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魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第三章「崩れていくもの」

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揺れる

夜。

 

眠れなかった。

 

ベッドの中で——天井を見ていた。

 

(……帰る場所)

 

エルマの言葉が——まだ、頭に残っていた。

 

(帰ってこられる場所を、作りたい)

 

(それだけよ)

 

——

 

帰る場所。

 

そんなものが——あっていいのだろうか。

 

エルデン王国は、もうない。

 

父も、母も、兄弟も——みんな、いない。

 

帰る場所は——とっくに、なくなっていた。

 

(……でも)

 

(エルマさんは言った)

 

(ここに帰ってこられると)

 

——

 

起き上がる。

 

窓の外を見る。

 

夜の庭が、月に照らされていた。

 

静かだった。

 

(……この屋敷は)

 

(不思議な場所だ)

 

来た時は——ただの仮の宿だと思っていた。

 

帝国の敵地の中の、一時的な避難場所。

 

でも——

 

(エルマさんがいる)

 

(公爵がいる)

 

(温かい食事がある)

 

(眠れる場所がある)

 

——

 

(……私は)

 

(今、何をしようとしているのだろう)

 

帝国と戦うために——ここにいる。

 

エルデン王国を取り戻すために——戦い続けている。

 

それは——変わらない。

 

変えるつもりも、ない。

 

(でも)

 

(帰る場所があると——何かが変わるのだろうか)

 

——

 

リオのことを——思う。

 

あの笑顔。

 

「お前が、守りたかった」という最後の言葉。

 

(……リオ)

 

(あなたは——守りたいものがあった)

 

(だから戦えた)

 

(私は——何を守りたいのだろう)

 

エルデン王国を。

 

でも——もうない。

 

残った民を。

 

でも——どこにいるか分からない。

 

(……守りたいものが)

 

(形を失った時)

 

(人はどうやって戦い続けるのだろう)

 

——

 

窓の外の月が——雲に隠れる。

 

暗くなる。

 

また——出てくる。

 

(……エルマさん)

 

(あなたは言った)

 

(娘になってほしいと)

 

(帰る場所を作りたいと)

 

(それは——私のためだと)

 

怖い。

 

また——失うのが。

 

エルマさんのことが好きだから——余計に。

 

近づくほど——失う時の痛みが大きくなる。

 

(……でも)

 

(エルマさんは言っていた)

 

(「好きだから——近づきたくない」)

 

(「それが逆よ」と)

 

(「好きだから——近づきたくないと思うのね」と)

 

そうだ。

 

分かっている。

 

分かっているのに——踏み出せない。

 

——

 

ノイエが、鞘の中で低く鳴った。

 

『……眠れていないんですか』

 

「……うん」

 

『……何を考えているんですか』

 

「……帰る場所のことを」

 

ノイエが、少し黙る。

 

『……私には、分かりません』

 

「何が」

 

『……帰る場所というものが』

 

「……そうね」

 

『……でも』

 

「でも?」

 

『……セリスが欲しいと思うなら』

 

ノイエが、静かに言う。

 

『……あっていいんじゃないですか』

 

セリスが——止まる。

 

(……ノイエ)

 

「……あなたが、そんなことを言うの」

 

『……変ですか』

 

「……変じゃない。ただ——意外で」

 

ノイエが、また黙る。

 

しばらくして。

 

『……了解しました』

 

それだけ言って——また、静かになった。

 

——

 

セリスは——窓の外を、見続けた。

 

月が、庭を照らしている。

 

(……あっていい)

 

(帰る場所が——あっていい)

 

(ノイエがそう言った)

 

答えは——まだ出ない。

 

でも。

 

(少しだけ)

 

(軽くなった気がした)

 

夜が——静かに、更けていった。

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