乙女
チャイムが鳴り、私は帰りの支度をする。誰かに捕まるまえにさっさと支度をして一人で帰ろうと思ったのだが、久しぶりのことにもたもたしてしまい、結局捕まってしまった。
「美海ちゃん、一緒に帰ろー」
「姫、今日は私たちと一緒に帰ってくれる? 」
同時に声がかかった。振り向くと、学年のボスと呼ばれている女子が二人、仁王立ちで立っていた。その二人の後ろには、数人の女子たち。どちらのグループも気が強そうだ。まずったな……。このふたグループは仲が悪い。この二人が同じ場所に集まるということは……。
「ちょっと! 美海ちゃんは私たちと一緒に帰るのよ! 」
「は? 何言ってるのよ。姫は優しいから、私たちと一緒に帰ってくれるに決まってるわ。それよりもあなた、なんで姫をなれなれしく名前呼びしてるのよ!? ずるいわ」
「なれなれしく!? 姫なんて、名前じゃないじゃないの! 名前で呼ばないだなんて、かわいそうよ! 美海ちゃんになんてことしてるのよ」
言い合いになる。止めようとしたが、遅かった。放っておいても自然消滅しないため、私が無理やり話に割り込む。こんなことする動機も、言い合いしているのを見ているめんどくさいから。早く帰りたいから。
「ま、まあまあ。落ち着いて! 一緒に帰るのなら、大人数でも帰れるよ! 一緒に帰ろう? 」
「でも姫。私たちとこいつらの家の方向は正反対なのよ? それは難しいわ」
「そうなのよ……美海ちゃんは私たちのどちらとも近いから、どっちでもいいけど……」
はあ……そんなのどうでもいいから、早く帰りたいんですけど。ゲームが待ってるのよ、途中のゲームが!
「こんなんじゃ、埒が明かないわ! 姫に、どっちと一緒に帰るか決めてもらいましょ! 」
「それはいいわね」
え……。ふたグループは私を振り返り、声を合わせて訊いてきた。
「「ねえ、どっちと帰るの? 」」
ええ……。私、こういうの苦手。優柔不断なんだよね。
「じゃあ、私が次いつ学校にくるかわからないから、みんな一緒に帰ろうか! 」
「でもそれじゃあ、どちらかが遠回りになっちゃう……」
「いいわ。私が送っていくから、安心してみんなで帰りましょう」
瞬間、ふたグループは顔を明るくしてうなずいた。
「「ありがとう! 」」
はいはい。まあ、早く帰らせてくれれば文句はないよ。だから、早く帰ろうね。
それから私は、ふたグループのみんながわかれるところまで送っていった。
やっと静かになり、一人で家まで帰ることになった。
ため息をつきながら歩いているところで、誰かにぶつかり、しりもちをついた。ちょうど曲がり角を曲がるところだった。
「あっすみません! 」
「いえ、こちらこそ……」
立ち上がろうとすると、手を差し伸べられた。
「ありがとう……」
顔を見て礼を言うために顔を上げると、目が会った。男の人だった。……が、特になんとも思わなかった。それよりも、早く帰りたいと思った。
「あ、怪我してる……」
「え? 」
視線をたどると、確かに手が擦り剥けていた。
「ああ、このくらい大したことないですよ。大丈夫です」
にっこりと笑って見せた。するとなぜか、その男の人は顔を赤くしたが、すぐに口を開いた。
「そうはいきません。俺のせいで怪我をさせてしまったのですから……。俺の家、この近くなんです。手当させてください」
「いえ、大丈夫ですから……」
手を引こうとすると、引っ張られた。
「わっ」
「こんなきれいな人に怪我をさせてしまったんだ、申し訳ない。せめて、きれいに治すために、手当を」
強引に手を引かれて、私はその人の家の中まで案内された。
家に入るなりその人のお母さんが悲鳴をあげた。「まさかうちの子がこんなかわいい子を連れてくるだなんて! 」と言っていた。が、特に興味はなかったし、何の反応もしなかった。それより、はやく帰らせてほしかった。
「で、どうなるんですか? 」
少しイライラしながら訊くと、男の人は私の手を引き、二階へと案内した。
「ここ、俺の兄の部屋。俺がよく怪我するからって、救急セットがたくさん置かれているんだ」
「そうなんですか……」
だからこんなに薬品の臭いが充満しているのね。お兄さんは辛くないのかしら?
そのとき、下の階から声がした。
「ただいま~」
「あ、兄ちゃんだ! 」
男の人は私のことは放って、走って行ってしまった。
しばらくして戻ってきたかと思ったら、誰かが後ろにいた。
「紹介します。これ、俺の兄。俊介って言うんだ。兄ちゃん! 俺さっきこの子にぶつかっちゃって怪我させちゃってさ。だから、手当してくんない? 俺は慣れてないからさ……」
すぐに返事が返ってきた。その声は、聞いていてとても心地の良い声だった。
「いつもはお前が吹き飛ばされてくるのに、お前が吹き飛ばしてくるだなんて、いったいどのくらい華奢な子に怪我をさせたんだ」
いい意味で受け取るか、悪い意味で受け取るかで迷っていたが、一瞬でそんなことはどうでもよくなった。ドアの向こうから姿を見せたその人は、とてもかっこいい人だった。一瞬で心臓がばくばく鳴りだして、顔が熱く感じた。
「初めまして。僕は俊介。弟が君に怪我をさせたみたいで、ごめんね。大丈夫かい? 」
「は、い……」
「じゃあ、怪我をしたところを見せて? 」
俊介が手を取ったところから、私に記憶はなく、気が付いたら私は家まで着いていた。どうやら男の人が私をここまで送ってくれたらしいが、私には俊介が気になってお礼しか言えなかった。
こんにちは、桜騎です!今回は遂に運命の人と出会うか!?という感じでした。次回はどうなるんでしょう?こちらの更新は遅くなりますが、気長に待っていただけると幸いです。