147話 こんなのも出来るよ
どうやら環希はテニス選手から転職した模様ですw
ガタンゴトン ガタンゴトン
私の見上げる先には、京浜東北線・根岸線の石川町駅。左手には中村川と首都高速神奈川狩場線の高架。
このまま真っ直ぐ進めば、元町通りですね。いま私が居る場所、此処まで含めて元町通りと呼ぶのか? そこまでは知りませんけれども。
それでなぜかしら私の手には、斜め上半分がブルーで、下斜め半分がホワイトに染められた旗が握られているんすよ。
この旗は何なのでしょうかね?
そして、私の着ている服も、これまた旗と同じくブルーとアイボリーを基調とした衣装になります。
いかにも、港町の横浜らしい装いと出で立ちではないでしょうか?
履いているのも、白色でエナメルのロングブーツですしね。オマケで前面の脛側にはインチキ編み上げまで付いている仕様です。
ぶっちゃけていえば、マーチングバンドかチアガールの衣装みたいなモノです。
そう今日は、山手女学院中等部・高等部の吹奏楽部が合同で行う、マーチングパレードの日だったのです!
何を隠そう、この私はテニス部でも帰宅部でもなくて、吹奏楽部に所属しているのですよ。
まあ一応、建前上はテニス部にも所属したままにはなってはいるのですけど、全中テニスは一年生で優勝してしまったから卒業ということです。
一年生の三学期からは、ITFのジュニアサーキットに参戦して、部活テニスの大会どころではなくなりましたしね。
でも、私は特待生なんだから、ちゃんと学校の承諾は得ていますよ?
まあ、吹奏楽部に所属しているとはいっても、実質的には幽霊部員となんら変わりはないのですが。
ピーピッ!
「「「ワンツっ、ワンツっ、ワンツっスリっフォ!」」」
タッタラタッタッラたたたタタンっ♪ ~♬ ~♩ ~♫ ~ ~♪
おっと、先頭が動き始めましたか。
※※※※※※
チャチャッラッチャチャ~ン~♪ ~♬ ~ ~♩ ~♫ ~ ~♪
元町交差点の信号を渡って、ちゃんとした元町通りに入りました。
元町通り商店街というのは、小洒落たブティックやカフェに美容室などが数多く軒を並べています。
いわゆる、ハイカラさんが通る通りってヤツですな。
これはきっと、明治時代に外国人居留地だった頃からの名残りなのでしょうね。たぶん。
それで、山手女学院にはマーチングバンド部というのはありません。
ほとんどの学校が吹奏楽部がマーチングバンドを兼任しているんじゃないかな?
学校によっては、吹奏楽部でもカラーガードの練習を専門にやっている部員がいる学校もあるみたいですけど、残念ながらも我が校にはカラーガード隊はいません。
まあ、だからこそ、幽霊部員の私がこうやって好き勝手に最後尾でカラーガード遊びができるともいえるのですがね。
け、けして、私に演奏パートが割り当てられなかったとかいうのではないんだからね!
私は練習に参加してないから、私から遠慮して辞退したんだよ。本当だよ?
私にも、「フルートを吹いている真似でいいから参加してみる?」とか、ちゃんと顧問の先生は言ってくれたんだから。
フルートは吹く真似じゃなくて、少しは吹けたりもするのですけど、毎日一生懸命に練習している他の子の迷惑になるのもアレだから遠慮して、最後尾で旗振りをする役を選んだんだよ。
カラーガードがいないと、打倒津田沼や打倒橘花は夢のまた夢って感じがしますしね。
まあ、吹奏楽やマーチングバンドに打倒○○とか、相手を倒す要素は含まれてないとは思いますけど。
コンクールとかは自分との戦いで、その結果に金賞とかがあると思いますので。
たたら~タッタタっ♪ タララ~たったらっ♪ ~♬ ~ ~♩ ~♫ ~ ~♪
「ん?」
パレードが元町通りの中ほど、汐汲坂通りとの十字路に差し掛かった時、私の目の前にコロコロと小さめのサッカーボールが転がってきました。
ちなみに、汐汲坂通りを上っていくと、山手女学院の正門入り口がある山手本通りの汐汲坂交差点にたどり着きます。
汐見坂とかなら日本全国に多数あるはずですけど、汐汲坂はたぶん此処だけのような気がしますね。
ついでに言うと、汐汲坂からは海はまったく見えません。
私が曲のリズムに合わせて、旗をフリフリクルクルさせ踊っている姿に見惚れたパレードを見ている群衆に押されて、手に持っていたボールを落としてしまったのかな?
