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いつか勇者となる君は  作者: Norinα
第一章 娼館暮らしの冒険者
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第16話 女性公爵、娼館を体験する

 物理的に胃が捩じ切られるかと思いきや、僕とカノンさん、ベアとメリルちゃんの4人になったところで、メリルちゃんから溜息混じりに救いの手が差し伸べられる。


「貴方がノリさんからお話を聞いたカノンさんですわね。命を救われたという」


 睨んできていたベアの視線が、急に和らぐ。


「ほぅ、不謹慎ではあるが、おかげで『呪いの薔薇』から回復する者が多くなっている。カノンとノリの出会い、神に感謝しよう。奴隷と言うのはやり過ぎだと思うがな」


 最後にキッと僕を睨むベア。


 か、可愛い顔が台無しですよ?


 しかし、カノンさんもカノンさんである。


「私としましては、もっと娼館らしい命令をしていただきたいのですが、ご想像のような命令は何一つとして受けたことがございません。どうも私はノリ様の好みではないようですので」


 おぉっとカノンさん。


 ベア様の鋭い視線はラーニングしなくても良いのですよ?


 いつものおっとりスマイル、にこやかスマイルを下さいな。


 メリルちゃんが驚いた顔をし、困惑気味のベアに耳打ちする。


 なんでちょっとニヤッとした後で、溜息を吐くんですかね?


「あの、部屋に着きましたが……視察されるんですよね?」


 僕は空気を変えるため、本来の路線に話を戻す。


「うむ、そうだな。せっかく来たのだから視察せねばな」

「はい、お姉様。ちょっとドキドキしますわ」


 もしやこの仲良し姉妹、遊びに来たのでは?


 ウキウキしているのが顔に出ておりますよ?


 そして個室部屋の中を見た時、2人は驚愕の顔を見せた後で、僕を笑顔で睨んできた。


 だから、なんで?


「カノン・モードレイズよ。設備について説明せよ」


 僕の困惑顔を無視し、ベアはカノンさんに説明を要求する。


「畏まりました。まず、土足厳禁です。申し訳ありませんが、入口のマットの上で靴をお脱ぎください」

「この布の上で脱ぐのか。ふむ、続けてくれ」


 ベアとメリルちゃんはブーツを脱ぎ、フロアに入る。


「こちらがベッド、そしてこのタイル張りになっている先が洗体場……風呂とシャワーになっております。質は変わりますが、全ての部屋に備え付けられております」


 ベアとメリルちゃんが、ベッドやシーツの感触、タイルから風呂釜の中まで徹底的にチェックする。


 その間に、サービスについても説明する。


「サービスの手順ですが、まずは説明とカウンセリングを行います。説明は今私が行っているような事項を伝えます。カウンセリングはどういうサービスを行えば良いか、お客様の希望を聞きます。可能なこと、不可能なこと、それを擦り合わせます」


 ベアとメリルちゃんはベッドに腰掛け、カノンさんの話を食い入るように聞いている。


「そして互いに服を脱ぎ、洗体を行います。温湯の魔導具を使用しているので、温かいお湯で体を洗います」

「待て、誰が洗体を行う?」


 良い質問ですね、ベアさん。


「当然、私共が行います。ご希望があれば自分で洗うことも可能ですが、今のところ、そのようなお客様はおられないようです」


 ベアはコクコクと頷く。


 耳が赤いぞ。可愛いぞ。


 メリルさん、白い目でこちらを見ないでくださいな。


「洗体を行う際には、消毒も行います。ノリ様考案のヨード剤うがい薬です。粘膜の洗浄もコレで行います。こちらは原液になりますので、薄めて使います」


 ベアとメリルちゃんが真面目な顔になった。


「それが噂の『呪い予防液』か。ノリ、説明を」


 やっと僕の出番か。


「最初に言っておきますが、『呪い』全てに効果はありません。あくまで、娼館が原因で広まる『呪い』のほぼ全てに効果がある、というだけです。一時的に呪いの原因となる菌やウィルスを撃退します。サービス中であれば、適切な消毒を行う限り、他人に『呪い』が伝播することはありません。客からお嬢にも、お嬢から客にも、です」


