神の祝福を受けた魔王候補の世直旅行
世は情けなどというがそんなもの死後の世界にも無かった……
波乱万丈な人生と言えば聞こえは良いが運の悪さは折り紙つきで7回もの交通事故に20年の人生で会う程だ、それでも悉く生きているのだから七転八倒ではなく七転八起で済んでいると考えればもしかすればと思っていた。そんな時期もありました、でも世の中そんな甘い筈もなく人間不信に陥ったりしながら生きてきたある日突然の心不全によって死亡という一生を終えてしまった。
最後は病死か……などと或る意味達観したような心境で死を受け入れたのにも関わらず、どうやら魂やらあの世と云う物が実在していたらしい、俺はあっさりと事実を受け入れて死者の国へと連れられて行った。
「最初に……申し訳ないと謝らせて欲しい」
突然謝ってくれたのは世に言う神様という存在だそうで、人間味の溢れる人柄、いや神様だから神柄だった。
「実は君が死ぬ予定は間違いではなかったんだが」
そこは死ぬ予定だったのかと諦めもついていたので問題無いのだが何を謝るというのだろうか……。
「その、実は本当は君は死亡と同時に其の存在が勇者として生まれ変わる予定だった。所がちょっと下の者の教育が悪かったが原因で……その非常に情けない話、イケメンな死者にその……」
「まさか、イケメンだったから間違えて勇者として送ったとか?」
「いや、イケメンにナンパされた挙句向こうの世界の聖女の意識を乗っ取って本来魔王候補だった魂と共に異世界に……ハァァァァ――――」
「そ、それは何と言っていいか解りませんがご愁傷様でした?」
大変でしたね、ナンパの挙句の逃避行……なんていうかテンプレフラグ折まくりだよな、でもまあそれで勇者なんて役柄に回されずに済んだんだから俺もまあいいやとは思おう。だって怖いじゃない。
「それで、その君には悪いんだけど……魂の相性というか色々あってねぇ、魔王に為って来て?」
「拒否権を……」
「申し訳ない!」
「嫌ですよ! 何が悲しくて勇者(イケメン性悪)と聖女に倒される役割を引き受けないといけないんですか!」
「いや本当に、申し訳ないんだが許して欲しい、と言う訳で、サービスしておくから」
「サービスいらないから! 神様なんだったらどうにかして」
「わしも所詮はこの世界担当のしがない管理職じゃからして」
「そんな暴露情報いらんわー!」
ユサユサと揺さぶられる感覚と共に気遣うような女性の声が聞こえてくる……
「デビッ……デビット様、大丈夫ですか、魘されておりましたが」
「……リリスか、少し嫌な夢を見ていただけだ」
デービット・ア・ルギウス・フォルメリア、それが生まれ変わった俺の名前だ……くそ、嫌な夢を見てしまった。だが今ではこの国に生まれた事を喜んでいるし、悪いことだけでは無かったなと純粋に思っている。
国民は頭に角が生えていたり、俺のように額に魔玉が埋まっていたり、中には腕が6本だったり、目が4つや8つなどと云った外見的な特徴を除けば物凄くいい奴等ばかりだからだ。
しかもだ、俺の親父は現魔王として善政を敷き国民からの信頼も厚いだけでなく、デェルフ王国やセリアン王国だけでなくエルフ国とも友好な関係を築き上げた名君だ。残念なのは人間の国とは相容れない関係で未だに国交は築けないと嘆いていたが……無理だろうなと俺は思っている。何せ親父が彼の勇者を返り討ちにしたのだから……
親父曰く「なんだか小うるさい奴でな、突然居城に現れて『俺って最強で正義じゃん? だから悪は滅びて当然OK』と言いながら切襲って来た、普通なら勇者に効かない筈の我の暗黒魔法一撃で消し炭になったからには贋者だろう」との事、いえ親父殿そいつはまさしく本物だと思うんですよ。
怒り狂った聖女がなにやら現在も軍を進めたりしてきてるぐらいだから間違いは無いだろう。
まさに――
――――ざまあ!
である。
まああの胸糞悪い話で俺が戦って倒さなくてはと思って地獄のような特訓の幼少期を送った事が無駄になったが、悪い経験ではなかった筈。どうやらこの国の安泰はそうそう終わらないようだしな、ちょっと世界を見物しにいこうかと思うんだ。ちょっと頼まれた事もあるし……
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
本当はぶらり一人赴いて魔獣やら盗賊退治でもしながらの気ままな所謂一人旅ってのを体験したかったのだが、親父は豪快に許してくれたがお后であり母でもあるイシュアの反対とそば仕え兼護衛のリリスの反対によって却下され妥協案としてリリスの同行を認める事になってしまった。ちなみにリリスは人間不信だった俺をまともにしてくれた一人でもあり恋人でもある。うむ転生してまさかのリア充になれるって最高だ。
一人旅をしてさらに恋の旅ができたらななんて事を思ったことなんて事無い。なにせリリスのステータスに【デービットの最愛の人】と出ているのである。魔王の息子ともなれば側室何人もってもOKだぞと云われても前世でモテた覚えなど無いこの俺に幾らハイスペックな肉体が齎されてもね自信が簡単に沸く訳が無いじゃないか。因みにステータスを調べる能力なんかは神様の恩恵の一つだ。
ステータスを見る能力の恩恵によって調べられないモノが無いというのは非常にありがたい。なにせパッシブ発動のこの能力は視界の端に常時でてくる、もしも敵意がある対象などの場合も即座に敵と判断ができる優れモノだ。実はコレによって親父の暗殺を阻止できたのは俺の人生において最大の恩恵を齎したと云える。
さて、今日も村を苦しめているという魔獣の退治へと向かうとするか。何せ努力したモノが必ず身に付く【血と汗の結晶】という天稟称号によって剣だけでなく魔法においても並ぶもの無しと言われる魔族の貴公子である。その俺とタメで戦えるリリスと二人でなら一群を相手にしても戦えるだろう。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「と云うわけでここまできてやったんだが……」
「信者デハナイナ」
「この方少々……話し方が怪しいですよデービット様」
「あーうんそうだな、さっさと用件を済まそうか、おい聖女これが元上司からのプレゼントだそうだ受け取れ」
「ナニ、キサマ!?」
――――――問答無用!――――――
「ナンデテンシタル私ガ消滅!?」
両の掌から迸るのは聖なる浄化と消滅の光、魔族が聖なる浄化ってなんだと思うだろうがこれも俺の能力なんだから仕方ないじゃないか、天稟称号にも【神の祝福】とか付いてるし魔族っていわれてても邪悪な種族じゃないからな、この【神魔覆滅】は転生前から神様に頼まれてたんだから使わないとな。
「済まんがな、流石に今回の出来事は見逃せんのじゃ、色々サービスするからテンシの処分をお願いできるかの」と言われてたからな……それにこのまま聖女を放置していたら何年経とうが人間と多種族の友好関係が結べないからな。
最後の叫びを残すこともできないままに消え去ったテンシ。まあ魂の消滅なんだろうな覆滅って程なんだから、身から出た錆だ成仏もできないだろうがご愁傷様だ。
「さて、リリス用事も終わったしもうしばらく婚前旅行と洒落込もう」
「ではぐるっと大陸を世直しする度に出かけましょうか」
まあこの場所に来るまで見破られる事の無かった偽装魔法でそのまま人間界の掃除をするのも良いだろう。
なにせ称号には【世直の旅人】って付いてるからな。
短編としてアイデアを投稿してみました、他にも思いついたら投稿しています。短編ですのでこの短編を書き足す事はありませんがアイデアを捻って長編化する可能性はあります。