2 0-3 0-30RET 全仏オープンジュニア決勝戦、決着!
おや? サブタイにRETの不穏な文字が…
ムーンボール!
エッグボール!
無回転にロビング!
逆クロスにパッシングショット!
股抜きショットからのリターンウィナー!
サーブ&ボレーにスマッシュにドロップショット!
キックサーブにフラットサーブにスライスサーブにスピンサーブ!
ランニングショットにアングルショットにシングルバックハンドボレー!
ジャックナイフにジャンピングスマッシュにダウン・ザ・ライン!
オマケで空振りからのアンダードロップ!
ちなみに、アンダーサーブは顰蹙を買いそうだったので、止めておいたよ。
アレはオーストリアの大会でやって怒られちゃった、禁断のサーブですしね。
しーん……
あれ? なんだこの静寂は。
ここは一つラノベの主人公みたいに、「私、なにかしちゃいましたか?」とでも言っておけばいいのかな?
「ゲ、ゲーム、ニワノ! マッチ、2セットトゥラブ、6-2、6-0!」
気が付いたら、試合が終わっていただなんて……
私はストロークで遊んでいたのを主審に注意されてから、反省して心を入れ替えて、ただひたすら真面目にプレーをしていただけなのにね?
どうしてこうなった? 解せん……
どうやら私が集中しすぎて、ゾーンに入っていたみたいでしたね。
アドレナリンかドーパミンをドバドバと垂れ流して、アクセル全開でトリップしていたともいえるのかも知れません。
審判が試合終了のコールをしてから一拍おいて、いままで静寂に包まれた周囲360°の観客席、その全てから地鳴りのような歓声が響き渡ってきた。
一万人にも及ぶスタンディングオベーションの嵐は凄いの一言に尽きます。
ああ、これが大舞台で戦って勝利した者へと送られる称賛なのか……
うん、気持ちいいかも。
いや、これは癖になりそうな甘美な香りと同じだな。
そうか、本物のアスリートは、大舞台で勝利した時に送られるこの感触を何度も味わいたくて、成功者となってからも弛まぬ努力を続けているのか。
うん、私にも少しだけ理解できたよ。
それにしても、試合中の静寂は本当に何だったのでしょうか?
少し気になりますね。
なにはともあれ、全仏オープンジュニア、ローラン・ギャロス・ジュニアチャンピオンシップのタイトルげっちゅだぜー! いぇい!
※※※※※※
「庭野選手、全仏オープンジュニアでの優勝おめでとうございます!」
「ありがとうございます!」
「いまのお気持ちを一言お願いできますか?」
今の気持ちを一言で表せですと? 一言って結構難しい注文の気がしますね。
うーん、「いままで生きてきた中で一番幸せです!」とか、確か90年代の流行語でありましたね。
この言葉って、ジュニアだけどグランドスラムで優勝できた私の今の気持ちに、一番ピッタリの言葉だとは思うのですよね。
でもこれでは、昔の流行語のパクリだしなぁ。
ここは一つ、無難な受け答えをしておきましょうか。
「素直に嬉しいです。けど、」
「けど? 続きがあるのですね?」
「全仏オープンジュニアでの優勝は通過点にしかすぎません」
「なるほど、まだ先があるということですか?」
「そうです。まだジュニアでもウィンブルドンに全米オープンジュニアが残っていますし、来年以降ではシニアのグランドスラムへの挑戦がありますので」
そう、ビッグタイトルは、なにも全仏オープンジュニアだけではないのだから。
「まだ登る頂上はいくつもあるということですか?」
「そうなりますね。だから、ジュニアのタイトルを一つ取っただけで満足していたら、すぐにでも足元をすくわれかねません」
「勝って兜の緒を締めよですね!」
「そうとも言いますけど、アスリートは勝利に貪欲でなければダメだと思いますので」
またそうでなければ、アスリートとは呼べないような気がしますしね。
「庭野選手はまだお若いのに、プロ意識が高く感じられる発言ですね」
「あはは、意識高い系ですかね?」
意識高い系って、褒め言葉じゃなかったような気がするのですけど?
それに、まだ私はプロではないんやで。
「意識高い系ではなくて庭野選手は、プロ意識高い系ですから大丈夫です」
「じゃあ、セーフですか?」
「セーフですね。今大会で優勝することが出来た要因を挙げるとしたら、それは何でしょうか?」
「ドロー運でしょうか?」
「またまた謙遜しちゃって」
ここで、私が強くて相手が弱かったとは言えないのだから、ドロー運とか適当にお茶を濁すしかないじゃないですかー。
それぐらいは、最低限度ぐらいの空気は私でも読めるのですよ。一応は。
「でも、第一シードの選手が三回戦でコケてくれたのは、正直に言って助かりましたので」
「庭野選手は第六シード、第三シード、第二シードを破っての優勝でしたね」
「それに加えて第一シードまで相手にしていたら、準決勝がやばかったと思います」
「なるほど、それはそうかも知れませんでしたね。この後の予定は、どんな感じでしょうか?」
「学校があるから一度日本に帰国して、ウィンブルドンの前に渡英といった感じだと思います」
ウィンブルドンに直行なら、四週間近くは学校に通えそうですね。
仮に前哨戦であるローハンプトンのG1大会に出場するにしても、二週間ちょっとは通学できる計算になります。
あ、ひなちゃんやクラスのみんなにお土産を買わなきゃ。
フランス、パリのお土産ってなにが喜ばれるのかな?
