108話 ……腕時計とかはどうじゃ?
この物語は、庭野家の平凡な日常を淡々と綴る小説です。
テニスの試合描写を過度に期待しないでください。
あと、部屋は明るくして、モニターから70センチは離れて見やがってください。
一応、完結したとはいっても、番外編も最終話から続いているんじゃよ。
番外編のサブタイは、偶然にも煩悩の108からスタートなのじゃ!
うむ。たまきちゃんは相変わらず、どの角度から見ても可愛いですね。
こんにちは、ローラン・ギャロスジュニアチャンピオンの庭野環希です。
それで、なにをしているのかといいますと…… お皿を覗き込んでいたのですよ。
しかし、これは本物の銀なのかな? それともメッキなのかな?
そんなに重くはないから、銀メッキが正解なのでしょうね。
まあ、この重さであったとしても銀の価値なんて、金に比べたら微々たる価値なのだから、べつにメッキでも構わないのですが。
これが本物の金だったら、高級車が一台はポンと買えちゃう価値に化けるとは思いますけど。
それにしても、優勝賞品である記念の銀のお皿みたいなコレどうしましょうかね?
表面がピカピカに磨かれているから、一応は鏡としても使えそうですけど、これって実用的ではないよなぁ。
鏡は普通の鏡を使ったほうが便利ですしね。
そうだ!
お皿をお盆代わりにして、コーヒーでも乗っけてウェイトレスの真似でもしてみましょうか?
おじいちゃんにコーヒーでも出したら喜んでくれそうな気がしますね!
あと、フルーツを山盛にして乗っけるのも良さそうな感じでしょうか。
『ニワノ選手、記念撮影をしますので、笑顔でこっちを向いてくださーい』
「うい!」
今はまだ、表彰式の途中でしたね。
ちなみに、優梨愛ちゃんと萌香ちゃんも、私とほぼ同じような銀のお皿を、何故か知らないうちに貰っていたりします。
まあ、二人もダブルスで優勝したから、銀のお皿を貰えたのですがね!
優梨愛ちゃんと萌香ちゃん二人とも、満面の笑みで記念撮影をしていました。
これには私も、いままで二人と一緒に練習してきたので、どれだけ二人が努力をしてきたのか知っていますし、自分の事のように嬉しくなっちゃいましたね!
しかしこれで、チームマドカがジュニアローランギャロスで単複同時に優勝したということになるのか。
日本に帰国したら、多少騒がしくなりそうな気配もしますね。
主に取材やらチームマドカに入団を希望するジュニア選手とかが増えそうな気がするのですよ。
ジュニアのグランドスラムを単複同時に優勝させた、庭野まどかという名コーチの手腕に期待して教えを請いたい。そう思っているジュニア選手と親御さんは多そうですしね。
でも、優梨愛ちゃんと萌香ちゃんはともかく、私はママからあまり教えてもらった記憶がないんだよなぁ。
ママから放任されていたので、好き勝手に練習をしてるような気がしないでもない。それも現在進行形で。
言葉を取り繕って言えば、子供の自主性を重んじた練習とでも言えなくもないけど。
それと、ウチは団ではないのだから、入団とは言わないのか。なんて言えばいいんだ?
テニススクールの生徒、つまり門下生みたいなモノか?
入門希望? これがしっくりとくる感じでしょうか。
だがしかし、ウチにはコーチはママと麻生さんしかいませんので、二人だけではこれ以上は手を広げられませんし目も届きにくくなるので、当分の間は入門はお断りする方向なんだろうなぁ。
ママもコーチングを引き受けるからには、おざなりな対応はしたくはないでしょうから、スクール生は増やさないと思います。
その前に、ウチはスクール生の募集とかはしていませんでした。優梨愛ちゃんと萌香ちゃんの二人はママのお眼鏡に適ったから、チームマドカに入れた訳だしね。
だから、庭野まどかのお眼鏡に適ってスカウトする形なので、ママの方から声を掛けてもらえなければ、第一関門すら突破出来なかったのでしたね。
つまり、チームマドカは少数精鋭ってことで!
