2 0-2 0-15 美人が台無し
いいサブタイが浮かばなかった…
『だぁ!』
アナスタシア・トハチェフスカヤが鬼のような形相でリターンを返してきました。
でもそんな顔をしたら、せっかくの美人が台無しの気がするのですが?
まあそれだけ、アナスタシアさんも必死ということなのでしょう。
それで、第一セットは6-1で私が取って、いまは第二セットの第4ゲーム、私のサービスゲームの途中であります。
このセットの第3ゲームを私がブレイクして2-1とリードしています。
アナスタシアがデュースサイドに返してきたボールを、私もフォアハンドのクロスで相手のデュースサイドに角度を付けて深くリターンを返す。
それと同時に、私は斜め前方に走り出す。
私のリターンに対して相手は身体を伸ばして、なんとかレシーブをして返したけど、そのリターンはロブ気味の死んだ返球にしかならなかった。
私から言わせれば、いわゆるチャンスボールというヤツですな。
まあ、リターンを返せたとしてもロビングでしか返せないクロスを入れたのだから、この結果は想定されたとおりの結果なのですがね。
だからこそ、私はリターンを返すのと同時に前方へと走ることができたのですから。
そうでもないと、怖くてネットプレーに出るなんて冒険はしません。
基本的に私は、安全マージンを取ったテニスを心掛けていますので。
この場合は体勢を崩されながらも、私のコートにちゃんとインするリターンを返してこれた、アナスタシアを誉めるべきなのでしょう。
下手な子の場合だと、悪かったら届かずレシーブすらできないで私のウィナーになってしまいますし、良くてもそのままサイドアウトになっちゃうことが多いですしね。
そして、このチャンスボールをダイレクトにボレーで相手アドコートのサイドに叩き付ける。
コートの対角に近い場所、一番遠い所にリターンをダイレクトで返したのだから、当然、アナスタシアは追いつくことは出来ません。
「40ラブ」
さて、このサービスゲームの最後は、どう料理しましょうかね?
「とぅ」
私はアドサイドから右手でサーブを放つ。その放たれたサーブはセンターラインを目掛けて飛んでいき、白い粉塵を小さくまき散らしながら、黄色いボールが勢いよく跳ねた。
アナスタシアが届けとばかりに必死に腕を伸ばすけど、その願いも虚しくまるでボールはあざ笑うかのように、ラケットの先を掠めて彼女の後方へと消えていった。
つまり、オン・ザ・ラインでのサービスエースである。
「ゲーム、ニワノ」
このゲームをラブゲームでキープできたのは上出来でしたね。
これで、ゲームカウントは3-1になりました。
次は私のリターンゲームになります。
『だぁ!』
相手の打ったサーブが私のデュースサイドのサイドライン際に落ちる。
これは無理して追いかけても、追いつくのは厳しそうだから素直に諦めます。
ボールに無理やり追いつこうとして、無駄なエネルギーを消費する必要はありません。
時には必死になってボールを追うことも必要なことだとは思いますけど、いまこの場面ではないということですね。
まあ、こんなプレーばかりしているから、庭野のプレーは手を抜いているとか言われてしまうのかも知れないけどさ。
でも、なんでもかんでも一球一球に全力でプレーなんかしていたら、それこそ体力が無尽蔵にでもないと持ちませんので、このプレースタイルでいいのだ。
試合途中でガス欠するよりも、省エネ運転を心掛けたいお年頃なのであります。
それに、勝てば官軍でごわす!
「15ラブ」
ここぞという所で、アナスタシアは結構サービスエースを取ってくるのですよ。
だから、ワンブレイクアップとリードはしていても、油断はできない相手なんですよね。
さすがは、ランキング三位の実力がある選手といったところでしょうか?
そういえば、昨年のプティの決勝でもアナスタシアに、結構な数のエースを取られた記憶がありましたね。
※※※※※※
30-40と私が1ポイントリードして、ブレイクするチャンスがやってきました。
『だぁ!』
アドサイドに放たれたサーブをバックハンドでストレートに返す。私がリターンしたボールを相手もフォアハンドでストレートに返してくる。
今度はバックハンドでクロスにリターンを返して、ネットプレーにも対応できるように準備をする。
アナスタシアはデュースサイドからアドサイドへと走って私がリターンしたボールに追いついたけど、ラケットに当てるのが精一杯のようだった。
そのレシーブしたボールは、大きく放物線を描いて……
ってマズっ!? これはアウトにならないぞ!
私はボールの落下地点を見定めてから、ベースラインに向かって全力で走り出した。
ボールがベースライン上でバウンドする寸前に追いつき、バウンドしたボールを追い越す。
そして、追い越したボールを跨ぐ格好で待ち受けます。
えっと、この角度からだと、こんな感じかな?
私はラケットを縦にしながら、自分の足の間に振り下ろした。
ラケットが足を通り越した瞬間に、ラケットを横にしてボールを正面で捕らえて打ち返す。
「てぃ」
私が振り返った時には、ボールはストレートに相手のコートへと返っていき、ベースラインの手前で跳ねていた。
……アナスタシアは唖然としてボールを目で追うだけで、一歩も動けなかったみたいですね。
「ゲ、ゲーム、ニワノ」
股抜きショットでの、ダウンザラインが決まった瞬間である。
ドヤァ!
私の美技に審判も思わず見惚れていたみたいでしたね。
観客からの拍手も、この試合で一番大きく感じられます。思わず観客の拍手に応えるように、手を挙げて挨拶をしてしまったよ。
この試合開始前に、わざわざコートを変更した主催者も、きっとこれで満足してくれること請け合いだと思います。
ロブでリターンが返ってくると、この股抜きショットができるから楽しい気がしますね!
しかしこれで、ツーブレイクアップの4-1となりましたので、私の勝利は揺るがないでしょう。
さて、あとは軽く流して終わらせるとしますか!
知ってるかい? 今話ってサーブ四球分しか書いてないんだぜ?