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魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第三章「崩れていくもの」

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娘よ

夜。

 

眠れなかった。

 

昨日の夕暮れの静けさが——まだ、胸に残っていた。

 

(……外に目がある)

 

(中にも——入ってくるかもしれない)

 

(ガイウスがそう言っていた)

 

廊下に出る。

 

月の光が、差し込んでいた。

 

——

 

その時。

 

気配がした。

 

(……っ)

 

振り返る。

 

暗い廊下の奥に——人影があった。

 

「——!」

 

人影が——動く。

 

速い。

 

(逃げる間が——ない)

 

(ノイエ——!)

 

抜く間も——

 

「——セリスさん!」

 

声がした。

 

エルマの声だった。

 

エルマが——セリスの前に、出た。

 

「エルマさん——!」

 

「下がって——!」

 

エルマが——両手を広げる。

 

セリスを——庇うように。

 

暗殺者が——止まる。

 

一瞬。

 

(……おかしい)

 

(私を狙っているなら——エルマさんを避けて来るはずだ)

 

(なのに)

 

(あの目は——最初から)

 

「……邪魔をするな」

 

低い声。

 

「退け」

 

「嫌よ」

 

エルマが言う。

 

震えていない。

 

「この子には——手を出させない」

 

「……」

 

「エルマさん、だめ——! 退いて——!」

 

「退かない」

 

「でも——!」

 

「退かないわ」

 

エルマが——振り返らずに言う。

 

「この子は——私の娘だから」

 

「……っ」

 

暗殺者が——動いた。

 

迷わなかった。

 

(……やはり)

 

「——エルマさん——!!」

 

音がした。

 

鈍い、重い音が。

 

エルマの身体が——傾く。

 

「——!」

 

セリスが——駆け寄る。

 

暗殺者が——窓から、消えた。

 

「エルマさん——! エルマさん——!!」

 

抱き止める。

 

重い。

 

床に——ゆっくりと、座り込む。

 

「……セリスさん」

 

エルマが言う。

 

「……っ、エルマさん、しっかりして——!」

 

「……大丈夫よ」

 

(……大丈夫じゃない)

 

(全然——大丈夫じゃない)

 

「誰か——! 誰か来て——!!」

 

叫んだ。

 

廊下に——声が響く。

 

でも。

 

夜の屋敷は——静かだった。

 

「……セリスさん」

 

「……っ、はい」

 

「……顔を——見せて」

 

セリスが——エルマを見る。

 

エルマが——セリスを見る。

 

その目が——穏やかだった。

 

「……きれいな顔ね」

 

「そんなこと——今は——!」

 

「きれいよ」

 

エルマが言う。

 

「……最初に会った時から——そう思っていた」

 

「エルマさん——!」

 

「……娘に似ている、と」

 

「……っ」

 

「本物の娘に——似ている、と」

 

エルマの目が——細くなる。

 

「……よかった」

 

「何が——何がよかったんですか——!」

 

「……娘ができて」

 

「……っ、うっ」

 

「本当に——よかった」

 

セリスが——泣いていた。

 

涙が——止まらない。

 

「……エルマさん、だめ——! 行かないで——! 誰か——! 助けて——!!」

 

「……セリスさん」

 

「……っ、はい」

 

「一つだけ——聞いてくれる?」

 

「……っ、はい、はい——!」

 

エルマが——セリスの頬に、手を当てる。

 

冷たかった。

 

でも——温かかった。

 

「……あなたは」

 

「はい」

 

「……私の、娘よ」

 

「……っ」

 

「どこへ行っても——そこは変わらない」

 

「……エルマさん——!」

 

「戦いなさい」

 

エルマが言う。

 

「……復讐じゃなくて」

 

「……っ」

 

「守るために——戦いなさい」

 

「……はい」

 

「約束して」

 

「……約束します——!」

 

「……ありがとう」

 

エルマの目が——閉じかける。

 

「エルマさん——! 目を開けて——!!」

 

「……幸せに」

 

かすかな声で。

 

「……なりなさいね」

 

エルマの手が——セリスの頬から、落ちた。

 

「……エルマさん」

 

返事がなかった。

 

「……エルマさん——!」

 

返事がなかった。

 

「……エルマ、さん——」

 

セリスは——エルマを、抱きしめた。

 

動かなかった。

 

温かさが——少しずつ、消えていく。

 

「……っ、あ、ああ——」

 

声にならない声が——出た。

 

廊下に——一人だった。

 

月の光が、差し込んでいた。

 

静かだった。

 

さっきまで——エルマがいた場所に。

 

今は——セリスだけが、いた。

 

「……っ、うっ、うわあああああ——!!」

 

叫んだ。

 

誰も——来なかった。

 

誰も——いなかった。

 

ただ。

 

月だけが——静かに、照らしていた。

 

——

 

どれほど時間が経ったか。

 

セリスは——エルマを抱いたまま、床に座っていた。

 

涙は——もう、出なかった。

 

出し尽くした。

 

(……エルマさん)

 

(娘よ、と言ってくれた)

 

(帰る場所を——作ってくれた)

 

(なのに)

 

(私が——守れなかった)

 

(……あの時)

 

(暗殺者は——本当に、私を狙っていたのだろうか)

 

(エルマさんが出てきた時)

 

(迷わなかった)

 

(まるで——最初から、そこにいることが分かっていたように)

 

(……分からない)

 

(でも——何かが、引っかかっている)

 

ノイエが、鞘の中で——低く鳴った。

 

何も言わなかった。

 

ただ——鳴った。

 

(……戦いなさい)

 

(復讐じゃなくて)

 

(守るために)

 

(それが——エルマさんの最後の言葉だった)

 

セリスは——ゆっくりと、立ち上がった。

 

エルマを——床に、静かに横たえる。

 

「……行ってきます」

 

かすかな声で。

 

「……必ず——帰ってきます」

 

返事は——なかった。

 

でも。

 

月の光が——少し、揺れた気がした。

 

廊下に——一人で、立っていた。

 

夜が——まだ、続いていた。

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