかも知れない。
でも、天狗になったら鼻をへし折られそうだから、ほんのちょっとだけだけど。
それに全日本選手権は、ITFやWTAのランキングとは関係のない、日本国内の大会ではあるんだけどね。
プロサーキットでは、ITFの15kや25k大会での優勝こそありませんけど、WTAのシングルスのランキングポイントも103ポイントを稼げて、ランキングも461位と上々のスタートを切れたと思います。
内訳はといいますと……
横浜25kがR16敗退で予選通過ポイントと合わせて、6P 408$
豊田25kがR32敗退で予選通過ポイントと合わせて、2P 244$
西多摩15KがSF敗退で、4P 734$
甲府25kがR32敗退で予選通過ポイントと合わせて、2P 244$
柏25kがR16敗退で予選通過ポイントと合わせて、6P 408$
大阪25kもR16敗退で予選通過ポイントと合わせて、6P 408$
フォートワース25kがSF敗退で予選通過ポイントと合わせて、19P 1162$
カンクン15kが準優勝で、6P 1470$
牧之原25kが準優勝で、30P 2107$
浜松25kがQF敗退で、9P 672$
WCで出場した東京100KがR16敗退で、13P 1520$
合計で、103P 9377$
こんな感じになります。
ほ、ほう、ジュニアとの二足の草鞋だったけど、1万ドル近く稼いでいたのですね!
この他にも微々たるモノだけどダブルスでの賞金も2000ドルぐらい加わります。
いや、2千ドルは結構大きいのかな?
うん、塵も積もれば山となるということで、馬鹿にならないぐらい大きな金額ですね。
それと、ITF/WTAには関係ないけど、全日本選手権での優勝賞金が一番大きかったですね。
シングルス500万にダブルスは優梨愛ちゃんと折半したけど60万を貰えました。
これで、今シーズンのドサ廻り費用を捻出できたのは正直に言って助かりました。
あと、ポイントに関していえば……
いやー、牧之原25kで準優勝した時の30ポイントが大きかったですね!
あと、テキサスで稼いだ19Pと東京での13Pもでしょうか?
11大会でポイントを獲得しているから、わたしが3月までにポイントを加算できるのは、あと5大会分しかありません。
一年間で加算されるランキングポイントは16大会分なんだよね。
まあ、トップ20位までの選手だったら、もう一つ加算される大会が増えるんだけど。
わたしもいつかは、ファイナルズに出場できる選手になれたらいいなぁ。
最低でもエリート・トロフィーには出られるように頑張ろう!
ちなみに、メキシコのカンクンでの15kの決勝で、わたしを破って優勝した優梨愛ちゃんのランキングは、56ポイントで600位台前半のランキングに位置しています。
白眉たまきちゃんは、ドバイの100k+Hの大会でプロサーキット初挑戦なのにも関わらず決勝まで勝ち進み、世界ランク48位で元トップ20の選手を撃破して、いとも簡単にあっさりと優勝してしまいました。
たまきちゃんのテニスの才能は本当に凄いの一言だと思います。
わたしがこの一年間掛けてコツコツと稼いだポイントを、たまきちゃんはたったの一大会に出場しただけで、ブチ抜いて行きやがりましたよ。
凡人であるわたしが努力しただけでは、きっと天才のたまきちゃんには届かないのだろうなぁ。
まあ、150ポイントを獲得しているとはいっても、たまきちゃんはまだランキングには載ってないんだけどね。
つまり書類の上では、わたしの方がまだ格上なのである。
……虚しくなってくるから、この妄想は止めにしよう。
年末年始の休暇に入っているからなのか、わたしたちが搭乗している香港行きの飛行機は、ほぼ満席に近い状態だと思います。
周囲の乗客から聞こえてくる言語は、半分以上が日本語で三割程度が広東語なのか中国語で、英語が少々といった感じかな?
成田を飛び立ってから約3時間。もう沖縄本島は通りすぎました。
香港までは、あと2時間ぐらいでしょうか?
それにしても、じっと座っているのも、そろそろ疲れてきましたね。
「あの遠くに見えるのが石垣島かな?」
窓側の席に座っていて外を眺めていた優梨愛ちゃんが、わたしに答えて欲しそうに呟きました。
ちょうど身体を動かしたかったので、わたしは渡りに船とばかりに優梨愛ちゃんの言葉に乗ることにした。
「どれどれ?」
わたしは優梨愛ちゃんの方へと身を乗り出して、窓から外を眺めました。
身を乗り出した時に、優梨愛ちゃんの胸に私の左腕が当たってしまったけど、これは不可抗力だからね。
それにしても、優梨愛ちゃんのおっぱいって、また大きくなってない?
