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選択
夜。
焚き火の音が、小さく弾ける。
ようやく、追手は振り切った。
セリスは座り込み、手にした剣を見つめる。
「……ノイエ・ジール」
『はい』
「……あなたは……何なの?」
沈黙。
だが、今回はすぐに答えなかった。
わずかに、間がある。
『現時点では、剣です』
「……現時点では?」
『それ以上の情報は存在しません』
嘘ではない。
だが、すべてでもない。
そんな感覚。
セリスは目を閉じる。
父の言葉がよぎる。
——生きろ
「……ねえ」
目を開く。
炎の向こう。
暗い夜。
「……あなた……私を守るのよね」
『はい』
即答。
「……じゃあ」
小さく、息を吸う。
「……人も守って」
沈黙。
今までで一番、長い間。
『非合理です』
やはり、そう返ってくる。
それでも、セリスは引かない。
「……それでも」
まっすぐに言う。
「それが……王族だから」
風が、揺れる。
火が、揺れる。
そして——
『……検討します』
初めてだった。
この”存在”が、即答しなかったのは。
セリスは、わずかに笑った。
ほんの少しだけ。
この得体の知れない存在と——
向き合える気がしたから。




