引き籠り美少女~恋する前の無知な乙女は~
カタカタとリズムのいい音が薄暗い部屋に響き渡る。音源となるそのパソコンの前にはそのパソコンのキーをたたかれる音にうっとりとしている私がいた。
「ふふ…いい音」
最初の二文でわかると思うが、私は引き籠りだ。一応職業はある。まあ、いわゆる私は不登校だな。ではなぜそうなったか。さっきからではでは煩いが、聞いてもらいたい。私は…まあ、自分で言うのもなんだが、美人だ。…美人らしい。まあ、そう言われているだけで、自分ではそんな事全く思っていない。思っていないのだが、思っていないのが逆効果だったらしい。ただそう自覚する奴は面倒くさいと思っているだけなのだが、それが謙遜とか…そんなふうに見えたらしい。そして…これも誰かが言っていたことだが、相手が誰でも態度を変えない所が好かれるとかどうとか。まあこれも、いちいち態度を変えるのが面倒くさいからだ。長くなったが、とにかく面倒くさいが理由で何もしない私は私をそういうふうに思って、そういう憧れやら尊敬のまなざしで見られるのが面倒くさかっただけだ。だから、不登校になった。
…だが、それでも私が美人で真面目で大人しく、とても優しいと思っている奴らは、私が何日学校に来なくてもしつこく予定表とか手紙とかを家のポストに入れていくのだ。迷惑極まりない。
「…」
そうして、そういう事を思い出しているうちにまたイライラしてきて、ついつい現在愛用中のパソコンのキーをぶっ叩いてしまった。ダンっという音がして、画面に変な並びの文字が連なる。せっかくゲームのプレイヤーの名前を打ち込んでいたのに、これでは台無しではないか。仕方なく、私はBACKSPACEキーを長押しした。しばらくして、一瞬で文字がすべて消える。
そしてさっき決めたばかりの大事な大事な名前を、ゆっくり、この瞬間を楽しむように打ち出そうとした時だった。ガチャっと音がして玄関が開いたことを知る。
「ただいま~」
「!?!?」
私は慌ててパソコンを閉じ、カーテンを全開にし、散らかっている制服と共にベッドの中にもぐりこんだ。…リュックの存在を忘れていた。私は慌ててベッドから這い出てリュックをわしづかみにすると勢いに任せてクローゼットの中に押し込んだ。
「んあ?何これ。美海、いるの?」
どうやら靴箱の蓋を開けたらしい。いつもは…いや、今までは学校の靴何て出しっぱなしだったから、靴箱に隠しておけば私の在宅何て気付かないはずなのに…!!
とんとんと階段を登ってくる音がする。さっきまで好きだったリズムのいい音に、私は初めて恐怖を感じた。そう、音に!音なんかに!!…と、まあ、そんな私のくだらない寂しいつっこみらしきつっこみはその辺にしておいて、恐怖で動かない足を必死で動かし、再び布団にもぐった。掛け布団がなるべく平らになるようにする。
と、ガチャリ、と音がなり、仕事に行っていたはずのお母さんが入ってきた。
「美海~?」
今、私の心臓は恐怖と不安でどくどくと波打っている。この心音がお母さんに聞こえないかとさえ気になるほどに。
「美海、いるの!?」
まずい。非常にまずい。お母さんに見つかったら、途中からでも学校に行かなくてはいけなくなる。それは本当に面倒くさい。
急に、押し入れの中でドサっと音がした。お母さんの足音が反対側の押し入れに向かっていく。…本当にびっくりした。お母さんが何かしたのかと思った。だが、どうやら押し入れの中の何かが落ちたらしかった。
「美海?」
さっきからそれしか言っていないお母さんは、押し入れを開け、中から飛び出してきたものに驚いたようだった。
「…アルバム?」
お母さんはアルバムをめくる。
「ああ、これは中学の写真ね。これは…何で靴の写真が!?…あら、この靴は、さっき靴箱で見た…?て事は美海、もう一つの白い靴を間違えてはいて行ったのね。びっくりした…」
