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好きが増える

作者: 安浦

優雅が好きだと言ってくれたのは、部活帰りの6時半頃だった。


「俺と付き合ってください」


優雅のストレートな告白に私はただコクリと頷いた。


「…うん。いいよ…」


だって断る理由はなかったから。


けれど正直、大好きから始まる付き合いじゃなかった。





「唐木、一緒に帰らない?」


部活が終わって、友達何人かで部室を出たら、そこに優雅が待っていた。


「あ、えーと…」


私は気まずそうに友達を見ると、友達も気まずそうに言った。


「私たち先帰るから、未央は南くんと帰りなよ」


「あ。うん。わかった…ごめん」


南優雅と付き合い始めて一週間。

付き合っても友達のが優先の私だった。


だけど、優雅は…?


「友達と帰るのに、何か邪魔してごめん」


「いや…大丈夫…」


寒くて、マフラーで口元を隠しながら私は少し俯いて話す。


「ならよかった…」

「うん…」

「………」


会話も盛り上がるわけでもない。


しばらく無言で歩いていると、優雅が一旦足を止めて言った。


「火曜日と木曜日は一緒に帰るのとか、どう?」


優雅は私に気を遣っているのか、突然そんなことを言い出した。


「あ!唐木が無理なら本当言ってくれていいんだけど…」


少しだけ申し訳なさそうに言った。


「全然大丈夫!火曜日、木曜日全然大丈夫!」


そんな優雅に初めてドキッとした。





それからあたりまえのように週二回は一緒に帰るようになった。


「今日数学あたったのに聞いてなかったから焦った…」

「答えられたの?」


会話は前より上手になって。


「友達に聞いた!」


前より一緒に笑えるようになって。


「…寒いね」


風が冷たくて、私はマフラーで口元を覆う。


「…うん。寒いね…」


自然と手を繋ぐ。


前より優雅にドキドキしている。





付き合いも慣れたそんなある日の水曜日のことだった。


「未央ごめん!今日一緒に帰れない!」


部活終わりに、突然友達にそんなことを言われた。


「今日用事あってさ、急いで帰らなきゃだからもう行くね!」「あ、うん…バイバイ」


急遽1人で帰ることになってしまった。


そのまま帰宅しようと思ったけれど、ふと優雅が浮かんだ。


「優雅に会いたいな‥」


だけど約束したわけでもないのに待っていたら迷惑だろうか。


そんなことを考えたけれど、私は優雅を待とうと、自然と優雅の部室の前まで足を運んでいた。


「寒っ」


私は寒くて、ポケットに手を入れて待っていた。


こんな日に限って私はマフラーを忘れてきていたのだ。


「優雅遅いなぁ」


約束していないからか、部室から何となく声は聞こえるのになかなか出て来ない。


「あー寒いよー」


しばらくすると、部室から何人か出てきたのだ。


「あ、優雅?」


その中の1人が私に気付き、優雅を呼んだ。


「優雅の彼女来てるよ」


その言葉に慌てて、優雅は部室から出てきた。


「え?!か、唐木?何で?あ、今日火曜日…違う!木曜日か…え?!」


私がいることに、優雅は明らかに動揺していて、曜日感覚を失っていた。


「あ、ごめん。今日水曜日なんだけど…」


「あ。そっか。そうだよね…」


しばらく私たちは無言になってしまった。


やっぱり、今日来たことは迷惑だっただろうか?


「優雅、俺たち先帰るよ」


優雅の友達はそう言って帰ってしまった。


私は、初めて優雅が帰りを待ってていてくれた日のことを思い出していた。


あの時も、こんな気持ちで待っていたのかと。


「俺たちも帰ろうか?」

「うん…」


いつもよりゆっくりと歩く帰り道。


「優雅ごめんね?約束してないのに待ってて」

「え!全然大丈夫だから!ちょっとびっくりはしたけど…」


待っていたせいか、体は冷え切っていた。


「てか、唐木マフラーは?!いつもしてるよね?」

「今日マフラー忘れちゃって」


ポケットに手を入れながら、下を向いて歩いていると、優雅の影が少しずつ近付いてきて私と重なったのがわかった。


「…優雅?」


私はゆっくりと顔を上げた。


すると優雅は優しく笑って、私に優雅のマフラーをかけてくれた。


「え!優雅寒いじゃん!いいよ!」


私の言葉はお構いなしに、優雅はマフラーをぐるぐる巻いてくれる。


「…優雅?」


優雅は私の頬に触った。


「冷たい」


その時の私はただ優雅に身を委ねるまま。


優雅は私にキスをした。


初めてのキスは少し冷たくて。


私は優雅をじっと見た。


「…嫌じゃ…なかった?」


私は優雅からの頼りない言葉に大きく首を横に振った。


「優雅…もう一回…」


自分からでた言葉に自分も信じられなかった。


優雅はまた私に優しくキスをしてくれた。


唇が離れた途端、急に恥ずかしさが込み上げてきて、私はマフラーで顔を隠した。


「え?!唐木?!な、何で…?!」


優雅は慌てていたけれど、私はもう。


「恥ずかしくて…ヤバい…」


震える手でマフラーを少しだけずらして優雅を見た。


すると、優雅はその手をがっしりと握った。


「あーもう!帰ろうか!」


優しく繋ぎ直す手。


「何か暑くない?」


あんなに寒かったはずが、急に暑がる優雅にまたドキドキが増える。


「明日も一緒に帰れるね」


そう言って、いつもより近い距離に優雅がいるような気がして、どんどん積もるドキドキに、私は苦しくて嬉しくて仕方がなかった。

最後まで読んでいただきありがとうございました!また宜しくお願いしますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] いいですねえ 若き日の恋愛の ワンシーン テンポもあり 面白かったです これに多少の不幸要素を 盛り込めて 最後にハーピーとすれば より感動も大きいかと 思いますが お話が長くなっち…
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