1章-4 欲望の国
都に向かう馬車の中で鎧姿のアレックスと向かい合って一人の男が座っていた。いかつい鎧を身に纏ったアレックスと対照的で身軽そうな貴族服を着ている。肩程の黒髪で片眼鏡が特徴的な優男だ。
「何故私がこんなに重い鎧を着ているというのにおまえは軽装なのだ、クラウド。」
アレックスはメイドに持たされたクッキーを頬張りながら東の将軍補佐グレイ・クラウドに文句ありげな視線を送る。対し、クラウドは涼しい顔をしていた。
「僕まで武装したら馬が引っ張れなくなりますよ。」
何だかそれっぽいことを言われ、アレックスは納得しかけた。
「そうだとしても理不尽だ、私は鎧のせいで蒸し風呂状態であるというのに。」
「仕方ないじゃないですか、お父様から外出する際には着用を命じられているでしょう?お母様から言われていることについては目をつぶっているのですから、それくらい我慢してください。」
そこを言われると何も言い返せなくなる。アレックスは母親に間食は禁じられている。しかしながらアレックスは今の様に母親の目を盗んでは菓子類を食べている。
「せっかく都に行くのだから珍しい菓子を食べないと損ではないか。」
アレックスは毎回都に行く度城下町で様々な菓子を食べていた。カラフルなケーキ、黄金色のモンブラン、都には実に素晴らしい物がたくさんある。勿論、その度このクラウドの口を封じている。
「しかし、アレックス様もお変わりになりましたね。昔は甘い物が苦手だったというのに、今ではこうしてお母様から隠れてお菓子をお口にするなんて。」
クラウドはクスリと笑う。アレックスは目を逸らし、窓から外の風景を見ていた。何もないただの草原であった。
「将軍ともなればストレスとやらが多いのだ。甘い物は疲れに良いと聞いている。だから止められないのだ。」
アレックスの必死の言い訳を聞きながらクラウドはニマニマとしている。
「しかし、そんなに食べていてはいつか太ってしまいますよ?」
「な…!?」
太るという言葉に反応してしまうアレックス。最近少し、本当に少しだが体重が増えたのを気にしていたのである。
「そうなるとお母様にもバレてしまうでしょう。そのあとはそれを隠していた僕達も怒られてしまいます。ですから頑張って体型は維持してくださいね?」
クラウドは満面の笑顔をアレックスに向ける。アレックスの母親は普段はおしとやかであるが、怒るとなかなか止められないのである。あとーー
「そういうことばっかり言う貴方のことは嫌いだ、クラウド。」
「そうですか?僕は将軍様に最期まで一緒にする覚悟ですよ。」
照れくさくなったのかアレックスは「フン」とクラウドから目を逸らした。