無難にチョコレートでいいかな。ニュージーランドとスペインのお土産もチョコレートや飴ちゃんだったしね。
ひなちゃんには別途で、魔除けのお守りを特別にプレゼントしたけど。
でも、欧米のチョコレートって中にウィスキーやブランデーを入れてるのが多いんですよね。
あと、甘ったるいグミみたいなジャムみたいなのが入ってたりもしますし……
やっぱり日本人には、日本人にあったチョコレートというのがあると思うのですよ。
私の舌には大手菓子メーカーが売っている、平々凡々なチョコレートが一番口に合う気がします。
まだ私の舌がお子ちゃまなだけなのかも知れませんが。
その点でいえば、飴玉のほうがハズレが少ないような気がします。
ニュージーランドのキウイ味とスペインのバレンシアオレンジの飴は、クラスのみんなにも好評でしたし。
パリは何味の飴になるんだ?
フランスだから、ブドウ、グレープ味の飴ちゃんになるのかな?
しかし、お土産に迷ったら、消えもの。これが一番の気がしますね。
あと、結婚式の引き出物、これも消えモノのほうが良いと思います。
夫婦の名前が入った記念のカップとかなんて、万が一にも離婚でもされたらどないせーちゅうねん。
三組に一組以上は離婚する時代なんだぞ!
あと、落として割ったりするのも気まずい感じがしますしね。
まあ、最近は名前を入れるなんてゲテモノの類い扱いされる代物ですので、ほとんど入れる人はいないみたいですけれども。
それで、いくら私が海外遠征中でも自習をしているとはいっても、学校の授業のほうが進んでいたりする部分もありますので、クラスの子にノートを見せてもらわなければならないのですよ。
だからお土産は、ノートを見せてもらう必要経費ともいいます。
別名、モノでノートを釣る作戦ともいいます。
でも、人間関係を円滑にするためには、ちょっとした気配りとか心遣いとかって必要なんですよね。
まあ、私の苦手な部分ではあると自覚はしているので、気を付けるように心掛けているのです。
忘れることも間々あるような気もしないでもないけど。
「凱旋帰国みたいな感じで、全日本ジュニアには出場する予定はあるでしょうか?」
「全日本ジュニアですか? うーん、その前にウィンブルドンもありますし、夏休みの予定はまだ未定です」
ジュニアのグランドスラム優勝者が、いまさら日本国内の大会である全日本ジュニアなんかに出場したら、それこそ他の選手から顰蹙を買っちゃいませんかね?
こっちくんな、あっち行け! おまえは海外で試合しろ!
こんな感じに文句を言われそうですよね。
「それでは、ウィンブルドンに向けて一言お願いします」
「ウィンブルドンジュニアも優勝を目指して頑張りますので、ズムズムをご覧のみなさんも応援よろしくお願いします!」
ママとおじいちゃんがZoomZoomの大株主だから、加入者のみなさんにも笑顔でサービスしておかないとね。
私の営業スマイルで、加入者が増えること間違いなしでしょう! たぶん。
「ウィンブルドンへ向けて、庭野選手の頼もしい言葉が聞けました。ついでにズムズムの宣伝もありがとうございます」
「いえ、株主の義務みたいなモノですから」
「そういえば、庭野選手は我が社の大株主でしたね」
「私じゃなくて祖父と母がですけどね」
私が現時点で株主のわけではないけど、将来的に現在保有している株の大部分が私の株になるのだから、株主として振る舞うのが適当ということで。
だから、ズムズムを宣伝するのは、株主として自社の売り上げに貢献するのは当然の行為だと思います。
それに私には、ズムズムのチャンネルの一つをテニス専用チャンネルにする野望がありますしね!
最低でもスポーツ専用チャンネルにはしたいところです。
「庭野選手、今日は優勝おめでとうございました。ウィンブルドンも優勝目指して頑張って下さい!」
「ありがとうございます。頑張ります」
「庭野環希選手への優勝インタビューでした。庭野選手、ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました」
ふぅ、全仏オープンジュニアで優勝かぁ。
まだあまり、優勝したという実感が湧いて来ないですね。
こういうのは、もう少し後になってからじわじわと感じてくるモノなのかな?
夜ベッドの中で思い出して、嬉しさのあまりゴロゴロと転げまわるとかありそうな気がしますね。
しかしこれで、ジュニアのグランドスラムでは頂点に立つことができました!
でも、シニアのグランドスラムの頂点に立つまでには、まだ道は果てしなく続いているのだから、まだまだこれからなんだよね。
これからの戦いでは、当然だけど負けることもあるでしょうし、怪我をすることもあるのかも知れません。
それらを乗り越えた先に、グランドスラムでの頂点というモノがあるはずだと思いますので。
そう、私はまだ最初の一歩を踏み出したばかりなのだから。
これからも、頑張らないとね!
とある魔球のダウンザライン! fin
ジュニアのグランドスラムですけど優勝して切りも良いので、この物語は一応これで完結になります。
レビュー、感想、ブクマ、評価ポイントをして下さった読者の方々に、お礼申し上げます。m(_ _)m
あとはそのうち番外編として、ダラダラと日常の話やピアノの話、移動途中の空港に飛行機などの話を、気の向くまま好きなように書くかも知れません。
え? テニスの話がないですと?
テニスは大会数試合数ゲーム数も多いから、試合描写がマンネリ化して同じことの繰り返しになって、読者のみなさんに飽きられるのが目に見えていると思いますので(汗
もし、どうでもいい話でも読んでやるという奇特な読者の方がいましたら、どうぞ番外編もよろしくお願い致します。m(_ _)m