133話 111フィートって、何メートル?
メリーランドのG1大会も華麗にサクッと優勝して、ニューヨークにやってきている庭野環希です。
アッパー・ニューヨーク湾に浮かぶ、リバティーアイランドから、こんにちは!
ダブルスでは、苦戦したような気もしましたけど、シングルスの決勝ではアナスタシアちゃんを相手にして、6-2、6-2のストレートで破って優勝しましたので、無問題であります。
苦戦したような気がしたダブルスも結果的には優勝できましたので、もーまんたい。
それはそうと、ニューヨークですよ、ニューヨーク!
今世では初めてやってきましたけど、やっぱニューヨークはいいですよねぇ。
口では上手く説明できない良さが、ニューヨークにはあると思いますね!
ニューヨークに行くのにはワシントンD.C.から、アムトラックの特急列車であるアセラという列車に乗りました。
フランスのTGVもどきみたいな、アメリカ版新幹線とでも呼べばいいのかな?
しかし、アセラは日本の新幹線みたいに専用の線路を引いて、その上を走っているわけではないのですがね。
つまり、山形新幹線や秋田新幹線みたいな感じでしょうか?
もしかしたら、宇都宮線の線路を新幹線が爆走しているのかも知れないけど。
なにそれ、怖いです……
アセラはワシントンD.C.~ニューヨーク間、約350kmの距離を2時間50分で結んでいます。
しかし、実際にはニューヨークまで、二時間半ぐらいで到着しちゃいました。
さすがはアメリカであります。小さなことには拘らないおおらかさがありますよね!
まあ、私に言わせれば、適当すぎるような気もするのですけど。ダイヤがスカスカだから可能な芸当なのかも知れませんね。
ワシントンD.C.~ニューヨーク間は、飛行機も頻繁に飛んではいるのですけど、飛行機を待つ時間とかを合わせた総合的な時間では、電車のほうが早くニューヨークに到着する気がしましたので、今回は飛行機を選びませんでした。
あと飛行機の場合は、保安検査とかも煩わしいですしね。
名古屋から東京へ行くのに、セントレアに行ってから飛行機に搭乗して、羽田で降りて京急かモノレールに乗って、さらに山手線に乗り換えて東京駅に行く酔狂な人なんて、ほとんどいませんよね?
普通であれば、みんな新幹線を利用しますもんね。ワシントンD.C.~ニューヨーク間も、それと同じことであります。
しかし、名古屋~羽田でもワシントン~ニューヨークでも、空港で国際線に乗り継ぐ場合は、また別だとは思いますけど。
それで今週は、全米オープンのファーストウィークであります。もっとも、予選はもう既に先週から始まってはいるのですけど。
ジュニアの全米オープン本戦は来週、セカンドウィークから始まります。
今週はカナダのモントリオール近郊にあるルパンティニーという街で、全米オープンジュニアの前哨戦でもあるG1大会も開催されているのですけど、私は本番を前にして大事を取って、今週はお休みになりました。
まあ、先週のメリーランドの大会で、ダブルスで動き回り過ぎて、ガス欠気味になったともいいますけど。私の今後の課題はスタミナ面での強化が、これからの重要な課題といえるのでしょう。
だからこそ、スタミナを付ける意味でも、フロリダでひいこらひいこらと砂浜を走って鍛えていたのですよね。
ルパンティニーのG1大会は、私の代わりにアナスタシアちゃんがきっと活躍してくれることでしょう。
ママたち三人もバカンスが終わったのか、メキシコのカンクンから戻ってきました。
カンクンでは、15K大会の決勝で日本人対決となり、優梨愛ちゃんが萌香ちゃんを破ってITFプロサーキットでの初優勝を見事に飾りました!
拍手ー! パチパチパチ~!
