1 1-0 0-0 優梨愛ちゃん!
サブタイの数字が難しい…
1 1-0 0-0 これは、第1セットの第1ゲームを取って、第2ゲームの始まりという表記のつもりなんだけど、通じるよね?
素直に1話2話って通し番号にすれば良かったと少し後悔。
ガサッ
「……ラブ40」
ん? 連続でネット直撃のダブルフォルトだなんて、優梨愛ちゃん、どうしたんだろ?
あきらかに最初に見せたキレが無くなっているよ。
アレは小学生には、ちょっと刺激が強すぎちゃったのかな?
ただいま、第1セットの5ゲーム目の途中です。私のサービスゲームはラブゲームでキープして、現在のゲームカウントは4-0になります。
優梨愛ちゃんの三度目のサービスゲームの途中なんだけど、明らかに優梨愛ちゃんの動きに精彩がなくなってしまった。
出だしから、2ゲーム連続でブレイクされて、なおかつ自分は連続で相手にラブゲームキープでもされたりもすれば、動揺するのは当たり前でしたか。
2ブレイクダウンはプロでも大半の選手は、これはちょっと拙いぞと、焦り始めるからね。
ちょっとやり過ぎたのかもしれない。
どうしよっかな…… このゲームは、優梨愛ちゃんが自滅しちゃいそうだから、次のゲームを私がわざと落とすか?
まあ、ある程度はゲームの流れを見ながら、ちょこちょこと修正を入れて行けばいいか。
うーん、手抜きをして勝てる相手だとは思わなかったから、少し本気を出したのだけど、さじ加減が難しいよ。
かといって、この時点でダブルベーグルなんかやったら、間違いなく目立ちすぎてしまうのだ。
だからそれも、なんだかなぁって気がするんだよね。
ジュニアで素質のある子を潰すのは、私の本意ではないのだから。
こんなことを考えながらプレイをしているから、ママに真面目にやれって怒られてしまうのだろうけど。
でも、テニスを続けていれば、世界で通用する子も出てくるんだしね。
間違いなく、優梨愛ちゃんもその一人だ。
だからこんなところで、潰れてしまってテニスを嫌いになったりして、辞めるなんて真似はして欲しくはないのです。
なぜなら、みんなにテニスをもっと楽しんでもらいたいのだから!
でも、全日本とかの全国大会では容赦しないよ?
そこまで勝ち進んだ選手には、その背後に悔し涙を見せた大勢の敗者がいるのだから。
私も、そこまでは斟酌しないし、そこまでは優しくもありません。
キッズ大会や今大会みたいに、甘やかしません。
全国の舞台に立った実力のある選手は、みんな強者なのだと思いますから。
※※※※※※
「ゲームセット、マッチウォンバイ。私、庭野! 6-2、6-3」
結局、優梨愛ちゃんはゲームを立て直すことが出来なくて、それがわかった私も途中から接待テニスに予定を変更したので、6-2 6-3というスコアでの決着となりました。
ひとまず、公式戦初出場で初優勝ができました。やったね!
まあ、グレード4の下部大会なんだけどさ。
でもこれで、75ポイントげっちゅだぜ。
「ナイスゲームでした!」
「ナイスゲーム、おめでとう。あなた強いわね」
「ありがとうございます」
「でも……」
「でも?」
なんか、ヤバそうな予感がする。サッサとこの場からフェードアウトしなければ。
「あなた、途中から手を抜いてプレーしてたでしょ?」
しかし、回り込まれてしまった!
「え、そんなことないですよ?」
「馬鹿にしないで!」
「いや、べつに馬鹿になどは、していないのですけど……」
やべっ、途中から接待プレイしたこと、優梨愛ちゃんにバレてーら。
「これでも、私は全日本ジュニアでベスト4まで行ったんだから、相手の実力ぐらい分かるわよ!」
「全日本、ベスト4?」
「知らなかったの?」
「初めて知りました」
優梨愛ちゃんって、全日本ジュニアでベスト4まで進出してたのかよ。全然知らなかったわ。
五年生でベスト4は、素直に凄いんじゃね?
そりゃあ、どうりで凄く上手い訳だわ。斟酌して、接待したの損した気分だぜ。
まあ、優梨愛ちゃんは可愛いから許すけどね!