もう既に、まどかコーチと同じぐらいの大きさに成長している気がするよ。
くっ、これが格差社会というヤツなのか?
ええ、どうせ、わたしの胸はギリギリBカップですよー。文句あるか?
でも世の中には、貧乳の方が好きとかいう男性だって一定数はいるはずなのだから、悔しくなんてないんだからね!
っと、それよりも。
「……優梨愛ちゃんアレは宮古島だよ」
時刻も時刻だし夜の帳が下りて、外はほぼ暗くなりかけているけど、なんとか島の形は確認することができた。
「宮古島でしたか」
「石垣島はもう少ししたら見えてくるから」
「萌香さん詳しいですね」
「社会や地理は得意だったからねー」
まあ、人に自慢する程に得意という訳ではないのだけど、一般常識程度の地理は知っていると思います。
「あたしは画面がないと、何処を飛んでいるのかイマイチ分からないなぁ」
「LCCだと座席にディスプレイが付いてない飛行機がほとんどだからね」
※※※※※※
「もう我慢できない……」
さっきからソワソワしていた、まどかコーチが呟いたけど、何が我慢できないんだろう?
「コーチ、トイレですか?」
「我慢はよくありませんから、さっさと行ってきて下さい」
優梨愛ちゃんが言うとおりであって、まどかコーチは通路側に座っているのだから、トイレなら素直に行けばいいのに。
コーチってば、テニス以外だと結構ポンコツなんだよね。
才能をテニスに全振りしてしまった弊害とでもいうのでしょうか?
これは、まどかコーチの娘でもある、たまきちゃんにも言えることだとは思うけど。
というか、たまきちゃんの方が酷かったわ。
まどかコーチの方がまだ常識的でしょうね。
でも、たまきちゃんはピアノも得意なんだから、才能をテニスに全振りしているという訳でもないのかな?
だけど、たまきちゃんって日常生活におけるスキルは低いから、テニスとピアノに全振りしているが正解なんだろうなぁ。
「トイレじゃないわよ」
「じゃあ、何が我慢できないんですか?」
「この狭い座席のことよ」
「あーなるほど。納得しました」
LCCの狭い座席で5時間ぐらい座っているのは、確かにキツイですよね。
まどかコーチは普段からビジネスクラスに乗り慣れているので、LCCのエコノミーに長時間座るのは我慢の限界を超える苦行なのかも知れません。
でも私なんて、通路側のまどかコーチと窓側の優梨愛ちゃんに挟まれている真ん中の席なんだぞ。
ミドルマンの席は航空運賃を多少は安くするべきだと思うの。
今回の場合は、両隣が知り合いだからまだマシなんだけど、これが両隣が赤の他人だった時には、悲惨の一言だと思います。
両方から掛かるプレッシャーで被る精神的ストレスは半端ないですしね。
「失敗した。日系でもキャセイパシフィックでもいいから、ビジネスクラスにしておくべきだったわ」
でも、まどかコーチが座るビジネスクラスの、そのチケットのお金を払うのは私と優梨愛ちゃんなのである。
わたしと優梨愛ちゃんは、もう既にプロに転向したのだからジュニアの時みたいに、まどかコーチにおんぶにだっこという訳には行かないのだ。
だけど、言わせて欲しい。
「わたしと優梨愛ちゃんの稼ぎでは、まどかコーチをビジネスクラスに乗せてあげる事など無理ですよー」
「うん、現時点では無理な注文ですよね」
「環希と百合子はビジネスクラスでニュージーランドだというのに……」
そう、たまきちゃんは私たちよりも一日早く昨日、WTA250大会(昔のWTAインターナショナル大会のこと)が開催されるオークランドに向かっているのです。
「あたしは、プレエコから2万円でアップグレードなうのツイートにイラッとしました」
「あはは、たまきちゃんらしいツイートだったよねー」
「でも、こっちはLCCのエコノミーなのに環希はビジネスクラスとか、格差社会をまざまざと見せつけられた気がしません?」
わたしは優梨愛ちゃんとの格差社会も実感させられたよ?
書き溜めがないぞー!
なんか環希の一人称との書き分けができてないような気がしないでもない…
ちなみに近未来の平行世界は、新型コロナもウクライナでの戦争もWTAの中国撤退もない平和な世界です。