いざゆかん。ギルドへ!
「お、大きい…っ」
あえて言う。
別に深い意味はない。
断じてない。
腐女子とかそういうの抜きで、ギルドと呼ばれる建物が大き過ぎるのだ。
だって、テンプレな酒場的なやつかと思ったら、お城だよ?ギルドでお城なら、王城は何なのか。想像するのも怖いわ。
「いらっしゃいませ。本日はどの様なご要件ですか?」
「あっ、ギルド登録したいんですけど、大丈夫ですか?」
「はい。勿論ですよ。こちらにお名前と年齢。そして職業を書いて下さい。書けましたら、お声かけくださいませ」
「分かりました」
中はやはり豪華だ。
いや、私の感性がおかしいのか?
荒くれ共がいるのかと思いきや、それっぽいような人物はいても、比較的大人しい。
金髪碧眼の超美人な受付嬢さんに貰った紙に、言われた通りの事を記入しようと、初っ端からペンが止まった。
(しまった!名前ってどうすればいいの?!)
「いかがされましたか?」
「あっ!いやっ、何でもないですっ」
「そうですか。もし文字に不自由なのでしたら、代筆も出来ますので、気軽にお申し付けくださいね」
「あ、ありがとうございます」
ふわりと、花が綻ぶような綺麗な微笑み。
今は全身を覆う真っ黒のローブを被っていて不審者全開なのに、こんな自分に笑いかけてくれる女神がおられた。
思わずジーンときて、目頭を抑える。
(っと、こんな事をしている場合じゃない。名前マジどうしよう)
零は、好きに遊んで来ていいと言っていた。
だが、前世の名前じゃ明らかに目立ち過ぎるだろう。
てことは…種族名…かな?
「ローゼリュフェリア…にしよう」
零がくれた名前だ。
これを私の新しい名前にして、大切にしよう。
年齢は16歳っと。
職業は…職業?学生…はおかしい。
はっ!てことは、私今無職!?!?
なんて事!!!
シクシクと内心泣きながら、恥を忍んで職業記入欄に、『無職』と記入する。
すっっっごい恥ずかしい。
「書きました!」
「はい。ありがとうございます。えーと、ローゼリュフェリアさんですね。綺麗な名前です。それではこちらに手を置いていただいてよろしいですか?こちらは魔力検査をする為の水晶です。こちらで、魔力量をお調べ致します」
「はい」
きたきた!
これってアレだよね?
テンプレきたぁ!
ワクワクとしながら半透明の水晶の上に軽く手を乗せると…。
ーー何も起きなかった。
えっ…!?
「えっと…おかしいですね?故障でしょうか?」
「は、あ…」
呆然とする私と受付嬢さん。
えっ?チートどこいった!?
2人でワタワタとしていると、奥の方から身長の高い男の人が出てきた。
髪の毛は燃えるような赤い髪で、瞳は海みたいに真っ青な色だ。目鼻立ちはすっごい整ってる。ワイルドな感じの大人の色気溢れる人だ。歳は…30代前半くらい?
「リリア。どうした?」
「あっ!ギルドマスター!それが、水晶が何も反応しなくて困っていたんです」
「ふむ。そこの君。こちらへいらっしゃい」
「は、はいっ」
なるほど、この人がギルドマスターなのか。
そして、受付嬢さんはリリアさんっと。
私は頭の中にメモしとく。
「さぁ、座ってくれたまえ」
「あ、ありがとうございます…」
奥の部屋に通された私は、ギルドマスターさんを目の前に机を挟んだ場所にある1人掛け用のソファに座った。
ふ、ふわっふわっだ!