つま先でボールを掬い上げポンポンとリフティングをしながら、ボールの持ち主であろう4,5才ぐらいの小さな男の子に声を掛けてみます。
「このボールはボクのかな?」
「うん!」
ロングブーツは足首の可動範囲が狭いので、リフティングをするにもきめ細やかなタッチが求められますね。
「ママかパパは一緒じゃないの?」
「あそこにいるよ~」
男の子が指を指した先には、スマホに棒を付けて斜め上からパレードを撮影している男性の姿が。
お父さん、自分の子供をほったらかしにして撮影に夢中ですかそうですか。
子供が迷子になっても知らんぞ。
まあ、サッカーボールを手に持っていたぐらいだから、家は近所なんだろうけどさ。
見渡してみると、スマホに棒を付けたのが数十本単位で見受けられます。
こういうのを見ると、テレビが廃れていったのが良く分かるような気がしますね。
時代はプロが作った映像ではなく、素人が作った生の映像ということなのでしょうね。
なんといっても、スマホさえ持っていれば、一億みんな総カメラマンだもんね。
でも、そのうちインターネット動画とかで、「勝手に撮影しやがって!広告料を出演料として寄越せ!」とか、そういったトラブルが増えそうな予感がしますね。
プロの映像でいえば、自然とかを映した映像は、さすがはプロの仕事だと思います。
リラックスしたい時とかには、自然や動物の映像を癒しの音楽と共に流しているのを、ぼけ~っと眺めているのって結構好きなんですよね。
ほら、深夜の公共放送のBSとかでよく放送しているような感じのアレです。
海中散歩や空中散歩の映像とかもオススメであります。
まあ、その時間帯は私は夢の中なので見たことはないのですが。
ん? あの小太りのオタクっぽい格好は、ストーカー1号こと長谷川純ちゃんでしたか。
彼って私のイベントにしょっちゅう駆け付けてくれてますけど、どうやって生活費を稼いでいるのでしょうかね?
まさか、あの年にもなっても、ママの同級生のお姉さんに養ってもらっているとかないよね?
パリ、ロンドン、ニューヨークとか、大きな大会にはほぼ必ず駆け付けていたのだから、そこそこお金は持っているのでしょうね。
おそらく純ちゃんは、株やFXに仮想通貨とかで儲けて、生活費を稼いでいるということなのかな?
せっかく純ちゃんは良い大学を出ているのに、才能の無駄遣いのような気がしないでもないけど、株で稼ぐのもそれはそれで立派な才能の一つでしたね。
おっと、それはそうと、ショタっ子がいましたね。
「お父さんもパレードに付いて行くようだし、お姉ちゃんと一緒に来る?」
「うん!」
私の問いに、男の子は満面の笑みで頷きました。可愛ええのぉ。
男の子はこれくらいの年頃が一番可愛い気がしますね。
よーし、男の子にサービスということで、たまきちゃん頑張っちゃうぞ☆
ちなみに、ずっとリフティングをしたままであります。
タッタラたたたタタンっ♪ ~♬ ~ ~♩ ~♫ ~ ~♪
「うおー! おねーちゃんじょーず~ ぱちぱちぱち!」
男の子は私の華麗なる足捌きを見て、感動して興奮してしまったようでした。
でも、拍手を擬音で声に出して表す子って初めて見たよ。
あー、でも、保育園の保母さんか幼稚園の先生だったら、音頭を取る時に言っている感じがしますね。
「こんなのも出来るよ♪」
私は調子に乗ってボールを肩に乗せる。その肩をずらしてボールを落とすと見せかけ、今度は中腰になって頭にボールを乗せてみせた。
ボールをヘディングでリフティングしながら上体を起こし、リズムとタイミングを取って軽くボールを空中に放り出す。
放り出されたボールは、フラッグの竿の先端にピタリと止まる。
竿を上下に動かすと、ボールがトントンと軽く弾んだ。
「すごいすごい!」
男の子の興奮のボルテージは最高潮みたいですね。。
周囲の人だかりからも、「おーっ!!」とかの歓声が沸き上がっていましたので、ウケているみたいでなによりです。
やっていることは、大道芸人かサーカスのような気がしないでもないですがね!
それにしても、私にはショタの気なんてなかったはずなのに、おかしいですね?
※※※※※※
パレードの往路は、元町通りの終点から谷戸橋を渡って天主堂跡交差点を右折して山下公園まで。
山下公園で休憩してから戻る格好になります。帰りの復路は、中華街を中華街大通りから入って長安道で左折。関帝廟通りでまた左折と、コの字に中華街を練り歩きながら、朱雀門のある前田橋を渡って元町通りに戻るコースになります。
往復で3kmちょっとでしょうか?
だから、男の子とは元町商店街の出入り口でお別れをしました。
まあ、小さな子にとっては、元町通り商店街を全部歩くだけでも結構な距離になりますもんね。
「帰りは、青い時計のある道から戻ってくるよ」
「まえだばしから?」
「そうだね」
「うん! そこでまってる!」
前田橋を知っているとなると、地元の子で正解だったみたいでしたね。
というか、お父さんはパレードにそのまま付いてくるみたいですけど、それでいいのか?
まあ、地元の子だから、ほったらかしにしておいても大丈夫だと思ったのでしょうね。
ショタvsストーカー1号、ファイッ!