話題の男女
北の国、辺境都市の南通りにある洋菓子専門店。その店の洋菓子は富裕層から一般層までのお客様を虜にする味とそれに相応しいお値段。喫茶店も兼業していることがうりだ。
お客のほとんどが女性客だが、恋人や想い人への贈り物のため、もしくは自分用にと男性客が来店。また、男性客が女性客と共にデート場として喫茶店を利用などもよくある。
だが、辺境都市で話題となっている二人組の男女の来店に、店にいた女性客、洋菓子専門店の店員達も注目した。
そんな女性客と店員の視線を気にすることなく、二人組の男女、綾音と宗助はショートケースに並ぶ、色とりどりの美しく、美味しそうなケーキを選んでいた。
「新作フルーツタルトと、どれにしましょう?」
「なら、定番人気のチョコケーキはどうだ?他にも気になるのがあるなら好きなだけ頼めばいい」
「まぁ、そんなに食べられませんよ。宗助さん」
こんな優しい声は初めてきいた。カウンターで接客業務をしている女性店員は、目の前にいる男、宗助がいつもの常連客なのかと疑った。
竜人族のハンター、宗助は六日に一度の割合で洋菓子専門店に来店する常連客。女性客が多い店を気にすることなく、店のケーキを二、三個ほど食べて、日持ちのする菓子などを持ち帰りで購入。売り上げに貢献してくれる上客だ。
店での宗助は淡々と選んだケーキを、あまり表情に変化は見えないがどことなく満足気に食べて、購入した菓子を持ち帰る。そんな男性客、容姿の整った竜人族のハンターに興味や視線を送る女性客はいたが、どことなく近寄りがたい雰囲気の宗助に、話かける女性はいなかった。
「では、おすすめのチョコケーキにします。宗助さんは?」
「俺はチーズケーキとジャムタルトを三つ。飲み物は珈琲で」
「私も珈琲で、ミルクと砂糖もお願いします」
「かしこまりました」
綾音と宗助の注文を、女性店員は完璧な営業スマイルで承る。
喫茶店は先払いシステム。代金を全額支払おうとする宗助を綾音は止める。
「私がお誘いしたので、ここは私に支払わせてください」
「いや、年下の女の子に支払わせる訳にはいかない。ここは俺が」
「では、宗助さんは次の時にお願いします」
財布から代金を取り出そうとしていた宗助の手が止まる。
「次って…また俺と、デートしてくれるのか?」
ソワソワと落ち着かず、だけどはっきりと言葉にして、宗助は問う。今後を期待する宗助に、綾音はにっこりと微笑。
「それは宗助さん次第ですかね」
そう言って、宗助が悩んでいる間に綾音は支払いを終える。
「………お持ちしますので、お先にお好きな席へどうぞ」
目の前で行われたやり取りを見なかったことにして、会計をした女性店員は注文されたケーキの用意をする。
「お願いします。行きましょうか、宗助さん」
「あ、ああ」
恥ずかしさと期待に、にやける宗助は素直に、綾音の後をついて行く。
こっそりとその二人の様子を窺う女性店員は、宗助のことを無口で無表情、甘い物好き常連客だと思っていた。なので、常連客である竜人族のハンター、宗助がフォーチュナ劇場、エメラルドの宝石姫にプロポーズをした噂を聞いた時は、人違いではないかと疑っていた。
(………恋は人を変えると言うし)
お客様の恋愛事情に店員が口をだすのはお門違い。なので、用意ができた注文の品物、ケーキを乗せたトレイを運ぼうとしている同僚の手を女性店員は叩く。
叩かれた同僚に文句をいわれようが、野次馬根性丸出しの同僚に、任せる訳にはいかなかった。
宗助と綾音は、日当たりのよい窓側の席に座っていた。こっそりとチラチラと伺う女性客の視線を、二人は気にもとめていない。
テーブルに運ばれてきたケーキに、目を輝かせる綾音は可愛いく、宗助の頬はだらしなく緩む。
「ではごゆっくり」
ケーキを運んできた女性店員は、頭を下げて立ち去る。
「では、いただきます」
手を合わせて、食への感謝を告げた綾音はフォークを手に取る。
余談だが、礼儀正しい綾音の行動に宗助は好感、ますます惚れ込む。
「おいしい!」
「そうか、それはよかった」
新作のフルーツタルトを一口食べた綾音は、笑顔で素直な感想を漏らす。喜ぶ綾音によかったと安心した宗助は、チーズケーキを食べ始めた。
濃厚なチーズの味が、珈琲に合っておいしい。それに、フルーツタルトを美味しそうに夢中で食べる綾音は可愛い。
チーズケーキを食べ終えた宗助は、次に手のひらサイズのジャムタルトを手に取る。季節の果物で作ったジャムタルトは酸味があって、さっぱりとして食べやすい。
「そちらのジャムタルトも美味しいですか?」
「ああ、綾音も食べてみないか?」
フルーツタルトを食べ終えた綾音に、宗助はジャムタルトが乗った皿を差し出す。
サクサクしたタルト台に濃厚なカスタードクリーム、季節の果物を贅沢に飾ったフルーツタルトは、同じ季節の果物を使っているジャムタルトよりも味が濃厚だ。口直しにと宗助はジャムタルトを勧めた。
「いいのですか?」
「ああ」
ジャムタルトが気になっていた綾音は、宗助の言葉に甘えることにした。
「では」
あ~んと宗助に向かって、綾音は口を開く。小さな口だな、可愛いな、いやそうじゃないと宗助は真顔で大混乱。
チラチラと綾音と宗助の様子を窺っていた女性客はガン見で、キャッキャッと騒ぐ声が店に響く。さぁ、どうするのと女性客の好奇心が宗助に突き刺さる。
「(何してるの、ソウくん!せっかくのチャンスを無駄にしない!)」
「(頑張ってください!)」
綾音の座る椅子から死角にある席に座る追跡組の三人組、女性陣が特にうるさい。
エルマとアンネ、ニールは、こっそりと綾音に気がつかれないようにと入店。しかも、ケーキと飲み物まで頼んでいる。もう一組は店の外で待機中。現実逃避はこのへんで。
せっかくのチャンスを逃すわけにはいかない、宗助は行動した。
成人した男が恥ずかしそうに覚悟を決めて、年下の女の子の口元にジャムタルトを差し出す。目撃しているニールは何とも言えない気持ち。珈琲と共に焼き菓子を注文したことを後悔した。珈琲だけにしとけばよかった。
「いただきます」
綾音がパクッと一口。宗助の一口なら半分は食べるジャムタルトは、綾音の一口では三分の一ほど、本当に小さな口だなと宗助は素直な感想。
「うん、美味しい」
ペロッと唇についたジャムを舐めて、綾音は満足気に微笑。宗助の手からジャムタルトを手に取る。宗助はされるがまま、そして一言。
「……そうか」
器用にテーブル上のケーキを避けながら、宗助はテーブルに突っ伏した。その耳は真っ赤で限界。
見事にやり切った宗助にエルマとアンネ、女性客は、音のない拍手を送った。