「して…君はここへは初めてだね?何の用事で来たのかな?」
「えっと…」
随分と警戒してるなこの人。
瞬時に思った。
零に言われた通り、この世界の誰よりも強くなっているのかは分からない。
けれど、いわば龍の本能とも言われる部分が刺激される。
「それは尋問と受け取ってよろしいでしょうか」
「ははは。面白い冗談じゃないか。書類には16歳と書いてある。君のような若い少女がここまで1人で来るなんて正気の沙汰とは思えない」
「そういう事ですか」
そういえば、零からもらった書類。
それは具現化された『知識』だったが、転生後にも言われた通り、今いる場所は最北端スィード。辺境と呼ばれるこの地は隣国との境界線でもあり、隣国を挟む途中には森がある。
辺境で、しかも森があるという事はそれだけ獣や魔物も出やすいのに、たった1人で旅をしていて、荷物も無いとなれば怪しいのは当たり前だろう。
「実は、転移魔法で飛んできました。私は転移魔法が得意なんで、家と色んな土地と往復ができますし、いざ敵と遭遇しても逃げ切れる自信があります」
転移魔法というものが、この世界に存在する。
話だけなら凄い簡単そうに聞こえるけど、実際は、魔力の消費が多い故に、取得者が少ない為、連発する人はまず居ない。
けれど、ここでこの嘘を信じて貰えなければ、私は本当に危ない。
いかに強いと言えども罪の無い人を傷付けたくはないし、その覚悟も無いのだから。
「ーーーなるほど。転移魔法か。16歳で転移魔法を使いこなし、連発をするとは恐れ入った」
「両親が2人とも魔力量の多い人だったんです。そのお陰で転移魔法を連発できるんですよ」
にこやかに嘘を吐く。
罪悪感がなくはないが、自分の為だ。
致しがたない。
「ところで、いつまでそのフードを被っているのだね?」
「えぇと、失礼しました」
パサりとフードを取る。
フワッと乳白色の髪が舞い、顔の縁を擽った。
「ーーーッ!」
「あはは」
目を大きく見開いて絶句するギルドマスター。
そりゃそうだろう。
自分で言うのもあれだが、私は絶世の美少女なのだ。
「あのー、ギルドマスターさん?」
「ッッ…も、申し訳ない!」
「あ、いや、別に謝られることはされてないですよ?」
「そ、そうだな。して、君は…何者だ?」
「えーと…」
本日2度目の言葉に詰まりました。
さすがにバカ正直に『世界で1体しかいない龍です』なんて言えない。
乳白色の髪やこの美貌は見たことがないだろうけど、それと似たような種族ならいる。
エルフだ。
やはりどこの世界でもエルフはとてつもない美貌を持つとされている。
耳は尖っていないけど、異種族とエルフの間に生まれた子供。ハーフエルフなら耳はどちらかの親に似れば、尖っているのと尖っていないので半々となる。
「これ、絶対に秘密にして下さいね?」
「あぁ。ギルドマスターの権限に誓って、この事は私の胸の中だけに留めよう」
「実は…ハーフエルフなんです」
ここで少し俯いてみせる。
長い髪が程よく顔を隠してくれるはずだ。
ハーフエルフみたいな異種族同士の間から生まれた混血種というのは、純血や血統を気にするこの世界では忌むべき存在らしい。
それ故に殺されてしまう者も数多くいるのだそうだ。
(ひぃ…絶対、零がくれた知識がなかったら私、即死だったよぉう)
内心、いつ嘘がバレてしまうかヒヤヒヤするが、何とか切り抜けれたようだ。
「ハーフエルフ。殊更、純血を尊ぶエルフにしては珍しい。君はもしやエルフと吸血鬼の混血種かね?」
「えっ、そ、そうです。はい」
「なるほど。それならばその美しさも納得いく。吸血鬼もまた美しい者達が多く、魔力量も多いからな」
「はい~…」
ギルドマスターさんが言っていた吸血鬼というのも、やはりエルフ同様、酷く純血に拘る種族なのだと知識にある。
やっばい。
ほんと罪悪感はんぱない。
1人で納得しちゃったギルドマスターさんには悪いけど、私も必死なんだ。
「あ、あのっ。所で、ギルドマスターさんのお名前は何ていうのですか?」
「あぁ、申し遅れたな。私の名は、アーノルド・ヒュノスレア。アーノルドと呼ぶといい。ようこそ、最北端の領地スィードへ」
今までの冷静な話し方とは反対に、ニヤリと獰猛に笑うアーノルドさん。
そのファミリーネームには聞き覚えがあって、私は顔を引き攣らせるしか無いのだった。
(私、やっていけっかなぁ??)
ーー旅はまだ、始まったばかり。