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134話 Give me job!


 アメリカのテニスの聖地でもある、USTAビリー・ジーン・キング・ナショナルテニスセンターから、こんにちは!

 九月の初めは、晩夏とも初秋ともいえる季節ですけど、思いの外ニューヨークは暑いです。


 ニューヨークは日本でいえば、青森か函館と同じぐらいの緯度にあるはずなのに、この季節に暑いだなんておかしいですね?

 地球温暖化の余波でしょうかね?


 愛は地球を救うじゃなくて、愛は地球を食い潰すが正解の気がしないでもない。


 それで、いま何をしているのかといいますと……



【Give me job! Work as a Hitting partner for $ 25 for 30 minutes】



「環希ちゃんなんですかソレは? その首からぶら下げている看板は?」


「えっと、求人広告?」



 私は首を傾げながら、疑問形で答えを返してみました。そう、麻生さんが言うとおりに、ダンボールで作った求人広告の看板を首からぶら下げていたのです。

 仕事を求めている人自身がメッセージを発するのを、それも求人広告というのか自信が持てなかったから、疑問形ということですね。



「サンドイッチマンじゃないんですから、恥ずかしいので止めてください」


「へーい」



 えへっ、麻生さんに怒られちった。半分はジョークのつもりだったのになぁ。



「それに、そのダンボールや紐はどこから調達してきたのですか?」


「んー? あっこのホットドッグ屋さんにお願いしたらくれたよ」



 ついでに、ホットドッグも買い食いしました。

 本場ニューヨークのホットドッグは美味しかったです!


 ザワークラウトとピクルスの酸っぱさが、また食欲を刺激して美味しいんですよね。

 ホットドッグにコーラ、ジャンクフードの組み合わせ! これぞ、アメリカ!


 これに、フライドポテトとチキンナゲットでも付けば、もう王道と言っても良いでしょう。

 野菜はザワークラウトにピクルスとフライドポテトで取ってますので、とってもヘルシーな食事だと思います!


 思わず「ヘルシー!」と叫びながら、サムズアップしたくなるほどであります!

 そりゃあ、アメリカ人に太っている人が多いわけだよ……



「まさかとは思いますけど、買い食いはしなかったでしょうね?」


「し、シテナイヨ?」


「環希ちゃん…… 目が泳いでますよ?」


「や、やだなー。私が買い食いなんてするわけにゃいのに!」


「……口の端にケチャップが付いたままですけど?」



 なぬっ!?


 ……私としたことが、ぬかった。

 どうりで、通りがかる人がクスクスと忍び笑いをして通りすぎて行くわけだよ。



「はい、ギルティですね」



 ジト目の麻生さん怖いです……

 麻生さんは美人だから、余計に迫力があって怖さも倍増ですね。


 といいますか、手の甲で口を拭ってみたけど、ケチャップなんか付いてなかったじゃん!

 基本的に私はお上品に食べますので、ケチャップが付いたとしても精々が口唇までだったんだよ。


 これは麻生さんに見事に騙されましたね。



「麻生さんにカマ掛けられた……」


「引っ掛かる環希ちゃんが悪いんですよ」



 なんですか、その詐欺に引っ掛かるのは、引っ掛かるほうが悪いみたいな論法は。

 まあ、「いま出資していただけたら、必ず儲かりますよ!」とかの口車に乗って騙されるのは、騙されるほうもなんだかなぁ。とは思わなくもないけどさぁ。


 真っ当な会社であれば銀行が貸してくれますので、個人から資金を集めようとしている会社には眉に唾を付けて見なければならないのは、子供でも知っている常識だと思うのですけど?

 銀行が貸さない → 事業内容に疑義があるですもんね。


 楽して儲けようと思うから、簡単に詐欺に引っ掛かって騙されているような気がしますね。そう思うのは私だけかな?

 世の中には、そんな簡単に美味しい話は転がっていません。美味しい話であれば、自分達だけで独占したほうが儲かりますしね!



「買い食いしたのをママには内緒にしておいてくれると嬉しいかな?」



 ママのお小言を聞くのが面倒だから、麻生さんの口を封じる作戦であります。

 まあその分、麻生さんからお小言をもらう破目になるので、五十歩百歩のような気もしますが。



「はぁ~…… ちょっと目を離したらすぐこれなんだから、油断も隙もあったものではありませんね」



 私の潤んだ瞳での上目遣いのお願いに、麻生さんは首を振りながらため息を吐いたのでした。

 でも、少しばかりの買い食いぐらいいいじゃん!