「これでも、テニスをする小学生の中ではそこそこ有名だとは思っていたんだけどなぁ。ちょっとショックだわー」
「すいません……」
といいますか、そんな実力者がなんで、G-4大会なんかに出てんだよ。
あー、この時期には、他に出場する適当な大会がないのか。
「だから、手抜きプレーされた方が惨めなんだよ」
「ご、ごめんなさい。でも……」
「でも? でも、なによ?」
「スタミナが切れたから、省エネ運転に切り換えました」
接待テニスに変更しただなんて、本当のことを言える訳ないし仕方ないよね。
「スタミナ切れねぇ。そうは見えなかったけどなぁ」
「でも、本当に連戦でスタミナが切れたんです」
「本当に……?」
「さすがに、三日で五試合をこなすのは初めての経験だったから」
うん、これは本当のことだよ。公式戦自体初めての経験だったんだし、嘘は言ってないよ。嘘は。
それに、多少お疲れでバテ気味だったのも本当のことだし!
この身体は、まだ小学生だからなのか、スタミナがないのは事実なのだ。
これからの課題は、主に体力面の強化と筋力を付けて、パワーアップすることかな?
でも、激しいトレーニングは身体の成長に悪影響を及ぼすというデータもあるから、程々にしておかうか。
「そういえば、あなたポイント持ってなかったね」
「はい。この大会が初めての公式戦でしたので」
「あたしは初公式戦の相手に負けたのか…… マジでヘコむわー」
「すいません」
「いや、謝らなくていいから。余計に惨めになるし」
かといって、「どやっ!」ってドヤ顔してもいいんですかね?
それとも、「おーほほほ」って悪役令嬢みたいに高笑いすればいいのかな?
でも、それやったら、グーで殴られそうな気がするのですけど……?
「スタミナが心配だったから、早めに主導権を握りたくて、最初に全力で行ったんです」
「確かに、1セット目の最初は凄かったね」
「最初にブレイク出来たら、あとが楽になりますから頑張りました」
「それは確かにゲーム運びとしては正しいよね」
「はい」
テニスとは、相手のゲームをブレイクしないと勝てないし、決着が付かないゲームなのだ。
だから、昔のウィンブルドンでは、ファイナルセットで140ゲーム近くまで戦ったような試合もあるのです。
試合時間は二日に跨って、なんと11時間! もうね、さっさと決着を付けろよ! バカなの?アホなの?死ぬの?ってな具合ですよね。
戦った選手は、ここまで来たら負けられない、何がなんでも勝つ! とかいう、まさしく意地と意地のぶつかり合いだったんだろうなぁ。
選手の人は、お疲れ様でした。
「今日は完敗だったけど、次に対戦した時には負けないよ」
「私も負けません!」
ふぅ~、まだ半信半疑みたいだけど、どうやら誤魔化せたみたいですね。
でも、言い訳をさせてもらえるならば、優梨愛ちゃんはそれだけ危険な対戦相手だったんだよ。油断をしたら、私でも危なかったという事なんだよ。
ただ、小学生の経験値を読み違えてただけなんだから!
「ふふ、でも、どっちかは負けるんだけどね」
「あ、そうでしたね!」
うむ。猫被りのたまきちゃん発動。
「まだ、ちゃんとした自己紹介はしてなかったね。私は里田優梨愛」
「優梨愛ちゃん! もう覚えました!」
ドローをみて知っていたよ。試合開始前にも挨拶したしね。
「優梨愛ちゃんって…… まあ、それでいいけど。あなたの名前は、庭野……」
「環希と書いて、たまきと読みます。庭野環希です」
「たまきって読むんだ。ごめん読めなかったよ」
そういえば、環って何年生で教えられる漢字だったっけ?
環境の環とは知っていたとしても、環を"たまき"と読むのは難しそうだな。
ましてや私の場合は、環に希が付いて当て字で"たまき"なんだから、難読の部類なのかも知れない。
本当ならば、"たまきき"になっちゃうしね。
「私の名前って、少し読み難い漢字かも知れないですよね」
「でも、いい名前だと思うよ。環希ちゃん、優勝おめでとう!」
そう言ってくれた、優梨愛ちゃんの笑顔はとても眩しかった。
私が男の子だったら、この笑顔に間違いなく惚れてたわ。
というか、惚れた。
優梨愛ちゃんだから、優梨で百合でゆりゆり?
そのうちガールズラブのタグを付ける必要がでてくるのか?