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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

未来予想図

作者: 高殿アカリ

あいつが、他の男の腕を掴む。

あいつが、その唇から他の男の名前を紡ぐ。


俺の胸はその度に、声にならない叫び声をあげる。

泣き出したい。

叫び出したい。


あいつをこの腕に閉じ込めて、そのまま永遠に眠りたい。


誰かを見つめるその目を縫い付けて、俺はその跡を舌でなぞる。

あいつはきっと微かに身震いをして、それから俺に全てを捧げるんだ。


そうすれば。

少し乾いた唇も、芳しい香りのする髪も、細く白い指先も。

そう、その全てが俺のものになる。


………


目が覚めた時、俺は何故か泣いていた。

そして、目の前にはすやすやと気持ち良さそうに眠っているあいつがいた。


幸せだと思った。


あいつの柔らかい髪に唇を寄せ、俺は微かな願いを込めた。

すると、俺の気配に気がついたのか、あいつの瞳がゆっくりと開く。


それから、ふんわりと笑って、


「おはよ」


俺の手を自分の頬に持っていくのだ。


「……どこにも、行くな……」


思わず漏れ出たその声に、あいつは困ったように笑い返すだけ。


俺の唯一の願いは、いつまで経ってもあいつには届かない。


愛したいのに、決して愛を返してはくれない。

それが、あいつだった。


それから、決まり事のようにあいつはこう言うのだ。


「君が僕を愛さなくなったら、ね」


そんな日は永遠に来ないというのに。

分かっていて、そんなことを言うあいつは、どこまでも残酷だ。


するりと俺の腕を抜け出して、あいつは奴に電話をかける。


「おはよう。今日、会える?」


なんて拷問だ。

好きな奴が他の男の元へ行くのを黙って見ているしかないなんて。


こんな関係なんて、クソ喰らえだ。

そう思って、何度、壊してやろうかと考えたことか。

一体、何度……。


こんな関係なんて……。


血が滲み出るほど唇を噛み締めていると、あいつがそっとその唇に触れてくる。


「ほら、血が出てるじゃん」


くすくすと笑うその声に、俺は今日も囚われたまま。

ゆっくりと落ちてくるその綺麗な顔に、俺は未だに魅了される。


触れ合った唇と唇が。

混じり合った吐息と吐息が。


それでも去っていく気配のするあいつの背中が。


どうしようも無く、愛おしいのはどうしてだろうか。


絶え間なく痛む胸を心の奥に押しやると、俺は泣きそうな顔でそれでも精一杯に笑ってやった。


「ほら、彼氏が待ってるぞ」


すると、あいつは幸せな顔で頷いて。


「じゃあ、また連絡するね!」


無邪気な足取りで部屋を出ていく。

後ろ髪さえ、引かれないらしい。



**********



本当は、振り返りたい。


君がどんな顔で僕を見送っているのか。

君がどんな目で僕を見つめているのか。


知りたくて堪らない。


君の元から去っていく僕を、君はどんな風に思っているのだろう。


君に愛されたくて、愛されたくて。

僕を君の全てにしてみたくて。


僕は、違う人を好きになった。

僕は、違う彼を求めたんだ。


そして、僕は君を生殺しにするんだ。


そうすれば……。

そう、そうすれば、いつか君はこの現状に耐えられなくなって。


きっと、僕に刃を向ける。

それから、君の手が赤に染まるんだろう。

僕の、僕だけの血で。


それが、僕達の未来予想図だ。


僕は、君に愛されたいから。

僕が、君の全てになりたいから。


君の我慢が限界に達したら、僕達はようやく一つになれるんだよ。


永遠に、何処にも行けないまま。

ただただ二人きりの、暗闇の中で。


だから、今日も僕は君の元から去っていこう。

いつか二人ぼっちになれる、そんな未来を恋い焦がれながら。


気が向いたら、続きを書くかもしれない。

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