138話 ストーカー1号と幼女
あけましておめでとうございます。
ブクマ剥がしにもめげずに新年のお年玉!
でも、誰得?なストーカー1号のお話…
吾輩の名は、長谷川純。吾輩の女神でもあらせられる、たまきタンの下僕一号とは何を隠そう吾輩のことである。
掲示板の3chでは、なぜかストーカー1号と呼ばれてしまったので、ストーカー1号をコテハンにしているのでござるが、本当は下僕一号が正しいのでござるよ。
吾輩の女神でもあらせられる、たまきタンと初めて触れ合ったのは、そう、あれは確か…… 十年前のある日のことでござった。
学校で不良グループにイジメられ、更に下校途中でも吾輩のなけなしの小遣いをカツアゲをされて、メソメソと泣きながら自宅近くまでたどり着いた時のことでござった。
「おにーちゃん、なんでないてるん?」
ピンク色をしたゴムボールを両手に抱えた愛らしい幼子が、こともあろうか吾輩の行く手に立ちふさがったのでござる!
吾輩はこんな小さな幼児にも行く手を阻まれるほど弱々しく見られている弱者なのかと、更に泣きそうになったものでござった。
しかし、この幼子の顔をよくよく見てみると、同じ町内に住んでいる近所の女の子で吾輩が知っている子でござった。
この幼い女の子は、テニスで有名な庭野さん家の娘さんだと吾輩も顔は見知ってはいたのだが、こうして話をするのは初めてのことでござった。
この幼女の名前は環希ちゃんとか姉上から聞いた覚えがござる。
ちなみに、吾輩の一回り以上年の離れた一番上の姉上が、この幼い女の子の母親である庭野まどかさんと同級生でござる。
「が、学校でイジメられてるんだ……」
「ふーん…… イジメるしとはこころがまずちいしとだって、おじいちゃんがいってたよ?」
「心が貧しい?」
「だってそうれしょ? あいてよりもじぶんのほうがかくうえにゃんだとしょうめいちゅるにょに、イジメでちかじこのちょんざいをかくりちゅできにゃいにょだから」
自己の存在を確立するのに、相手をイジメることでしか証明することができない?
「な、なるほど……」
「だから、そんにゃこころのまずちいやからは…… やからは…… う~んと…… え~と……」
いつの間にやら、人から輩にランクダウンしているでござるよ。
それと、どうやら答えを考えないまま、お爺ちゃんからの受け売りをそのまま喋っただけのようでござるな。
でも、この女の子が言いたいことは何となく伝わってきたでござるよ。
「そんな心の貧しい輩は、ボクが内心で見下しておけばいいってことかな?」
「そう! それにゃのら! じゅんちゃんはこーこーせいにゃだけあってかちこいのら!」
「ボ、ボクの名前が純って知っていたんだ」
吾輩の名前を知っているのは、きっと母親代わりの姉上のおかげでござろう。
姉上は庭野さんと同級生ということもあってか、卒業してからも庭野さんと仲良く近所付き合いを続けているのでござる。
「イジメるしととははんたいで、じゅんはピュアなにゃまえにゃのら!」
「純がピュア…… まあ確かに純とはそういう意味もあるけど、なんだかこそばゆいなぁ」
吾輩の内面は、イジメられ続けていたおかげで、世の中に対する憤りでドロドロと黒いヘドロが澱のように溜まっているのに、この幼女はそんなルサンチマンの塊のような吾輩のことを、こともあろうかピュアと申してくれるのでござった。
この幼女の言葉がささくれた吾輩の心をどれだけ癒やしてくれたかなど、言った本人は理解してないのでござろう。
もしかしたら、吾輩に言葉を掛けたことすら十年経った今では覚えてない気がする。
あの当時のたまきタンはまだ三歳であらせられたのだから、残念ながらも忘れている確率が高そうでござるな。
しかし、高校生だった当時の吾輩にとっては、たまきタンの言葉に救われたのでござるよ。
あの時から、たまきタンは吾輩の中では天使となったのでござる。
天使から女神に昇格したのは、吾輩の情けない過去をほじくり返す出来事を思い出させるので、割愛させて頂くでござるが。
「だから、じゅんちゃんはちぶんにょちょくいにゃぶんにゃで、みかえちてやればいいんらよ!」
「自分の得意な分野で相手を見返す?」
ふーむ…… 吾輩の得意な分野といえば、パソコン関係でござるか?
しかし、プログラマーはIT土方とか自虐的に揶揄するほどの激務とか聞くしなぁ。
「そう、ちゃとえば、とーだいにはいっちぇかんりょーをめじゃちゅとか」
「と、東大はちょっと厳しい…かな?」
「とーだいがむりにゃら、よここきゅで!」
「国大かぁ」
横浜国大は模試でもB判定が出たのだから、吾輩の頭でももう少し頑張れば手が届く範囲でござった。
東大はC判定だったから、諦めたほうが無難ではござるが。
「よここきゅにゃらば、かけーにもやさちいのら!」
「家計にも優しい?」
「けったましんでもかよえるのら!」
「け、けったましん……?」
自転車のことかな?
国大ならば近所といえば近所だし、吾輩の家からでも自転車で通学できる距離でござるな。
そう考えると、地方から東京の大学に進学してくる子供を持つ親御さんの負担というのは大変なのでござろう。
「じゅんちゃんは、やればできるこっておばさんもいってたきゃら、がんばれー!」
おばさん? ああ、姉上のことでござったか。まあ確かに、この幼女から見れば姉上もおばさんでござるな。
吾輩が姉上をオバサンなどと呼べば、半殺しの目に遭いそうな気もするでござるが。
「うん、わかったよ。国大を目指して頑張ってみるよ」
「じゅんちゃんしゃんちきどらどらでんでん!」
「な、なんかの呪文なのかな?」
「じゅんちゃんがやるきににゃるまほーのことばにゃのら!」
「あ、ありがとう……?」
「どういたちまちて! ……ばいまん」
「え?」
「んーんにゃんでも」
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こうして吾輩は幼女の勧めもあって、受験勉強を頑張り見事に横浜国大に合格したのでござる。
ちなみに、幼女が放った最後の呪文の謎が解けたのは、大学に入ってから麻雀を覚えた後でござった。
三歳児が麻雀を知っているなど、庭野さん家の教育はそれで大丈夫なのか?と、他人事ながらも少しばかり心配になったでござる。
次話は未定だけど、なるべく早めに頑張る! 予定…