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サ○でもできるっ!! 現代ダンジョン経営法

作者: らすく

『当選おめでとう"結城一馬"君。

 君は栄えあるダンジョンマスターの一員として抽選で選ばれました。

 今よりちょうど三ヶ月後、2xx2年1月1日に生み出されるダンジョンの一つ、狛江自然公園ダンジョンが授与されることとなりましたー。

 わー。ぱちぱちー』


 モニターの光だけが灯る、布団を引くだけが精一杯の部屋の中、一人の男性が布団の上でノートPC片手に固まっていた。


『反応が薄いなぁ?

 ま、いいや。ダンジョンマスターの名に負けぬよう、しっかりと育んでねっ♪』


 引きこもり歴早三年。

 家賃一万五千円の訳あり物件(敷地三畳、トイレ、風呂、水道、窓無し)に住む元大学生である彼は、先程まで無料のソーシャルゲームを立ち上げていたはずの、しかも準備万端の上、18歳未満のおこちゃまには見せられない画面へ突入した瞬間、画面がぱっと切り替わり、とてもチャラそ〜なお兄さんがタンバリン片手に冒頭のセリフを吐いたのだ。

 驚きで固まり、リアクション芸を何も取れなくなってしまうのは、世の諸兄達ならばため息を吐きながら首をすくめるぐらいに簡単に分かってくれるだろう。


『あっ、マニュアルはこのPCに入れといたんで、しっかり熟読の上、すぐに討伐された。なぁんて事のないようくれぐれも気をつけてねっ♪

 ついでにこの事は他人にチクっちゃBANしちゃうぞっ♪』

「えっ!? ちょっ!?」


 我に帰った男性がモニターに向かって手を伸ばすも、チャラい兄ちゃんはタンバリンをシャンシャン鳴らしながら画面からフェードアウトしてゆく。

 無駄にテクスチャマッピングを用いて半裸のエッチぃお姉ちゃんが出てくるあたり、芸の細かさが伺える。


「ダン……、ジョン?」


 どれだけ言葉を発していなかったのだろう。

 酷くかすれた言葉を発した男性は、ノロノロとPCに向って指を伸ばすと、一瞬だけティシュに視線を彷徨わせたあと、ゴクリとつばを飲んでモニターをタッチする。


「……!? これは……」


 そして画面に表示された新しいアイコンを見て、喜色の色を浮かべながら、震える指で『初めての現代ダンジョン経営法』と書かれたそのアイコンへタッピングを行うのだった。


 ——それから三日後、全世界を賑わせる、世界同時多発行方不明事件の中に彼の名前が載った。


 ————そしてそれから三ヶ月後


 2xx2年1月1日、日本で鳴らされた除夜の鐘の終わりと共に、世界規模での地震が発生した。


 震度は精々2から3と言ったところだろう。

 震度こそ小さいものの、世界全体が同時刻に震えた事で、ハムナプたんだとか、ノストラなんちゃーと一部の人間が騒ぎを起こしたが、それよりも世界の要人たちが悲鳴を上げた。

 なぜなら、世界各地に数十、いや、数百の異様な建造物が出現したからだった。


 ぱっと見た目は機械製の鳥居や突き立てられた十字架、前方後円墳やちっちゃいピラミッドのように見えた。

 しかも、妙にメカメカしいつぎはぎが多く、足元には直径一メートル程の幾何学的な模様が刻まれていたのだ。

 

 ある者は最終破壊兵器だの。ある者は神の建造物だの。ある者はダンジョンの入口なんて的を得た意見も確かに有ったが、世界は未曾有の混乱中。

 世界情勢はその建造物をアンタッチャブルと位置づけし、触れることはおろか近づくことさえ許さなかった。


 そんな中、東京都の一等地である新宿にほど近く、それでいて23ある区に選ばれなかったどころか、日本最小の市と一部の人間が呼ぶ、狛江市の一角にある自然公園の入口前で、一人の男性が呼び子をしていた。


