2 0-3 0-0 全仏オープンジュニア決勝その1
「そういえばイレーヌ、あなたハンガリーのG2大会でタマキ・ニワノと対戦してたよね?」
「ダブルスではタマキと組んで優勝もしているよ」
「シングルスで対戦した時のことを聞きたいのよ」
「シングルスかぁ。シングルスはQFで対戦して、6-3、6-0で完敗だったね」
「ベーグルを食らった結果は知ってたけど、対戦してみての印象は?」
「タマキの印象? タマキは可愛かったよ!」
「顔の良し悪しを聞いてるんじゃないわよ!」
「プレーは顔に似合わず、えげつないプレーだったよ」
「えげつなかったとかじゃなくて、もっと具体的に正直に白状しなさい」
「具体的にと言われても、とにかくやり難かったというのが正直なところかな」
「やり難かった?」
「やり難くて私がイライラしたところで、変則的な軌道でサーブやリターンが来るから、こっちとしてはお手上げって感じだったわ」
「変則的ねぇ」
「だから、よく分からないうちに気づいたら追い込まれて、負けていたって感じなんだよね……」
「ふーん…… じゃあ私とニワノを比べたら、どっちが強い? 私とニワノの両方と対戦したことのあるイレーヌの感覚で構わないから」
「じゃあ、正直に言うわよ。イザベルよりもタマキのほうが確実に強いよ」
「言うじゃないのよ……」
「正直に白状しろと言われたので」
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ついにやってきました、全仏オープンジュニア、ローラン・ギャロス決勝!
決勝の相手はランキング二位で今年の全豪オープンジュニアのチャンピオンでもある、地元フランスのイザベル・ダラディエ選手です。
いくら全豪の覇者とはいえ、準決勝での萌香ちゃんとの対戦を見る限りは、私が勝てない相手ではなさそうですね。
しかし、油断大敵ともいいますし、私は挑戦者の立場なのですから、気を引き締めて行きましょう。
それにしても、お客さんが大勢入りましたね。ほぼ満員とか、さすがは地元選手が決勝に出場しているだけのことはあります。
コート・スザンヌ・ランラン……
ランランってフランス人は変わった苗字があると思いました。小並感。
でも、これだけ大きなコートでプレーするのは今世では初めてのことですし、ワクワクしますね!
前世では、有明のセンターコートに立ったことはありますけど、コート・ランランは、有明のセンターコートと同じくらいの規模のコートだと思います。
しかし、スタッド・ローラン・ギャロスでは、ランランですらセンターコートではないのですよね。
センターコートはランランに比べて1.5倍の収容人数の規模を誇る、フィリップ・シャトリエがローラン・ギャロスのセンターコートなのです。
さて、この決勝の舞台は完全にアウェーですし、今日は悪役に徹しましょうか!
今日の私は、悪役令嬢たまきちゃん路線であります。
もっとも、負けるつもりなど微塵もありませんので、ごめんあそばせ。
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『ヘッド。 ……レシーブで』
コイントスに相手が勝ってレシーブを選びましたので、私のサービスゲームからの試合開始になります。
まず最初は、デュースサイドに立ってのサーブからですね。
「とぅ」
私は相手の正面を狙ったボディサーブを打ち込んだ。
相手のイザベルちゃんは、自分の身体を引いてフォアハンドでのレシーブを選択したようですね。
「15ラブ」
相手のレシーブがネットに突き刺さった。
ボディ狙いのサーブは相手のレシーブが窮屈になりやすいので、リターンの選択肢を狭めさせるという意味において、ボディサーブは有効打足りえるのですよ。
さて、お次はアドサイドからのサーブになります。
「てぃ」
私はサウスポーにスイッチしてから、センターラインを目掛けてサーブを打ち放った。
「フォルト!」
む? センターラインを見ているラインパーソンから、フォルトのコールですと?
観客席からも、ブーイングがチラホラと聞こえますね。
でも、私の対戦相手が有利になったほうが、地元フランスの観客にとって喜ばしいのでは?
今日この場は、私にとっては完全にアウェーの場所なんだし、私は地元選手であるイザベルちゃんに対するヒール役のはずですしね。
それはそうと今のサーブは、ちゃんとインに入っているはずなんだけどなぁ。
チャレンジ!
……ローラン・ギャロスには、チャレンジの制度はなかったよ。
仕方がないので、主審にお伺いを立ててみましょうかね?
っと、その前に、私がお伺いを立てる前に主審が自ら確認に行きましたか。
なかなか公正で働き者の主審みたいで助かりました。
「レット! ネクストリドゥ、ファーストサーブ、ワンモア」
やっぱ私の予想したとおりに、ちゃんと入ってましたね。
しかし、さすがにサービスエースの追認とまで、そこまでは甘くありませんでしたか。
今日の線審はシビアそうだから、インに2cmぐらい甘めに入れたほうが良さそうな気がしますね。
審判の判定に異議を申し立てて、何度も何度も打ち直すとかやり直すのも、それはそれで面倒だしリズムも崩れそうですしね。
私は基本的に審判の判定に対して、滅多なことでは異議申し立てはしないのですよ。
仮に異議を申し立てたとしても、判定が覆ることなんてほぼありません。私は経験ないですし。良くても、一つ前の場面からのやり直しじゃないでしょうか?
そんなことは時間の無駄ですし、審判の心証も悪くなります。オマケにリズムも崩れて、良いことなんてなさそうな気がしますので。
ホークアイでも採用されていれば、また別なんでしょうけれども。
今大会みたいにクレーコートの場合は、ボールの跡が付くのでハードコートよりは、異議を唱えても大丈夫なんですけどね。
それでは仕切り直して、もう一度ファーストサーブを打ちましょうか!
さっきのでセンターライン狙いはケチが付いたので、今度はサイド狙いでサーブを打ちます。
私の左腕から繰り出したサーブは、サイドライン手前で急激に落ちて、ライン上でバウンドして跳ねた。
「30ラブ」
私命名のスライスピンサーブが決まった瞬間である。
次はデュースサイドからだけど、まだ左を続けてみますよっと!
今度は左からのボディサーブで、相手の身体正面を狙います。
イザベルちゃんはバックハンドを選択して、リターンを返してきた。
しかしリターンしたボールは、サーブを放ったと同時に前方へと走り出していた、私の罠に掛かってしまったのですよねー。
「40ラブ」
私は最後に、ちょこんとボールを軽く相手コートに入れるだけでよかった。
当然だけど、イザベルちゃんはボールには追いつけません。
勢いはないけど、一応はサーブ&ボレーですな。
あと1ポイントで、サービスゲームのキープとなります。
最後のサーブは、先程のやり直しとばかりにセンターラインを狙って、ズドン!
「ゲーム、ニワノ」
よっしゃ! ラブゲームでキープだぜぃ!
次は8/30金曜日!