オマケにダブルスでも、里田坂巻ペアは優勝しちゃったのですよ。
優梨愛ちゃんは、いわゆる、単複同時優勝ってヤツですな。
さすがは、ジュニアのグランドスラムダブルスを優勝している実力があるペアだと思いました。プロ選手が相手でも、15K大会程度のダブルスでは二人の格が違ったみたいでしたね。
15K大会は、プロサーキットの最底辺の大会とはいえ、優勝は優勝であります。
つまり、ママたち三人は、カンクンに優雅なバカンスをしに行ったのではなかったのでした。
まあ、本当は知っていたけどさ。
それにしても、まさか萌香ちゃんより優梨愛ちゃんのほうが先に、プロ大会のシングルスで優勝するとは思っていませんでしたので、ちょっと意外な感じがしましたね。
しかし、フロリダでの合宿の成果がちゃんと出て、お母さんは嬉しく思います。
※※※※※※
「結構な数の階段を登るのね……」
「パンフレットには女神像の高さは、111フィートとか書いてあったよ」
「うへー、エレベーターで昇れる台座までにしておけば良かった……」
螺旋階段を見上げたママが、珍しく弱音を吐いています。
そう、私たちが現在いる場所はといいますと、自由の女神像の中にいるのです!
「まどかさん、年寄り臭いですよ」
麻生さんの突っ込みが炸裂しました。
でもそれは、私も麻生さんと同じことを思ったよ。
「百合子も四十を過ぎれば、私の気持ちが理解できるようになるわよ」
「思っていたとしても、弱音を言葉に出さないのが淑女の嗜みですよ」
さすがは良家のお嬢様であった、麻生さんの言葉はひと味違いますよね。
土地成金とテニス成金のママとは大違いだと思いました。
「111フィートって、何メートルになるのかな?」
「33メートルか34メートルぐらいだよ」
どうやら、萌香ちゃんはフィートの単位がピンとこないみたいでしたね。
まあ日本人には、フィートの単位は馴染みがないから、ピンとこないのも仕方がないのですけど。
インチ、フィート、ヤード、ポンド、ガロン、華氏、死すべし慈悲はない!
でも、フィートは適当に30センチとでも覚えておけばいいんだよ。
「10階建てのマンションの非常階段を上るのと同じってことかぁ」
「オフィスビルだったら、7階か8階建てのビルになるよ」
「環希は変なところで細かいよね」
そうかな? これでも自分では、結構いい加減で適当な性格をしていると思ってたんだけどなぁ。どうやら、優梨愛ちゃんの私への評価では違ったみたいでしたね。
自分を客観的に評価したつもりの、自己分析は当てにならないということか。
「たまきちゃんは精密機械だからね」
「テニスでは褒め言葉ね」
「ママ、テニスではって、それ以外では違うの?」
「それ以外では、うるさ型の人間ってことだわ」
「ママってばヒドい……」
実の娘に向かって、うるさ型の人間だと言い放つだなんて、ママは母親失格であります。
まったくもう、ぷんすかぷんであります!
それで、自由の女神像の中に入るのには、予約が必要になります。
それも、ギザギザの王冠部分にある展望台に上れるのは、一時間当たり三十人という少人数しか入場できないのですよ。
チケットを取るのも大変だったと思います。もしかしたら、数か月前から予約していたのかも知れませんね。
それを手配してくれた、麻生さんに感謝しなければ罰が当たりそうだよ。
一家に一人は、できる秘書である麻生さんが必要ということですな。
さすあそ、さすあそであります。
まあ、テニスのカレンダー、大会のスケジュールの合間にオフの予定を組めるので、早めの予約でも問題なかったのかも知れませんね。
「うわー、この景色は絶景だね!」
「苦労して登って来た甲斐があったわ」
「やっぱマンハッタンって凄いんだね」
「こうやって高層ビルを景色として眺めるのも、なかなか乙なモノだよね」
「夜景だったらもっと綺麗なんですけど、残念ながらここからは見られませんね」
「そっか、夜は自由の女神像はクローズしちゃうのか」
でも、やっぱり自由の女神を愛でるのであれば、ガバナーズ島かブルックリンのレッド・フックの辺りから眺めるのがベストのような感じがしますね。
自由の女神像の中に入っちゃったら、せっかくの自由の女神を見れないんだしね。
ちなみに、予約した時点では私の遺伝子上の父親といいますか、真田さんの分のチケットは予約してませんでしたので、真田さんはお留守番をしています。
きっとドコかで羽を伸ばしていることでありましょう。
まあ、女五人の姦しい中に男一人で入っても、肩身が狭いような気もしますので、これはこれで良かったのかも知れませんよね?
それに、真田さんは一応アメリカ生まれのアメリカ人なのだから、おそらく自由の女神像も見飽きているでしょうしね。
けして、ハブにしたとかではないのですよ。ええ、断じて。