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魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第三章「崩れていくもの」

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最後の夜

その日の夜営は、珍しく穏やかだった。




帝国兵の気配もない。


追われている感覚もない。




ただ——焚き火があって。


全員が、そこにいた。




「……こういう夜、久しぶりだな」




リオが言う。




「そうね」




「何もない夜」




「何もない夜が、一番いいわよ」




「……そうかもな」




リオが、空を見上げる。




「星が多い」




「秋だから」




「秋って、星が多いのか」




「空気が澄んでるから」




「……知らなかった」




リオが「お前って、色々知ってるよな」と言う。




「王女だから」




「星の話まで?」




「父が教えてくれた」




リオが「……そうか」と言う。




「いい父親だったんだな」




「そうよ」




「……うちの親父は、星の話なんてしなかったな」




「どんな人だったの?」




「……口数が少ない人だった。でも——飯だけは、うまかった」




「それは大事ね」




「ああ。毎朝、スープを作ってくれて」




「今は?」




リオが、少し間を置く。




「……帝国が来た時に、逃げ遅れた」




「……そう」




「もう三年前の話だ」




「三年」




「最初は——ずっと怒ってた。帝国が憎くて、憎くて、それだけで動いてた」




「今は?」




リオが、火を見る。




「……今は、少し違う」




「何が違うの?」




「憎いのは、変わらない。でも——それだけじゃない」




「守りたいものが、できたから」




「……お前に言われるまで、分からなかったけどな」




セリスが「私は何も言ってないわよ」と言う。




「言ってた。何度も」




「覚えてない」




「覚えてないのか」




「大事なことは——何度も言うから、覚えてないのよ」




リオが「……変な理屈だな」と言う。




「そういうもの」




リオが、笑う。




本物の笑いだった。






メイラが「お茶ができました」と言う。




「どこで手に入れたの?」




「昨日の集落で少し分けてもらいました」




「……気が利くわね」




「リオさんが寒そうだったので」




リオが「俺は寒くない」と言う。




「寒そうでしたよ」




「……寒くない」




「はい、どうぞ」




メイラが、器を差し出す。




リオが「……ありがとう」と言う。




素直に受け取った。




メイラが、少し目を細める。




(……リオさん)




(最近、ありがとうって言えるようになった)




(最初の頃は、絶対に言わなかったのに)




「メイラ」




「はい?」




「……笑ってるな」




「笑ってないですよ」




「笑ってた」




「……気のせいです」




リオが「なんで笑ってたんだ」と問う。




メイラが少し考えて——




「……リオさんが、変わったなと思って」




「変わった?」




「良い意味で」




リオが「……そうかな」と言う。




「そうですよ」




「……俺には、分からないけど」




「傍から見ると、分かります」




リオが、少し顔を赤くする。




「……うるさい」




「褒めてます」




「うるさい」




セリスが「素直に受け取りなさい」と言う。




「お前まで言うのか」




「言う」




ライラが「うるさい面々ね」と言う。




「ライラまで」




「褒め言葉よ」




ガイウスが何も言わない。




ただ——口の端が、わずかに動いた気がした。






しばらくして。




話が途切れる。




焚き火の音だけが、聞こえる。




「……なあ、セリス」




リオが言う。




「なに?」




「これ、終わったら——どうなるんだろうな」




「これ、って?」




「この旅。帝国に勝ったら」




「……どうなると思う?」




「分からない。だから聞いてる」




セリスが少し考えて——




「守りたい場所が、守られてる世界になると思う」




「……それだけか」




「それだけじゃ、不満?」




「不満じゃない。でも——」




「でも?」




リオが、火を見る。




「……俺、その世界で何してるんだろうな」




「何でもできるわよ」




「何でも、か」




「エリみたいな子が泣かない場所を作る、って言ってたでしょ」




「……ああ」




「それをやればいい」




リオが「……そうだな」と言う。




「できると思う?」




「できる」




「根拠は?」




「あなたが、やろうとするって約束したから」




リオが、少し笑う。




「……それが根拠か」




「十分な根拠よ」




「……お前は、本当に——」




リオが、言いかけて止まる。




「なに?」




「……いや、なんでもない」




「言いかけて止めないでよ」




「なんでもない」




「……リオ」




「なんでもないって言ってるだろ」




リオが、前を向く。




その耳が——わずかに赤かった。




セリスは気づかなかった。




最後まで——気づかなかった。






夜が、深まる。




一人、また一人と眠りにつく。




最後まで起きていたのは——リオだった。




火が、小さくなる。




リオが、全員の顔を見る。




セリス。


メイラ。


ライラ。


ガイウス。


(……いい顔で、寝てるな)



少し離れた木の枝に——白銀の鷲が、止まっていた。



小さく思う。



(こういう顔を——守りたかった)




(眠れる場所。安心できる場所)




(エリみたいな子だけじゃなく)




(みんなに、そういう場所を)




火が、揺れる。




(……できるかな)




(俺に)




(……やってみなければ、分からない)




リオが、少し笑う。




(セリスみたいなことを考えてる)




(うつったな)




火が——静かに、燃えていた。






翌朝。




全員が起き出す。




「……よく眠れた」




メイラが言う。




「そうね」




「久しぶりに、夢を見なかったです」




「いい夢を見なかったの?」




「夢自体を。ぐっすり眠れた証拠だそうです」




「そうね」




リオが「……俺も、久しぶりによく眠れた」と言う。




「珍しいわね」




「ああ。なんか——すっきりした」




リオが、伸びをする。




「今日も行くか」




「そうね」




「……行こう」




全員が立ち上がる。




歩き始める。




その日の朝は——


穏やかで。


明るくて。




何も起きない、普通の朝だった。


その朝が——最後だった。


リオにとって。


普通の朝が。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


ここまでお読みいただきありがとうございます!


星の話。お茶。「これが終わったら」。


リオが言いかけて止めた言葉——


その耳が、赤かった。


セリスは気づかなかった。


最後まで。


そして——引きの一文。


「その朝が——最後だった」


次回、第50話。


覚悟して、読んでください。


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