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魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第三章「崩れていくもの」

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返事

朝。

 

目が覚めた。

 

よく眠れた。

 

昨夜より——頭が、軽かった。

 

(……あっていい)

 

ノイエの言葉が——まだ、残っていた。

 

(帰る場所が——あっていい)

 

——

 

着替える。

 

廊下に出る。

 

エルマの部屋に——向かう。

 

扉の前で——少し、止まる。

 

(……言えるだろうか)

 

(言いたいことが——ちゃんと、言えるだろうか)

 

分からない。

 

でも——来てしまった。

 

来るしか、なかった。

 

扉を、叩く。

 

「……どうぞ」

 

エルマの声がした。

 

開ける。

 

エルマが——窓際で、お茶を飲んでいた。

 

「……セリスさん」

 

少し、驚いた顔をする。

 

「……おはようございます」

 

「おはよう」

 

「……お時間、よろしいですか」

 

「ええ」

 

エルマが、椅子を示す。

 

「座って」

 

セリスが——座る。

 

エルマが、お茶を注ぐ。

 

「はい」

 

「……ありがとうございます」

 

お茶を、受け取る。

 

温かかった。

 

——

 

しばらく。

 

沈黙。

 

エルマは——何も聞かない。

 

ただ、お茶を飲んでいる。

 

(……この人は)

 

(いつも、待っていてくれる)

 

(急かさない)

 

(こちらが話すまで——ずっと、待っている)

 

「……エルマさん」

 

「はい」

 

「答えが——出ました」

 

エルマが——お茶のカップを、そっと置く。

 

「……聞かせてくれる?」

 

「はい」

 

セリスが——エルマを見る。

 

まっすぐ。

 

「……娘に、してください」

 

沈黙。

 

エルマが——止まる。

 

「……本当に?」

 

「はい」

 

「……考えてくれたのね」

 

「……ずっと、考えていました」

 

「そう」

 

エルマが、窓の外を見る。

 

少し——目が、潤んでいる。

 

「……怖くなくなったの?」

 

「なくなっては——いません」

 

セリスが言う。

 

「まだ——怖いです」

 

「……そう」

 

「でも」

 

「でも?」

 

「……怖いままで、いいと思いました」

 

エルマが——セリスを見る。

 

「怖いままで、いい?」

 

「はい」

 

「……失うのが怖い。でも——だから近づかないというのは」

 

「……違う、と思いました」

 

「誰かに——言われたの?」

 

セリスが——少し、間を置く。

 

「……はい」

 

「誰に?」

 

「……信頼している人に」

 

エルマが——少し、笑う。

 

「……いい人ね」

 

「はい」

 

「……その人に、感謝しなければ」

 

「……そうですね」

 

二人が——少し、笑う。

 

「……セリスさん」

 

エルマが言う。

 

「はい」

 

「ありがとう」

 

「……私の方こそ」

 

「受け入れてくれて——ありがとう」

 

エルマが——立ち上がる。

 

セリスの前に来る。

 

そして——抱きしめた。

 

「……っ」

 

「娘よ」

 

エルマが言う。

 

「これから——娘よ」

 

「……はい」

 

「どこへ行っても——ここに帰ってきなさい」

 

「……はい」

 

「必ず——帰ってくるのよ」

 

「……はい」

 

声が——震えた。

 

泣いていた。

 

エルマも——泣いていた。

 

二人で——しばらく、そうしていた。

 

窓の外に——朝の光が、差し込んでいた。

 

——

 

その日の昼。

 

廊下を歩いていると——公爵に、行き会った。

 

「……おはようございます」

 

「うむ」

 

公爵が、通り過ぎようとする。

 

「……あの」

 

セリスが——声をかける。

 

公爵が、立ち止まる。

 

振り返らない。

 

「……よろしく、お願いします」

 

「……うむ」

 

それだけ言った。

 

振り返らないまま——歩いていった。

 

でも。

 

その背中が——少し。

 

ほんのわずかに。

 

緩んだ気がした。

 

(……満足そうな顔)

 

エルマの言葉が——頭をよぎった。

 

(思った通りに物事が進むと——ああいう顔をするから)

 

セリスは——思わず、少し笑った。

 

廊下に——朝の光が、差し込んでいた。

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