「えー、ダンジョンー。ダンジョンですよー。

 石油、石炭、核燃料に成り代わる、最も自然に優しいクリーンでエコなエネルギー、"魔石"を唯一採掘することのできるダンジョンでーす」


 何を隠そう、冒頭に登場したエロ……げふんげふん。ソーシャルゲームをしていた男性、結城一馬その人であった。

 ボサボサの髪に猫背のジャージ姿。

 呼び子と言っても、その声の多きさは蚊の泣くようなもので、通りを歩く人たちに彼の声は届いていない。

 一体いつから呼び子をしていたのか知らないが、通り過ぎる全ての人から総スカンを食らい、既に声音に涙声まで混じっている。


「ぐずっ……、ひくっ……、おねがいしまーす。どうかダンジョンに入ってくだざーい。

 じゃないとっ、もうご飯すら作り出すDPダンジョンポイントがぁ……」


 いや、すでに泣いていた。

 しかも号泣である。

 住宅街のど真ん中、風体のみすぼらしい男が本気の号泣。

 通りを歩く奥様方は彼を指さしひそひそ話、子連れのお母様など「見ちゃいけません」と子供を隠し、通りすがりの女子高生は笑いながらスマホを向ける。

 そんな中、フードを目深に被った一人の少女が彼に近づき、彼を慰めるか施しでもするのか? と思うと……。


「しゅひぎむいはぁぁぁんっ!!」


 こぶしをグーにして彼のお腹を殴った。いわゆる腹パンである。

 彼は涙をキラキラ、お口からも何かをキラキラ光らせながら、綺麗な放物線を描いて公園の中に落ちる。

 一発で見事に逝ったのだろう。

 ピクリとも動かない彼のそばへ小走りで駆け寄った少女は、片手で彼の襟首を掴み上げると「失礼しましたー」と言って謎の遺跡に触れる、そしてその存在がシュンと消えた。


 噂をしていた奥様方はその光景を見て目の錯覚と断じ、子連れのお母様は「新手の芸人さんだったの?」と首を傾げるが、「おっさんの号泣、マジウケるー」とスマホで動画を撮影していた女子高生だけがそのすべてを撮影していた。


 そして女子高生が『空飛ぶおっさん』と題してアップしたこの動画、これが混乱する世界に一つの方向性をもたらした。


 後の世で呼ばれる"新開拓時代"だ。


 話は変わるがこの時代、各国首脳連中が頭を悩ませていた問題の一つに"資源枯渇"と言うものがあった。

 この動画、彼の蚊の泣くような声も拾っていたのか「石油、石炭、核燃料に成り代わる最も自然に優しいクリーンでエコなエネルギー」と言う一文もしっかり拾っていたようで、国際会議中にこういった面白動画をチェックするのが日課の時の首相の目に止まり、すぐさま議題の場へこの動画を取り上げたのだった。


 多数の疑問の声が上がる中、とにかく何でも試してみないと気がすまない某国が名乗りを上げ、死刑を兼ねて犯罪者を建造物へ触れさせた所、動画のように彼等はどこかへ消えていった。

 そして消えた後に何日か様子を見ると、何名かの犯罪者が見たことの無い武装を身に纏って戻って来た。

 その手には武装の他にもきらめく小石が握られており、彼等は口々に「これが魔石だ」と訴えた。


 こうして持ち帰られた魔石は研究機関にかけられ、その有用性が次々と明らかとなってゆく。

 火をつければゴオゴオとすごい勢いで燃え盛り、水に入れればガソリンの代わりに車を動かす燃料と早変わり。

 挙げ句の果ては濃縮ウランの代わりに原子炉へ入れてみたところ、その何倍もの効率で核融合以上の運動エネルギーを叩き出しすという始末。しかも、使ったあとには溶けて消えたように何も残らない。

 二酸化炭素や排気ガスなどは構造上の問題でやむを得ないが、少なくとも劣化ウランのように処理することの出来ない廃棄物が全く出なかったのだ。


 これに目をつけたのはすべての国々。


 我先にこの新エネルギーを獲得しようとしたが、建造物へ触って飛ばされた犯罪者達より、あの先は地獄だった。と言う言葉が告げられ再度二の足を踏んだ。


 詳しく話を聞くと、飛ばされた先は魔物たちが跋扈する悪夢の領域。

 大人二人が並べる程度の狭い路地を進み、次々と襲い掛かってくる敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げ。時には魔物を食って、時には魔物に食べられて。