 食生活まで管理されてしまうと、私はストレスで死んじゃうんだぞ!



「だって、あまりにも屋台のホットドッグが美味しそうだったんだもん」


「まあ、ホットドッグぐらいは食べても構わないですけど、買い食いよりも問題は、その首からぶら下げているモノです」


「いやー暇だったから、誰でもいいのでヒッティングパートナーでもしようかなぁって思ってさ」



 一流のプロ選手からヒッティングパートナーのお誘いがあれば、技術的にも色々と勉強になりますので、私にも得るべきモノが沢山ありそうな気がしますしね。

 そう、ヒッティングの練習とは、相手の技術を盗むチャンスでもあるのですよね。



「まったく、そんなことはジュニアランキング世界一位の選手がすることではありませんよ」


「いやーこれでも、周りにいる人たちには結構ウケてたんだよ?」



 みんなスマホで撮影していましたし、その中にはセルフ自撮りで私と一緒に記念撮影をする人もチラホラといたのですよね。



「それは物珍しさからウケていただけです」


「私はヒッティングパートナーの仕事を求めていただけなんだけどね」


「フリーのヒッティングパートナーは認められていないはずですよ」


「え? そうだったの?」


「たしか全米オープンでは、USTAに登録して認められた人しか、ヒッティングパートナーは出来なかったと思いますよ?」



 なん…です…と!?


 野良のヒッティングパートナーが禁止だったとは…… それは初耳でしたね。

 どうりで、プロの選手も笑いながら私に近寄ってスマホで撮影はしていくけど、誰もヒッティングパートナーの仕事はくれなかったわけだよ。まったく知らなかったよ。


 まあ、私もコスプレでデモンストレーションといいますか、ちんどん屋か大道芸人のノリで遊び半分でやってはいたのですけどね!



「今度、同じことをしたら、まどかさんに言いつけますからね」


「いえすまむ! 肝に銘じました!」



 ママが本気で怒ると怖いですし、ふざけるのも程々にしておきましょうか。



「環希ちゃんならば、こんな募集をしなくても、そのうちプロ選手のほうから勝手に声を掛けてくれますから」


「ウィンブルドンで声を掛けてくれたみたいに?」



 ウィンブルドンで私をヒッティングパートナーに指名してくれた選手は、ランキング三十位台の選手で、私のご利益があったのかどうかそこまでは知りませんけど、見事にQFまで勝ち進むことができたのです。


 それも、シニアのウィンブルドンの一週目と、私が出場していたローハンプトンのG1大会が同じ週でしたので、わざわざ向こうから出張ってきてくれたのですよ。

 まあ、ウィンブルドンとベリーランズが車で10分とかの距離だからできる芸当なんですがね。


 ヒッティングパートナーをした相手が初戦敗退とかだったら、私もばつが悪いですので、昨年はR64で今年はQFにジャンプアップしてくれたのは、素直に嬉しかったですね!


 それにしても、いくら私がジュニアで無敵の存在だからといって、グラスコートでの実績は未知数だったのに、よくもまあ私をヒッティングパートナーにして練習をしようと思ったよなぁとか思わなくもない。

 向こうのコーチとママが知り合いだったから、この練習は実現したのかな?


 さすがは、庭野まどかのネームバリューですね。

 さすまど、さすまどであります。



「そういうことです。一流のプロ選手から見ても、環希ちゃんは気になる存在なのですから、もう少し自分の価値を自覚して行動して下さい」


「はーい」



 麻生さんってば、気真面目すぎるんだから。

 そんなに肩ひじ張っていると疲れちゃいますよ?


 ちなみに、私がヒッティングパートナーを勤めたプロ選手と私との実力差は、あまり感じませんでした。

 といいますか、もしかしたら私のほうが強いんじゃね? とかすら思えちゃいましたね!


 つまり、早く来年がこないかなぁって感じであります。来年になれば、私も14歳の誕生日を過ぎていますので、プロサーキットに出場する権利がもらえるのです。

 ワクワクしてテカっちゃうぞ♪



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