何故そうなるのか?…そうだった。そのもう一つの白い靴はお母さんが知らない所で捨てたのだった。ならば、お母さんがそう勘違いしてもおかしくない。まあ、わからなくもない。勘違いしたままお母さんが去ってくれれば、私は無事にゲームを再開できる。
そう思うと私は安堵でため息をついた。
「…やっぱ、美海いるの?」
…まずった。
布団の中にいた私には逃げ場もなく、掛け布団をめくられ、学校に行くことになったのだ。
「ヴ~…どうして私が学校なんかに…」
お母さんに見つかった私はしぶしぶリュックを背負って登校中。道を行く人々が振り返っては私をみていく。もう、本当、なんなのだ。せっかく見つけた面白そうなゲームはお母さんに消されるし、私の好きな、暗いところでのパソコンもできないようにカーテンは取られるし…。
まあ、なんとか不幸中の幸いと言えるのは、お母さんがマスクをつけてくれたこと。今は冬だし、インフルにかかったとでもいえば皆何も気にしない…はずだ。まあ、私がそうしたところで私の思っている常識どおりにはならないんだってこと、知っているが。そうだ、あいつらがおかしいのだ。私をまるで天才美少女とか思っている、あいつらがおかしいのだ。
「よし!!」
私は勝手に意味のわからないことを納得し、気合を入れて登校した。…やっぱり、いろんな人に見られていくが。
「あ、美海ちゃんだ!」
「姫だ!」
「深海の眠り姫だ!」
と、私が教室に入った途端騒がしくなった。…まえから思っていたけど、その深海の眠り姫って何?意味わからないよ?あと微妙に長いし。
そして、みんな好き勝手騒いだ後、私の周りを取り囲んだ。
「ねえ、何でこんなに長く学校休んでいたの?」
と、全員訊いてくる。
「あ、はは…」
私が苦笑いでごまかそうとしていると、誰かが
「姫、マスクしてる。顔が見れないのは残念だけど、もしかしたら理由があるのかも…」
などと言い出した。
「本当だ!それに、なんか目の下にクマもできてるし…もしかして、疲れてる?大丈夫?」
…ああ、うん。本当に疲れるよ。君たちがね。
まあ、今は授業中だし、ずっとこうなっていても困るから、私は手を伏せてなだめるように振ってから、静かに言った。
「だ、大丈夫だよ?ちょっとインフルエンザかかってただけだから、特に心配いらないよ。心配してくれるなんて、みんな優しいね」
とたん、騒がしくなった。…まあ、こうなることはわかっていた。私がインフルと聞けば、そうなるだろう。ていうか、まず私は心配いてくれて…とか、心配させたく…などの勝手に決めつける言動がいやなのだ。よく「心配させたくないから…」とか言うやついるけど、誰が心配するか!?って言いたくなっちゃう。そういうふうにいい子ぶるとか他人の気持ちを勝手に決めつけるのとか、正直イラッとくる。そんな事を自分が言ってしまったから本当に吐き気がしたけど、私は頑張ってみんなを落ち着けた。
「さあ、皆席について?先生が困っているよ」
私は皆と一緒に席に着いた。心なしか、先生からの視線が少しあついかも知れないが、私は無視して支度を済ませた。
これは、私がまだ恋を知る前のつまらない人生。これから、深海の眠り姫は恋に目覚める。
―――恋する乙女、人魚のように。
こんにちは、桜騎です!今回、初めて引きこもりを書きました。引きこもりってどんなのかな?と思って考えても、やっぱり家ではゲームしかない!て思って…。今回の話はあまり面白くないかも?なので、本当にすみません。ちょっと無理にかんがえた話なので…。
これから美海は恋を知ることになります。恋する前の乙女の荒いバージョンでした。美海のひどい性格、許してあげてください。本当に!!まあ、書いているのは私なんですけどね。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。