美しき華には毒がある
(アーノルド・ヒュノスレア視点)
彼女がこのギルドへやって来たのは、私が全ての仕事をやり終え、暇を持て余してる時だった。
ゆっくりと紅茶を啜っていれば、何やら表の方で困った様なリリスの声が聞こえたので、荒くれ共が何かやったのかと腰を上げてみれば、そこにいたのは真っ黒のローブを纏い、フードで顔を隠した人物。
ローブでは隠し切れていない小柄な体格や声で相手が少女だというのを知った。
ただその声が海の歌姫と呼ばれる魔物のセイレーンの如く美しいのには驚いたが。
「して…君はここへは初めてだね?何の用事で来たのかな?」
「えっと…」
私は目の前の人物に対して、警戒をしていた。
全身を黒いローブで覆っている事ももちろんその若さ。そして、一人身での手ぶらの旅。
ここは最北端スィードだ。
一人旅している者も確かにいるが、手ぶらでなんてそんな事は有り得ない。
街の住人でも何らかの荷物は持っている。
「それは尋問と受け取ってよろしいでしょうか」
「ははは。面白い冗談じゃないか。書類には16歳と書いてある。君のような若い少女がここまで1人で来るなんて正気の沙汰とは思えない」
「そういう事ですか」
頭の良い子だ。
私の警戒を感じ取り、瞬時にその意味を理解する。
目に魔力を込めれば、少女が膨大な魔力を押し隠している事が分かった。
(これは早急に対策が必要だな)
「実は、転移魔法で飛んできました。私は転移魔法が得意なんで、家と色んな土地と往復ができますし、いざ敵と遭遇しても逃げ切れる自信があります」
少女は事も無げに言うが、それを行うには膨大な魔力と繊細な魔力コントロール、そして土地勘が必要である。
無属性の一種である転移魔法はとても便利な魔法である反面、不便でもある。
それは発動に魔力を大量に使う上に取得者がいないから。
転移場所だってその地を知っていなければ正確に転移しない。
ある意味、危険とも言える魔法だった。
それをこんなに幼い少女が何回も使用できるとは…神はどんな気まぐれを落としたのだろうか。
自身の魔力量を、少女はアッサリと話した。
もしも彼女のご両親が人間なら、彼女ほどの魔力を考えるなら世間で有名になっていても可笑しくはない。
しかし、現在噂されている人物は男で、しかもご高齢だ。
かといって帝と呼ばれる人物達も、誰が子がいると聞いたことがない。
つまり、この少女は人間以外の種族と考えるのが普通だろう。
ふとここまで考えて、少女がいつまで経ってもフードを被っていることに気がついた。
私は少女の顔が見たいという興味心から、フードを取らないのかと聞いた。
しかし、私はこの後、興味を持った事を酷く後悔したのだった。