「なるほどな。それでお嬢も客も、呪いと無縁で居られる訳か」


 僕は、その通りと頷く。


 あとはカノンさんに任せよう。


「更には、このゴム製衛生器具を装着することで、粘膜同士の接触を限りなく減らし、擦過傷等による傷や血の接触を回避します。これにより『呪い』はほぼ確実に防げます」


 そう言って、モザイク必須の張り型にゴムを被せて実演するカノンさん。


 ベアもメリルちゃんも、何か言いたげだが、耳を真っ赤にしながらも話を聞いている。


 知識としてはあるんだろうな。


 そしてカノンさんは、そんな2人を見て楽しそうである。


「もしお二人がよろしければですが、体験されます?」


 この発言には、ベアとメリルちゃんだけではなく、僕も吹き出した。


「もちろん体験内容は洗体のみです。感覚としてはマッサージと同じです。専用のマットとローションの洗体は、ココだけの内容ですよ。ノリ様の作られる香料も男女問わず人気ですから」


 男とは客であり、女とはお嬢であることを付け加えておく。


 まぁ、わざわざこんなところで風呂に入らんでも、宮殿みたいなお城にもっと良い風呂あるでしょ?


「そうだな。普段、女中と風呂を共にすることと何も変わらんからな。是非お願いしよう」

「あらまぁ。私も楽しみですわ」


 マジカヨ。


 ベアもメリルちゃんも僕を見る。


 いや、ちゃんと出ていくけれども。


「せっかくならクイーンルームでどうですか? そこなら2人一緒でも行けるでしょう」


 僕の提案はあっさり飲まれ、ベアとメリルちゃんによる指名が入る。


 メリルちゃんはセピアージュ。


 ベアは……カノンさんっすか?


 カノンさんもやる気である。


 僕は4人を見送った。


 腰痛のオババにヒールとリカバリーを掛けながら、質問攻めに遭う。


「さすがさね、ノリ」

「いや、カノンさんがやってくれました」

「度胸有りすぎにゃ! って、カノンは洗体やったことあるにゃ!?」

「スズと一緒にウチの風呂で、よく練習してるよ?」

「なぜノリは、そのことを知っているのかなー?」

「練習の成果を僕で試そうとしてくるから」

「にへへ。それで? 成果はどんな」

「ご想像にお任せしますぅ!」

「つまんねー奴!」


 等などである。


 それなりの時間が経過し、ツヤッツヤのベアとメリルちゃんが降りてきた。


 可愛さと綺麗さ……そして輝きが3割増しとなっている。


 思わず感嘆し、拍手してしまった。


 何が起きたのですかね?


「以上を以て、視察を終了する!」


 ベアが大声で叫びながら、正面の扉を開け放つ。


「中々に良い風呂だった! 我もメリルも満足いく内容だ! 礼を言う! 騎士団諸君もしっかりと此処で日々の疲れを落とし、英気を養うが良い! 私やメリルもたまに利用するとしよう!」


 いや、風呂屋じゃなくて娼館なんですが……。


 外のギャラリー達も困惑している。


 メリルちゃんが僕の側にやってきて、軽く話す。


「ノリさん、ありがとうございますですわ。おかげでカノンさんやセピアージュさんと仲良くなれましたわ」

「それは良かったですね」


 仲良く(意味深)かな?


「あら、ノリさんもそーゆーやらしいこと、考えますのね」

「健全な男子ですので、多少は勘弁してください」

「……なるほど、これでは先が思い遣られますわね」

「何の話です?」

「いえ、こちらの話です。しかし、とても面白いお話も聞けましたわ」


 メリルちゃんの目が据わる……。


 今度は何だ?


 僕は何をやらかした?


「他にも仲良しな女性がいるとか。近々、西の冒険者ギルドにもお邪魔させていただきますわ」


 ぬああ!


 推しが!


 推しVS推し!?


 いや、推し×推しの合わせだ!


 是非お待ちして……いや、日程分かったら教えてくださいぃ!


 その日、仕事にならないと思いますからぁ!


「……検討しますわ。やれやれです、ふふっ」


 なんでドン引きするんですか!


 しかも呆れちゃって!


 僕でも傷付きますよ!?


「いえ、ノリさんはこういう方なのだと、改めて知っただけですわ。今日は楽しかったです。またお会いしましょう」


 そう言って、手を振り、去ってゆく。


 ベアはこちらをチラッと見て馬車に乗った。


 そうして、娼館アーニィ・マリィルートは、公爵閣下御用達となり、さらに繁盛することとなった。


 女性客も爆増したので、オイルマッサージのサービスも開始してやりましたわ。


 女性客からの一番人気は、イケメンお嬢のルークになりましたとさ。

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