 最初は弱い小動物から、階段を降りるごとに敵は強くなってゆく。

 仲間がどんどこどんどこ倒れてゆく中「帰りはこちら」と言う看板を見つけ、彼らは命からがら戻ってきたのだという。

 ちなみに彼らの武装もその敵が落としたものの一部であり、魔石も敵が稀に落としたものだったという。


 彼らのうち一人が言った。


「あれはニホンのゲームで見たゴブリンだった」と。


 そして別の物が


「あれはゲームの世界だった。

 敵を倒すと死体が消え、代わりに武器や防具、魔石などがころがったんだ」

「まるでゲームが現実に出現したんだ」

「オークに襲われたかった……、性的な意味で」


 と言うと世論は真っ二つに別れた。


 封印すべき。という声と、ダンジョン探索ヒャッホー。という声だ。


 無論、某国は後者をとり、我等が日本は某国へ右に習えをとった。


 数々の批判や難題を押しのけ、ダンジョン探索が一般に公開されるまで10日も掛からなかっただろう。


 日本も大多数がゲーム脳に侵されていたのだ。


 そして日本の若者たちに、リアルダンジョンという言葉は何よりもの刺激だった。


 仕事にあふれた若者は勿論、引きこもっていたはずのニートや、例の病気を煩わせた中学生。ついでに定年を迎えたおじさんおばさんたちが鍋の蓋や包丁片手にその時を今か今かと待ち望んだ。


 もちろん中での負傷や死亡に国は責任を負いません。という誓約書が必要だとしても、その熱は一向に冷めず。

 世界各地でダンジョン探索保険という商品を開発した保険会社の職員や、これまで防災グッズとしての需要が主だったお湯だけ調理食品や極薄軽量毛布などを販売する者、冷やかし、湯わかし、家族の見送りなどが集結し、年二回の某イベント並のカオスが世界各地で出現したとかしないとか。


 そんな中「必ずでっかい魔石を持って帰るからな。そうしたら結婚しよう」「……うれしわ、あなた。ずっと待ってる」だの、「子供が生まれるまでには必ず戻るからな」という死亡フラグをふりまく人がいるのもお約束である。


 それは狛江市自然公園に設置された建造物も同様で、一般公開されるのを今か今かと大多数の人間が固唾を呑んで見守っていた。


 そんな中、何処かで見たような人影が、涙を流しながらそんな彼らを拝んでいた。


「やったー。これで食料にありつけるー!!

 神様仏様探索者様ありがとーっ!! これでスライムに体液分けてもらわなくても良くなったー!! 夢にまで見た白飯が食える〜っ!!」


 そんな彼へ、またもやどこかで見たフードの少女がゲンコツを落とす。

 

「えーかげんにせんかいっ!!

 確かにスライムに哀まれながら体液分けてもらわんとあかんかったのは屈辱やったが、これからは命がけの戦いが待っとるんやで?

 もー少しウチのマスターらしくシャキッとせんかい、シャキッとぉー。

 だいたい、なんぼ何でも白飯はないやろ!? せめて○き家の並盛りくらいはいえへんのかっ!?」


 更に張り飛ばすほどのツッコミの割には少女の出したメニューもかなり庶民的、いや、控えめな注文ではあるのだが、贅沢の限界がその辺りになってしまうあたり、よほど苦しい食生活だったようである。


「いたいよナツメぇ……。それに俺、無害でも食べるとしびれて口の中の感覚がなくなるようなもんじゃなくて、ちゃんとしたもんなら……。

 そう、せめて賞味期限切れのコンビニパンとか廃棄弁当だったらもうそれだけで……」

「……だぁかぁらぁ〜っ! 志が低いっちゅうねんっ!!」


 少女の華麗なアッパーが決まり、放物線を描いて男が宙を舞う。


 この物語は、こんなIFな世界が現実となった日本におこる。

 愛と涙と笑いと憐れみとついでに笑いと笑いを届ける。この二人のダンジョン経営物語である。

ちなみに続きません

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白そうな設定なのに連載しないとは残念。人気でる系統の話だと思いますよ。
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