※※※※※※
「おじいちゃんおばあちゃん勝ったよー!」
「たまちゃん凄い! 優勝おめでとう!」
「環希、おめでとう! これで環希は名実ともに、まどかを超えたぞい」
「そうね。たまちゃんはママを超えたわね」
ママを越えただなんて、照れるじゃないですか。
でも、テニスの殿堂入りも果たしている庭野まどかというテニス選手は、そんな簡単に乗り越えられるほど山は低くはないですよ。
ダブルスではママの成績には勝てそうにないから、私は私の道を突き進むのだ。
つまり、シングルスの頂点ですね。
「二人して孫贔屓ばかりして…… 二人とも忘れたの? 私もジュニアグランドスラムのタイトルは獲ってるわよ」
なんかママが不貞腐れて、おじいちゃんとおばあちゃんに反論していますね。
そういえば、ママもジュニアのグランドスラムは、全米オープンジュニアで優勝していたんだっけ?
庭野まどかが届かなかったタイトルは、グランドスラムのシングルスのみ。それだけというのは、ある意味ママの凄さを物語っているでしょう。
「娘と孫娘じゃったら孫娘を贔屓するのは、お祖父ちゃんとしては当然じゃろ?」
「そうね。それに、まどかが優勝したのって二十年以上前なんだから、すっかり忘れてしまったわ」
「まったく…… 環希が口答えばかりするのは祖父母の真似だったのね。その孫娘を産んだのは母親である私なんだから、私の方が環希よりも偉いのよ」
親子喧嘩が始まりそうなので、とばっちりを食わないように私は気配を消しておきましょう。
君子危うきに近寄らずの精神であります。
「はいはい、まどかは偉いわね」
「心がこもってないわよ」
「でも、そのまどかを産んだ私の方が偉いわね」
無限ループの低レベルな言い争いになりそうですね。
いい歳した大人であるはずの二人が何をやっているんだか……
「おじいちゃんは環希が優勝してくれたおかげで儲かったわい」
おっと、おじいちゃんが話題を逸らしてくれて助かったよ。
伊達に女優位の庭野家の中で、一人だけ男をやってはいませんでしたか。
まあ、私も精神的にはおと…… 本当に私の精神は前世の男のままなのかな?
精神は肉体に引きずられるとかとも耳にしますし、うーん……
今ここで考えても埒が明かない問題の気もしますので、この問題は先送りにしましょうかね?
「400万ポンドだもんねー。おじいちゃん凄い!」
「なにか欲しい物があったら言ってごらん? おじいちゃん何でもプレゼントしちゃうぞ」
「カタコンベ!」
おじいちゃん、カタコンベに私と一緒に行くのを忘れたとは言わせませんよ?
髑髏を見て心をリフレッシュさせましょう!
そしたら、今世での性別を素直に受け入れることができるかも知れませんしね。
「……腕時計とかはどうじゃ?」
「腕時計?」
「うむ。環希もそろそろお洒落な腕時計が似合う年頃だしの」
「……カタコンベ」
「ロレックスでもカルティエでも、環希の好きなのを買ってあげるよ」
高級腕時計も、それはそれで心惹かれるものがありますけど、私の優先順位は違うのであります。
「おじいちゃん、カタコンベに一緒に行くって約束だよ」
「そ、そうじゃったな……」
「あなた、たまちゃんとの約束はちゃんと守ってあげなさい」
「う、うむ」
おばあちゃんナイス後押しだよ!
「環希あなたカタコンベに、まだ拘ってたの?」
「だって、カタコンベ見に行きたいんだもん」
「はぁ~、こんなにもウチの娘が変態だったなんて、お母さん泣きたい」
変態とは失礼な。カタコンベいいのにね?
カタコンベには、スピリチュアルな心が洗われるような神聖な効果があるはずなんだよ!
完結詐欺? これからは番外編で日常メインなんだよ!(逆ギレ
九月中は日水金で投稿予定。たぶん…